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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一五二三話 VSガシャドクロ 三

 ガシャドクロの取り巻きである鬼火たち。より攻撃性を増した彼らの背後にて、それらを使役する親玉もまた大きな変化を見せていた。

 広大に設けられたボス部屋を、さも窮屈な空間であるかのように錯覚させる巨体のガシャドクロ。その頭部一つとっても、遠近感を狂わせるほどに巨大であり。

 そんな髑髏にぽっかり設けられた眼窩。揺らめくはそこに怪しく灯る、紫色の炎。その紫炎が突如として大化けしたのである。


 先ずもって、爆炎さながらに吹き上がったそれは、ガシャドクロの天を衝くかの如き咆哮に伴い、勢いよく天井を打ち。

 さもその激しい炎に焦がされたかの如く、眼を中心に広がっていったのは炭のような黒。

 がらんどうだった胸骨の奥、心臓の辺りにも一つ炎の塊が生じたなら、それに続いて様々な関節部が、続々と紫炎を揺らめかせた。

 更に、紫がかった怪しい煙がガシャドクロを取り巻くかのごとく、もくもくと躍り始め。それらはやがて、さも彼の肉体を模すかのようにその身へ纏わりついたのだ。


 数あるモンスターの中でも、これほど分かりやすい変態を遂げるものは珍しい部類に入るだろう。それほどまでに顕著な変貌ぶりであった。

 当然、放つ威圧感というのも先程までの比ではなく。軽く振るわれた腕の一薙ぎも、凄まじい速度と勢いにて床スレスレを通り過ぎ。フゥクスは幾らか慌てた様子でそれを避けた。

 彼女当人よりも、その様子を目の当たりにしたアリエルのほうが、余程肝を冷やした。そんな光景だった。


「これが、奴の本気……!」

「取り巻きの強化も含めると、なかなか面倒な相手だね」


 紫煙纏いし黒のガシャドクロ。それを取り巻くは恐ろしい鬼の顔を模した火の玉たち。

 通常の状態であれば、三つ星半ダンジョンのボスとして妥当な強さだったろう。だが、こうなってしまえば完全に上振れ。ともすればオーバースペックである。対峙するアリエルの顔が強張るのも止むからぬこと。

 冒険者界隈を見渡してみても、三つ星半のダンジョンに挑むものとなれば中級者、その中でも上位に位置するような猛者ということになるのだろうが。それでもこれほどの怪物を相手取っては、恐らく無事に生還できるものなどほんの一握りに違いない。


 ここはミコバト内、エディットダンジョン。即ち、アリエルらが自分たちで設定を組み拵えたダンジョンに他ならない。

 だが、出現するモンスターが最初から分かっていたのでは、挑戦する楽しみもリアリティも損なわれるというので、設定にランダム性を組み込んでしまった。きっとそれが、この事態を招いた原因なのだろう。たまたま悪い結果を引いてしまった。つまりは下振れというやつだ。

