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第一五四〇話 穴の底、暗闇の奥

「はぁ……なんかどっと疲れたわね……」


 本当にくたびれたような顔でそんなことを言うリリ。

 球形に拵えたアクティビティ風巨大物理障壁でギャーギャー言ったり、蟻地獄の中心から落下したり、ソフィアさんが閉鎖空間でまじかる☆ちぇんじしようとしたりと、目まぐるしく色々あったからね。疲れるのも分からないじゃない。

 して現状はと言えば、依然として球形障壁の中、真っ暗闇を落下している最中であり。念力を使って降下速度を緩やかにし、安全に落ちている最中である。

 聖剣さんが照明役を買って出てくれているため、暗すぎて何も見えない! なんてことはないのだけど、とは言え周りは砂の壁……いや、砂岩かな。大きさにして教室ひとつ分より一回り小さい程度はあるこの障壁が、余裕を持って通れるほどの広い縦穴がどこまでも続いている。不気味なばかりで面白みには掛ける光景だ。

 不思議なことに、私たちと一緒に落ちてきたはずの砂は見当たらず、落下しているのは自分たちだけ。やっぱり尋常ならざる仕組みが稼働しているようだ。


「しかし流石は天使様、リリエラの無茶振りにも難なく応えてしまう!」

「そこに痺れる!」

「憧れるのです!」

「何時にも増して崇拝組が元気だな……」


 落下を止めろと大騒ぎしたリリ。その要望に応えてみせたことが評価されたようだけど、しかし装備の力で念力を操れる私なら、障壁を浮かせるくらい造作もないと分かった上で何とかしろと要求してきたのだから、的確な指示だったと評すことも出来るわけで。私はただそれに従っただけ。威張れるようなことはしていないので、無闇に持ち上げないでいただきたい。

 今朝の戦闘ログ鑑賞が未だに尾を引いているのだろうけれど、崇拝組にはそろそろ落ち着いて欲しいところである。

 って言うかリリの慌てぶりたるや、意外と絶叫系に弱い可能性があったり……? ああいや、そう言えば以前も高いところから落ちるとき騒いでたような気もする。今となってはどんな高所から落ちたって、だいたい無傷で生還できるはずなのだけど……これが苦手意識ってやつか。


「にしても、何時まで経っても地面が見えてこないな。どれだけ深いんだ……」

「飛行能力のない生物が落ちれば、多分一溜まりもないね」

「ひぇ~」

「肝がクールなのぜぇ……」


 足元に目をやれば、聖剣さんの光すらぼやけて届かぬ暗闇が広がっており。そこへ向けてゆっくりと降下していくこの時間は、やはり根源的な恐怖を呼び起こさんとしているかのように感じられた。どことなく夜の学校や病院の長い廊下を彷彿とさせ、背筋がスーッと冷たくなっていく感じ。

 敢えて空気を読まないスイレンさんの演奏が、今はちょっとした救いである。

 篩の迷宮が以前あった場所も、こんなどこまでも続く深い谷の底にあったっけ。うっかり落下したモンスターは実際、地面に叩きつけられた衝撃で黒い塵へ還り、魔石だけを痕跡として残していったんだっけね。

 ここの場合はアレだ、蟻地獄に嵌って抜け出せなかったが最後、今の私たちみたいにこの穴を落下。底に激突して死亡、みたいなことになるんだろう。ってなると、穴底にどのくらい魔石が落ちているかちょっと期待しても良いのかな?

 そんな、不謹慎とも言えるようなことを考えていると、やがて代わり映えのしない景色にもやっとこさ変化が生じたようで。


「お、やっと見えてきたんじゃない?」

「モンスターの気配もある」

「殺意の高い場所パワなぁ!」

「総員、戦闘に備えろ。分かっているとは思うが、油断はするなよ!」

「「了解!」」


 地面との激突に飽き足らず、その上さらに地底に巣食うモンスターが襲いかかってくるという、二段構えの歓迎ときたもんだ。地上に上がるのだって、普通の手段じゃ絶望的。心折設計とはこのことか。もしもここに普通の人が迷い込んだのなら、極めて高い確率で心がポッキリいくことだろう。それ以前に、地底に生きて到れる確率の低さにこそ言及するべきかも知れないけれど。

