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第一五一七話 意外と難しいことをやってる

 アリエルちゃんへのレクチャーとして、今回は『後隙』について解説している私。

 ゲームなんかでよくあるような、こちらからの攻撃に対してほとんどリアクションをせず、自分のモーションを優先させてくるような強引な相手。そういうやつと戦う場合はどうしたら良いのか、というアリエルちゃんからの質問に、私は当然の答えで返した。

 即ち、後隙という限られた攻撃タイミングを上手に見出し、そこへ確実に攻撃を叩き込むこと。アクションゲームにおいては基本中の基本である。


 しかし、それはベターでこそあれどもベストに非ず。

 より優れたリターンを期待したいのであれば、もうひと工夫する必要があるだろう。

 それというのが……。


「出が早く、後隙も小さい。そんな攻撃手段ってのを、日頃から探し確保しておくこと。これが重要なんだよ」

「「!」」


 これもまた単純かつ当たり前の話にはなるのだけど。

 時間の限られた攻撃タイミング内で、安全を蔑ろにすること無くより大きなダメージを叩き出したいというのであれば、それに適した攻撃手段を用意しておくのが最も確実と言えるだろう。

 そして、それこそトレーニングモードなんかは、そうした研究を行うのに適した場所だと言える。


 そも、トレーニングモードって人によっては、「何をしていいかよく分かんない場所」なんて印象を持ってることがある。初めて利用する時なんかは特に。

 無抵抗のトレモちゃんを、ひたすらボコボコに出来るサディスティックな空間、なんて見方も出来なくはないわけだし。

 それが使い方を覚えるに連れ、トレモの利便性に気づいていくわけだ。


 殆どのメンバーがそうしているように、技の精度を上げたりだとか、コンボの研究や練習を行うのもいいだろう。立派な基礎トレである。

 けれどそれ以外にも、出が早く、モーションも短く、後隙も小さな技。そういったものの中で、最も火力を出しやすいのはどれだろうか? どれを多く実戦に用いるべきだろうか? と考え、答えを突き詰めるのにもトレモは有用だ。瞬間的に叩き込める、短いコンボを編み出し練習するのも良いだろう。


 そうして見出した、使い勝手の良い技を幾つか持っておくこと。これだけでも戦術は幾分洗練されることになるはず。

 意外なほどに『当てやすい技』というのは大事で、技ごとの累計ダメージを計算してみると、そうした技のダメージ値って実は決して軽視できない数値を叩き出していたりして。

 また、そうした脅威となる小技を相手に警戒させることで、結果的に大技を当てるための導線が作れたりもするわけだ。

 よって火力の高い小技、というのは非常に重要なものであると言える。

 ただ、注意すべき点もあり。


「当然の話ではあるのだけど、敵の次の動き出しまでにこちらの行動が終わらなかった場合、最悪こちらが無防備を曝す形にだってなり得てしまう。だから敵が曝した隙の大きさを直感的に見極め、相応の技を繰り出すこともまた重要なんだ」

「なるほど……」

「道理なのだ」

「まぁどうあれ、ギリギリを攻めるのにはリスクが伴うからね。無理に後隙を全て使い切ろうとなんてしなくて良い。余らせるくらいが丁度いいと思ってさ。その代わり通常の後隙狩りに使う技は、コンパクトかつ高火力であり、敵の動き出しまで確実に収まるものをチョイスしておくべきだろうね」


 警戒するべきは敵の立て直し。ノーリアクション、ないしはリアクションの薄い相手に対する場合、特に気をつけたい部分だ。

 どんなに後隙が小さかろうと、攻撃後に隙が出来てしまうのは相手も自分も同じこと。

 相手の後隙が終わり、次の攻撃が発生した時点で、もしもこちらが後隙を晒しているような状況に陥ってしまうと最悪である。無抵抗に攻撃を受ける他なくなってしまうから。

 これがゲームなら、HPをごそっと持っていかれるだけで済むのだろうけれど。しかし現実においては、それで負傷が生じてしまう。そうなったらもう大変だ。

 動きが鈍ったり、下手をすると立ち上がることすら出来なくなる。その間に敵は、次の攻撃を仕掛けてきて……気づいたら死んでました、なんて事にもなりかねない。いや、本当に。


「理想としては、敵の後隙に対してなるべく『最速の狩り』を成功させること」

「最速……速いほど良いってこと?」

「まぁ、そうだね。単純な話、後隙の長さっていうのは安安と変えられないわけさ。生じるべくして生じてしまう、仕方のない隙だからね、それを強引に潰そうとすれば、どこかしらに無理が生じることになる。何かしら犠牲を支払うことになる」


 アクションゲームは都合上、プレイヤーの攻撃が通りやすいチャンス、ってのを演出する必要がある。だから「そんな弱点丸出しにしないだろ!」なんてツッコみたくなるような作品もよくあるのだけど。