 されども、こうしたトラブルは冒険者にとって、決して不幸な事故と切って捨てることが出来ないリアリティを孕んでおり。本当にこういった事が起こり得るのだから困りもの。

 なればこそ、彼女たちの表情に諦めの色はなく。


「お姉ちゃん、マッスン!」

「のだ! 今回は出し惜しみはしないのだ!」

「なら私はサポートだね」


 こんなこともあろうかと、事前の打ち合わせで取り決めがなされていた。

 即ち、ヤバそうならば躊躇わずそのカードを切ろうと。このダンジョンへ潜り始める前、準備の段階から。

 だからフゥクスは、そのスキルを忘れず保有スキル欄に収めてやってきたのだ。


「「まじかる☆ちぇんじ!!」」


 少女二人の重ねた声は、各々が変貌を遂げるためのトリガーワード。

 迫る鬼火たちを力強く弾き退け、展開されしは眩いエフェクト。その奥、構築された謎空間においては眼にも止まらぬファンシーな早着替えが行われていた。

 それを横目に、ミコトは鬼火たちへ漏れ無くちょっかいを掛けていく。ヘイトを集めようというのだ。

 作戦は次の段階へ移行した。彼女たちが変身を選択したのなら、その相手は親玉であるガシャドクロとなるのだろう。

 なれば自身の役割は、その戦いに邪魔が入らぬよう手下を引き付けることにあると。そう理解して、ミコトはここまでと異なる動きを見せ始めたのだ。


 二人と異なり、彼女は今回【まじかる★ちぇんじ】を持ってきてはいない。ゆえに、魔法少女へ変身することは出来ない。

 理由としては様々なれど、簡単に言えば強力すぎるのだ。なにがって、顔面が。無論それ以外も様子がおかしいわけだが。

 ミコトが魔法少女に変身すると、ゲームバランスに狂いが出かねない。鍛えすぎたスキルの弊害、という側面もある。

 よって、ミコトだけは変身することなく脇役に徹する構えと相成ったわけだ。


 弱めの魔法をバカスカと振りまき、片っ端から鬼火たちに喧嘩を売る彼女。

 まんまとそれに釣られて襲いかかる、鬼の形相をした炎たち。始まったのは正しく鬼ごっこ、と言ったところだろうか。

 そんな彼女らを余所に、つつがなく変身は終わり。弾けて消えたエフェクトの中より、飛び出し名乗り口上を終えた魔法少女が二人。


「こっちも本気モードだよ!」

「一気に決めるのだ!」


 まじかる☆すてっきを構え、本気モードのガシャドクロと真正面から対峙を果たす。

 なんともヒロイックであり、胸の熱くなるような絵面である。

 斯くして始まった、激闘。


 先に動いたのはガシャドクロの方だった。まるで羽虫でも叩き落さんとするように、繰り出されたのはすっかり黒く変色した、巨大な手。尾を引くように余韻を残す紫煙は、見事に軌跡を描き残しており。

 されども、そうしたスイングを見事な空中回避にてくぐり抜け、片や光、片や風と雷の魔法を用い、強かな反撃とする魔法少女たち。

 そしてそれを見上げるのは、元気よく地面を駆け回るミコト。


「おぉ、やっぱり魔法少女の戦いは派手で良いなぁ」


 風切り音一つとっても大変な迫力を孕んでおり。そこに様々な戦闘音が激しく複雑に入り乱れ、ボス部屋内に反響するものだから賑やかどころの騒ぎではない。

 ミコトもミコトで、背後からはひっきりなしに高温の紫炎が雨あられと飛んできて、それらを尽く避けながらの逃走を続けているわけだ。見る人によってはこちらも十分に見応えのある絵面と言えるだろう。

 何処にフォーカスしても大変に情報量の多い戦闘の最中、しかしメインを張る人物というのは予め決まっており。


「今回はアリエルちゃんが主役。吾輩は補助に努めるのだ!」

「! ありがとう、フゥクスお姉ちゃん!」


 自らが前に出るのではなく、アリエルが立ち回りやすいよう敵の行動を誘導したり、攻撃を妨害するなどしてサポートに努めるフゥクス。

 そう、今回のダンジョン攻略における趣旨というのは、なにも皆で楽しくクリアを目指す、ということではないのだ。

 アリエルの成長ぶりをミコトに見てもらうこと。それこそが尤も重要であり、主題なのだから。

 であるならば、アリエルこそがメインアタッカーを務めずしてどうするというのか。


「はぁああ!」


 フゥクスによる見事なアシストの恩恵を活かし、ガシャドクロの懐へと潜り込むアリエル。

 するとどうだ、彼女の得物であるステッキに、大きな変化が現れたではないか。

 目ざとくそれを見つけ、感嘆するのはミコト。


「おお、まじかる☆すてっきがツインダガーに……! やっぱりステッキの形状とマスタリースキルには関わりがあるって説、有力なのかも」


 魔法少女の飛行能力を見事に応用し、まるで空中を踏みつけるかのような、瞬発的な動きでもって一気に加速。

 踊るように振るわれたツインダガーの閃きは、しかしここまでに彼女が見せた剣技とは一味違っており。

 その変化にはフゥクスもミコトも、思わず目を丸くしてしまった。


「アリエルちゃんの動き、師匠の動きに重なる部分があるのだ!」

「もう技を盗まれちゃったかぁ」

「まだ見様見真似だけどね!」


 ここまでの道中、アリエルはミコトの動きをしっかりと観察していた。

 ミコトが言うように、マスタリースキルが導く動きを理解してどうこう、というのは当然、現在のアリエルが簡単に真似の出来るようなことではないけれど。

 しかしもっと単純な話として、手本となる彼女の動きを参考にし、自身の至らない部分と照らし合わせて改善へ結びつける、ということであればまだ実現の叶うラインであった。

 まして、魔法少女に変身したことにより、基本スペックの大きく上昇した今ならば尚の事だ。


 とはいえアリエル当人の言うとおり、それはまだ見様見真似の技術。上っ面を真似ただけに過ぎない、ハリボテの技。

 一撃でガシャドクロをどうこう出来るほどの威力はなく、決着にはまだ遠い。

 だが後隙の概念を学んだアリエルは、それを曝すこともなくヒットアンドアウェイ。反撃にもしっかりと警戒して着実にダメージを稼ぎ、ガシャドクロのHPを削り取っていったのである。

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