 さておき、先ずは安全確保が第一である。

 マップを見れば、赤の四つ星クラスのモンスターがチラホラ居るっぽい……そんなものより、闘志を剥き出しにする皆のほうが余程おっかないのだけどね。

 取り敢えず、もう自由落下して大丈夫な高度だろう。ってことで私は一言断った後、球形障壁を解除したのである。



 ★



「殲滅完了」

「ん、敵の気配はもう無い」


 クオさんとオルカが言うのだから間違いないだろう。

 私たちは得物を収めると、改めて辺りの様子を見回した。

 相も変わらず真っ暗闇。高い天井には私たちが降りてきた縦穴があり、その巨大な闇色の円が酷く不気味に感じられ、同時にワクワクもする。肝試しのときの気持ちに近いだろうか。

 遠くにある壁面は、ゴツゴツとした砂岩の壁。縦穴と異なり、より天然物って感じのする雑なトンネルである。それが一方向へまっすぐ続いている。他は行き止まり。壁を攻撃したら隠し通路とか出てこないかな、と軽くひと暴れしてみれば、皆からドン引きされてしまった。何だその癇癪を起こした子を見るような目は。心外なんですけど。ちなみに隠し通路はなかったよ。

 咳払いをして、ざっくりと話を戻す。


「思えば以前の迷宮も、こういう真っ暗な谷底にあったんだっけ」

「ですです!」

「暗いのが好きなんですかね~」

「照らしてあげたいのぜ!」


 暗いのが好きだから暗い場所に迷宮を構えている……? スイレンさんのものすごく大雑把なコメント。しかしなるほど、暗いところに居を構えるのにはそれ相応の理由がある、ってのは尤もな見方かも知れない。

 例えば今しがた襲ってきた、暗闇に適応したモンスターたち。奴らが有利に戦える環境を確保することも、迷宮が暗闇に存在する理由、だったりして。しらんけど。

 或いは暗闇で活動できる能力を試されている、とかそういう可能性も考えられるのかな? その割に私たちが迷宮攻略を行った際には、それに関係する試練なんて特に無かった気がするのだけど。

 もしかして何か見落としをしていたりする……? 「暗闇」が鍵となる、何らかの隠し要素が存在していたりとか。

 まぁ確証のある話でもなし、とりあえず頭の片隅に留めておくくらいでいいか。


 さておき、「照らしてあげたい」という言葉通り、人間松明と化したレッカ。唐突にボッと発火する彼女に、もはや誰も驚かない。心配もしない。

 聖剣さんと明るさを競うレッカ。聖剣さんもムキになって光るものだから、まぁ視界がうるさいと言うか、眩しくて邪魔である。

 ただ、その眩しさが故にモンスターたちも嫌がり近づいてこないっていう、図らずも魔除けのような効果を発揮しており。その様たるや、さながら陽キャに近づけない陰キャの如し。近づこうっていう気持ち自体を削いでる辺り、妙に喩えがしっくり来る。


「前と同じだとすれば、迷宮はこの先か」

「マップにも反応が出ました。一本道のようですね」

「地上では反応がなかったのに、不思議なのです」


 そう、これこそが迷宮発見に手間取った最大の理由と言えるだろう。

 マップで地上をどれだけ調べてみたとて、ついぞ迷宮らしきものは見つけられなかったのだ。

 地上でないのなら地下だろうかと、思い至って調べてみれば、やっとこさこの場所を発見。今に至るってわけだ。

 そういう意味じゃ、マップで簡単に発見されないように、との狙いもあってこんな場所に存在しているのかも知れない。


「では、引き続きモンスターへ警戒しながら進むとしよう」


 イクシスさんの号令に応じ、皆で進行を開始する。

 聖剣さんとレッカが眩しいせいで、影はやたらと濃いけれど。しかしその分視界は良好。

 暗闇に慣れているだけあり、光ってものを嫌うモンスターは確かに一定数居るようだけれど。しかし目の代わりに耳や鼻など別の器官が発達しているモンスター、というのもまた多いようで。

 時折襲ってくるそうした奴らを蹴散らしながら、私たちは迷宮を目指し歩き続けたのである。


 そうして足を動かし続けることしばらく。

 ようやっと私たちは、それと思しき場所へ至るのだった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 流砂の下には広大な迷宮…ちょっとだけロマ○ガ1のカ○ラム砂漠→タラ○ル族の隠れ里の流れを思い出しますね。大地の剣とか落ちてないかな?(無茶振り そういえば前話に蟻地獄が出てました…
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