 なればこそ現実においては、攻撃や何かしらアクションを見せた後の隙だなんて、無いに越したことはないのだ。潰せるものは潰すに決まっている。

 しかし、それでいて尚どうしても発生してしまう、小さな綻び。それがつまりは後隙だ。


 ノーリアクションの相手、を想定して色々と語ってはみたけれど、実際問題現実にそんな奴はそう居るもんじゃない。余程重くて頑丈なやつならワンチャンあるだろうけれども、それだって絶対じゃないし。

 それに何より、後隙にこちらが飛び込み、攻撃を加え、そして離脱する。そんな悠長なことを許してくれる手合というのも滅多には居ないだろう。

 後隙をつつけば相手は揺らぐ。これにより、強引に後隙をこじ開けているイメージ、という方が実際は近いように思える。

 んでもって、相手側は必死に「立て直し」を図るのだ。追撃を嫌がり距離を取ろうとしたり、急ぎ防御を固めたり、反撃を試みたりなどなど。

 そうした反応に対して優位性を損なわないためにも、コンパクトかつ高火力の攻撃というのは有用である。


「後隙が発生した瞬間、なるべく早いタイミングでそこにちょっかいを掛けてやれば、相手は大した反応も抵抗もできずに攻撃を受けることになる。その上、強引に隙をなくそうと足掻けば何処かしらに無理が生じる。新たに付け入る隙が出来る。って具合に、攻撃側にとってはそれだけメリットが大きいってわけさ」

「のだぁ」

「それに、早いタイミングで仕掛けられたなら、こっちの行動に僅かなりとも余裕が出来る。後隙狩りを終えて、安全に離脱することが出来る」


 逆に敵の立て直し間際になって、ようやっとちょっかいを掛けることが出来たとすると、後隙狩りはあまり意味をなさないだろう。

 入れられるダメージは小さく、相手の姿勢を崩す効果も然程見込めない。更に追撃を掛ける、なんてのも難しいはず。

 出来ることと言えば、軽いダメージを与えることと、あとはこちらが後隙を狙っているぞ、と相手に警戒させることくらいか。警戒については良し悪しだけども。


「なるほど、だから後隙はなるべく即座に狩ったほうが良いんだ……」

「そう。だけどこれはあくまで理想論であって、なかなか上手くいくようなことじゃないってのは覚えておいて欲しいかな」

「敵だってそんなにバカじゃないのだ。後隙は誰だって小さく済ませようとするのだ」

「! 確かに、それはそうだよね」


 私が述べているのは、あくまで理想の類い。隙の小さい動きなんていうのは、基本と呼ぶことすら憚られるような常識的行動。まともに生存本能が機能しているのなら、好き好んで隙だらけの動きなんかしないわけである。

 それでも大きな隙が出来るのだとしたら、そのリスクを帳消しにするほどヤバい大技がぶっ放されたか、或いは外的要因により発生したか。

 まぁ何にせよ、実戦でお目にかかれる本物の後隙だなんていうのは、一秒にだって満たないものばかり。動きの速い手合であればあるだけ、それは顕著になってくる。以前の好敵手ハードエンドワーウルフさんなんて、それはもう酷いものだった……ずっと俺のターンを地で行くかの如きバカヤロウだったもの。

 だから、実戦で後隙を狩るっていうのはかなりシビアな行為ではある。が、出来ないわけじゃない。

 そして出来さえすれば、こんなに安全なこともない。


「でも待って、なかなか上手くいかないって言う割に、マッスンはさっきから簡単に後隙狩りを成功させてるけど……」

「あれが当たり前だと思ったらダメなのだ。あれを目指すつもりで見るのが良いのだ」

「そっか……」


 そう、アリエルちゃんへレクチャーを行っている現在も、リーパー二体との戦闘は依然継続しており。

 今しがた自身で語った内容を、手ずから実践して見せるかのように後隙ハンターと化している私である。

 次から次に振るわれる大鎌。合間を埋めるように飛んでくる徒手空拳。モンスターらしく噛みつき攻撃だって厭わない我武者羅さが良いね。

 一見すると流れるような攻撃の連続。しかも二体がかりならば尚の事、どうやって反撃に転じれば良いかも分からない、凄まじい猛攻にだって見えるかも知れない。

 が、後隙の概念を念頭に置きよく観察してみれば、付け入る隙も存外見えてくるもので。


 単純な話、重量のある大鎌を振るえば、それだけで相応に大きな隙ができるのは確定的なのだ。ゆえに、カバーするためのフォローアクションが存在する。

 例えばそれは身体を使った直接攻撃だったり、或いは身を翻す回避行動だったり。何ならもう一体がインターセプトし、互いの隙を補い合うような場面も散見される。

 取り付く島もない、と言えばそうなのかも知れない。けど、裏を返すことも出来る。


 フォローが必要だから、フォローに足る動作を持ってきている。そこには必然的に、そういった動きが来るものと予想することが出来るわけだ。

 来ると分かっているものなら、狩りようはある。もしくは妨害する手段だって。

 今回私は、自分の立ち位置だったり、姿勢やモーションを見せることで、却ってフォローアクションが自分たちを不利な状況に陥らせるのではないか、と。そう思わせるように努めた。

