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第一五一九話 マスタリーへの理解

 廃屋のダンジョン探索も、なんだかんだ順調に進んで既に第五階層。

 そもそもがあまり大規模に設定していないってのもあるのだけど、それにしても攻略ペースはなかなかのものに感じられた。

 アリエルちゃんのような小さな子がPTリーダーを務めているだなんて、とても信じられないようなスピード感である。

 起こり得るトラブルに対しての配慮が行き届いており、何事に対しても卒がない。ガードが堅い。

 加えて自身が未熟であることをきちんと理解しているため、気になったことはどんどん質問したり、情報を求めたりする知識欲も素晴らしい。

 彼女であれば、冒険者資格を得ると同時にメキメキと頭角を現し、あっという間に広く名を知られることになるだろう。


 して、そんな超新星アリエルちゃんは現在、私の戦いぶりを凝視していた。

 ツインダガーを用いた身体の動かし方だったり、得物の振り方や細かなテクニックだったりと、参考にしたい部分は幾らでもあるのだろう。貴重な映像資料を見ているような感覚に近いのかも知れない。

 それにしてもツインダガーを振るのって、バットやラケットのスイングのようにシンプルな基本動作でありながら、そこに極意が秘められているような厳かな感覚もあり。それでいてスタイリッシュなスポーツのように、トリックを習得するような難しさもある。

 って考えると、なかなかおもしろい武器だよね。


 そう言えば私も、ツインダガーと双剣の間くらいのサイズ感をした、風変わりな武器を持っているのだけど。しかも意思付き。何故か影の薄いあの子。

 現在は裏でオレ姉や師匠たちに、魔改造手術を受けている真っ最中だったりする可変武器。

 完成の暁には、たくさん使う機会を設けてあげたいものだ。自称弟子二人が左右一対の得物を携えているわけだしね。私もそれに倣いたいじゃない。


 ってのはまぁさておき。今回も無事にモンスターを倒し、移動を再開する私たち。

 私の戦い方を、戦闘の端々でじーっと観察しているアリエルちゃんだけど、果たして何かしら学び取れているだろうか。気になって問うてみた。


「どうアリエルちゃん? ツインダガーの扱い方、参考になった?」

「んー、難しい……けど参考にはなってる」


 明るくはなく。かと言って険しいわけでもなく。まるでアクセスランプが忙しなく明滅している、動作の重いPCみたいな表情のアリエルちゃん。激しく考え事をしているらしい。

 彼女の頭の中では現在、私の動きと自身の動きを照らし合わせ、目につく違いや違和感、生じた摩擦にどういった理屈をあてがえば納得へ導けるかと。そんな思考をひたすらに続けているのだろう。

 アリエルちゃんだって別に、考えもなく得物を振っているわけではない。マスタリースキルの誘導こそベースにはあるだろうけれど、彼女なりに強力だと思う振り方を研究し、それを身につけているはずだ。

 そこに自分とは違うスタイルを見せられたんじゃ、そりゃ戸惑って当然というもの。まして従来の我流とすり合わせるだなんて、そんなものはベテランだろうと簡単なことじゃないだろう。


 そんな、傍目にも苦戦していることが分かるアリエルちゃんへ、何気ない調子でフゥちゃんが声を掛けた。


「師匠は鍛錬のおかげで、マスタリースキルに対する理解度がとても深いのだ」


 それはアドバイスってほどのことでもない、謂わば場繋ぎのような感覚で放り込まれたトピック。軽口にだって近かったかも知れない。

 ところが、何が琴線に触れたのかふと顔を上げるアリエルちゃん。


「マスタリーへの理解が深いと、なにか良いことがあるの?」

「気になっちゃう感じですか。よろしいならば解説だ」

「師匠、なんだか長くなりそうだから手短にお願いするのだ。簡潔に分かりやすく」

「あ、はい……」


 マスタリースキルを紐解いての鍛錬、っていうのはこの世界基準で言うと、なかなかマニアックな部類の鍛錬にカウントされがちだからね。そこに興味を持ってもらえるというのは地味に嬉しかったりする。

 ただ、説明が長くなると情報量も増えて、ただでさえ考え事に忙しいアリエルちゃんには負担だろうからね。釘を刺された通り、なるべく手短に語るとしよう。


「そもそもマスタリースキルっていうのは、簡単に言うと『基本アクションの詰め合わせ』みたいなスキルのことでね。結局それをどう運用するのかは、スキルを扱う当人次第なのさ」


 一般的にスキルと言えば「アーツスキル」ないしは「マジックアーツスキル」を指すことが殆どで。これらはよくあるゲームで言うところの「技・特技・特殊技・必殺技・魔法」といった概念に当てはめて考えることが出来る。