 例えば間合い。拳は疎か、蹴りを繰り出そうとギリギリ届かない距離を置けば、攻撃モーションで隙を埋める行為は新たな後隙を曝す結果にしか繋がらない。

 例えば立ち位置。もう一体のインターセプトが難しい、絶妙なポジションをチョイスしたなら、余計な邪魔も入らないだろう。

 例えば姿勢。相手があと隙を晒したその瞬間、間髪入れずに一撃を叩き込めるポーズを取っておくことが出来れば、チャンスをみすみす見逃すような事態も起こりにくい。


 そんな具合に、手練手管を駆使して次々と後隙の気配を感じ取り、誘導工作を行い、アリエルちゃんへお手本を示すべく丁寧に狩る作業を繰り返していた。

 幸か不幸か得物であるダガーは、雑に振るったところでリーパーの骨を安安と砕くことは出来ない。

 そのため後隙を狩るたび、金属と骨のぶつかる音が廃屋に響くわけだ。

 これを繰り返しつつ、更にアドバイスを追加する。


「コツとしては、敵が後隙を晒した時点で、どれだけ自分が有利な姿勢、距離、ポジションに居られるかってところを意識することかな。せっかく相手が隙を見せても、こっちの攻撃が届かないんじゃ意味がないからね」

「ご尤もなのだ」

「だから例えば……」


 単なる体捌き、武器捌きだけでそれらを成すのも勿論良い。むしろコスト面に配慮するならベストとすら言えるだろう。

 けど、不慣れなうちからリスクを背負う行為は、果たして効率的な成長に繋がるのか。そこら辺はまぁ、人によるとしか言えないのだけど。

 敢えてスキルの力に頼ることも、場合によっては効率的な鍛錬に繋がるはずである。スキル自体の鍛錬と考えたなら、一石二鳥ですらある。

 その一例として、今回用いたのは非常に汎用的かつ基礎的なアーツスキルであるところの【パリィ】、の応用なのだけど。


 意識したいのは力加減。それに視野を広く持ち、状況を俯瞰出来ると尚良い。

 相手の動きをしっかりと観察、予測し、大鎌の軌道をダガーで少し弾いてやる。些細だけれど、効果は大きい。

 大鎌の刃は巨大であり。突然予期しない軌道で目の前に現れたなら、驚くのが当たり前。仮に驚かずとも、単純に行動の邪魔になるもの。

 これにより、もう一体のリーパーはほんの僅か、行動阻害の憂き目に遭う。

 そして、大鎌を弾かれたことにより、それを振るっていた側のリーパーは行動に乱れが生じるわけだ。


 ここに、隙がある。

 この隙に対し、最短最速のアプローチを掛けてやる。コンパクトかつ強力な一撃を叩き込んでやれば、相手はただでは済むまい。

 が、これまでそうしてきたように、今回もリーパーを強めに突き飛ばし、仕切り直しへ。

 そして解説。


「パリィなんかは便利だよね。攻撃を弾くっていうのがこの技の基本ではあるのだけど、ちょいと相手の攻撃に干渉して、動作後のポジショニングを自分に有利なものにしてやるってだけでも、恩恵は非常に大きいんだから」

「すごい!」

「アリエルちゃん、アレも結構な達人技なのだ。簡単にできると思っちゃダメなのだ」


 きらり目を輝かせるアリエルちゃんと、何だか擦れた様子のフゥちゃん。きれいな対比である。

 まぁそこら辺は、経験の厚さが物を言うのだろう。フゥちゃんは私の言葉に苦労を読み取って、あっという間にげんなりした顔になったけれど。一方でアリエルちゃんは、素直に感動を示してくれた。素敵なリアクションである。

 さて、あらかた語るべきことは語ったし、もうちょこっとお手本を示しつつ、ぼちぼち締めにしていいよね。


「そうした技術を用いて相手のHPを削り続けていけば、そう時間をかけずに決着まで持っていくことも可能ってわけさ。こんなふうにね」


 これまでのノックバック攻撃を止め、いよいよダメージ重視の攻撃に切り替える私。

 後隙を狩られ、一撃受ける度にみるみる損傷の蓄積していく骨たち。

 今回はちゃんとダガーも用いて、奴らの骨をゴリゴリに削り取っていった。これに関しては、ちょっと特殊な斬撃を用いているため、普通に真似すると刃がダメになってしまう。その点だけは要注意としつつ、手際よく攻撃を畳み掛ける私。

 そして。


「おぉ……」

「見事なお手並みなのだ!」


 なんだかんだ長らくお付き合いいただいたリーパーさん方は、とうとう力尽きて黒い塵へ。勿論トドメはきっちり核を砕き、レアドロップを確定させている。

 後隙狩りに始まり、負傷を拡大させていけば、やがて核を防御するだけの余力も残らなくなるってんだから、実を言うと大分正攻法的な戦い方ではあるのだ。

 アリエルちゃんもフゥちゃんも、どうやら満足してくれたようで良かった良かった。

 そんなこんなで、私によるレクチャーはようやっとの幕引きと相成ったのである。

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