 対し、マスタリースキルというのは少し特殊で。ゲームで言うと「通常攻撃」とか「移動・回避行動・防御」みたいな、基本アクションをカバーする内容であるように感じられる。

 なればこそ、元インドアタイプの私がモンスターとの戦闘だなんて、びっくりアクションを平然とこなせているわけなのだけど。

 どんなに基本アクションが優れていようと、それを操作するプレイヤーの技量が伴わなくちゃ、キャラクターの性能を引き出すことは出来ない。そんなゲームでの当たり前が、この世界においてはリアルで通用してしまう。


 つまるところ、マスタリースキルこそ他のどのスキルよりも上手に使いこなす必要があるってわけだ。

 まぁ、マスタリーがある程度運動神経だの運動センスだのに働きかけ、基礎スペックの引き上げを行ってくれているって側面もあるのだけど。しかしそれに頼り切るより、やっぱりプレイヤースキルだのキャラコン技術だの、そこら辺を磨いたほうがもっと高みを目指せるよね、っていう。つまりはそういう話。

 で、問題はどうしたらそれが可能なのか、ってところなのだけど。


「マスタリースキルが具体的にどんな動きへ導いてくれるのか、どういうバリエーションがあるのか、どうしてそういった動きが効果的なのか、どう運用するのがより効率的なのか、などなど。マスタリー由来のモーション一つ一つを分析し、研究し、十分に理解しておけば、マスタリースキルが得意な立ち回り、ってのを見出すことも出来る。結果、マスタリーとそれを扱う者の間にシナジーを生じさせることだって可能なんじゃないか、って思って鍛錬し始めたのだけど。理解度が深いってのはその成果ってところかな」

「!」


 物事には往々にして、長所と短所が存在する。あちらを立てればこちらが立たず、なんて言うように、何かを主張したなら賛同と反対の声が生じるのは当たり前なのだ。

 マスタリースキルがもたらす動きの一つ一つだってそう。必ずしも最善手ってわけではない。何ならベストよりベターを突き詰めた動きをこそ、マスタリーくんは好む傾向にあると、私にはそう感じられてならないくらいだ。ああ勿論、スキルレベルによっても違っては来るのだけどね。

 何にせよ、マスタリーくんの導きこそが正解であり、そこに疑問を持つこともない、なんて状態は不健全だ。むしろ「こういう動きのほうが良かったんじゃないか?」って疑問を持った時ほど、マスタリーレベルの経験値は多く蓄積されるように思う。

 逆に言うと、マスタリーが有している動きの引き出しってのをしっかりと把握できれば、その場その場に合った「私なりのベスト」を考える余地が得られるってわけだ。これに大きな意味がある。スキル経験値の獲得はもとより、所謂戦闘IQってのも積極的に磨いていけるしね。


 とかなんとか宣っていると、何やらフゥちゃんからジトッとした目が向けられていることに気づいた。


「アリエルちゃん、アレも言うだけなら簡単なやつなのだ。実際やろうと思うと、さっぱり上手く行かなくて頭を抱えることになるのだ」

「そうなの?」

「先ずもって、自分の意思で体を動かしているのと、マスタリースキルによって体を動かしているのって、しっかり意識しないと区別がつかないものなのだ。それくらいマスタリースキルは、意識と強く結びついてる気がするのだ」

「言われてみたら、確かにそうかも……」


 経験者は語る、というやつだろうか。

 確かにこの話は、フゥちゃんにも語って聞かせる機会はあったし、彼女も彼女なりに参考にしようとしたみたいではあった。何ならチームミコバトメンバーの大半がそうだ。

 がしかし、全員もれなく大苦戦という酷い結果となり。言うほど簡単なことではない、というのは認めざるを得ない部分ではあった。

 それというのも、人の動作ってその多くが経験の蓄積により、半ば自動化されているものであり。よくある喩えで言うのなら、呼吸をしたり立って歩いたりっていうような、ありふれた動作に対していちいち複雑な思考が必要でないのと同じように。

 戦闘における得物の振り方一つ、足運びや体捌き一つとっても、条件反射的無意識で行われていることが殆どなのだ。所謂「身体が覚えてる」って状態に近いだろうか。

 マスタリースキルが意識と強く結びついてるっていうのも、つまりはそういうこと。


「マスタリースキルのやろうとしていることは、自分のやろうとしていること。特に動きの激しい実戦の最中なんかは、いちいちマスタリーの恩恵か自分の意思か、なんて分かったもんじゃないのだ」

「マッスンはそこら辺どうなの?」

「? どうって言われても」


 簡潔に話すつもりが、何だかちょっと入り組んできちゃったな。

 まぁ問われるのなら答えましょう。

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