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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一三一話 ぴゃぁぁぁ!

「ハ、ハイエルフ!?」


 ユーグの口から飛び出したのは、ある意味耳馴染みのあるワードだった。

 モチャコたち妖精とはまた異なるコマンドを操るという、ハイエルフ族。

 しかし私にしてみれば、それはファンタジーのド定番であるところのエルフって種族を彷彿とさせる名であるため、つい大げさに驚きの声を上げてしまった。

 そう言えばこの世界にはエルフとかドワーフとか、一応そういう種族もいるらしいのだけれど、実際実物はまだ見たことがなかったりする。

 なので密かに憧れていたんだよね。特にエルフ。

 ただでさえ美形揃いのこの異世界に於いて、美しいと評判のエルフが一体どんな容姿をしているのか……常々、一度はお目にかかりたいと思っていたのだ。

 しかもハイエルフとなると、私が知っているもので言えば高位のエルフがそう呼ばれていたのではなかったか。

 この世界ではどうか知らないけれど、少なくともただのエルフってことはないと思う。

 未知のコマンドにも興味はあるし、純粋にお目にかかりたいって気持ちも強い。

 うーん、いつか会ってみたいなぁ。


「ミコト、ハイエルフ知ってるの?」

「え? ああいや、前世でちょっとね」


 私がハイエルフって言葉に反応を示したことで、モチャコたちが訝しんでしまった。

 私は慌てて弁明する。生前、ファンタジー作品で見聞きした名前だったから驚いたのだと。

 しかしながらこうして考えると不思議と言うか、不自然ではある。

 どうして生前ファンタジー作品に登場したような、それこそ妖精だとかエルフだとか、そういった単語や概念がこの世界に実在しているのか。

 まるでゲームみたいな世界だとは度々感じているのだけれど、それだけじゃ説明のつかないようなことも多い。

 謎は深まるばかりだ……。

 ともあれ、ふわっとモチャコたちには偶然耳馴染みがあったんだよー、と言った説明をしておいた。


「それで話を戻すけど、ハイエルフなら特殊能力を扱うためのコマンドが使えるってことでいいのかな?」

「いやいや、そこまでは言ってないよ。アタシたちとは違うコマンドを使うっていうだけ」

「それが特殊能力に関係しているかは、ちょっと分からないわね」

「そもそも私たちも、ハイエルフ族になんて会ったこともないしねー」

「え、そうなの?」


 曰く、モチャコたちはもともと妖精が多く暮らす、こことは少し違う世界に住んでいたらしい。

 けれど退屈を持て余した彼女らは一念発起して、こっち側の世界でおもちゃ屋さんを営むことにしたそうな。

 ハイエルフについてはその昔、故郷でおじいちゃん妖精に聞いたことがあるだけで、それ以上のことは知らないらしく、会ったことも勿論ないとのこと。


「それじゃぁハイエルフがどこにいるか、とかも知れないの? 出来れば会ってみたかったんだけどなぁ」

「うーん。詳しいことは分からないかな」

「あ、でもでも、ハイエルフは確か人間とも普通に交流が出来るって言ってなかったかしら?」

「でも人間嫌いで、深い森の奥に引きこもってるってー」


 おぉ、何ともエルフっぽい。やっぱりエルフと言ったら森だもんね。

 そう言えばオルカたちが今挑んでるダンジョン、人喰の穴も結構森の奥にあったけど、都合よくあの辺にエルフの集落とかあったりしないかなぁ……まぁ、無いか。少なくとも上空から見た感じじゃ、見当たらなかったし。マップにも映らなかったもん。

 やっぱりもっと深くて綺麗な森とかにいるのかなぁ、エルフ。それにハイエルフ。


「むー、会うのはやっぱり難しそうだね。なら仕方ないか、特殊能力の読み取り、なんとか自力で出来ないか頑張ってみよう」

「え、ミコトそんなこと目論んでたの?」

「まぁね。特殊能力を自分で鑑定できるようになるのも、私の目標だったからさ。そっちは別の方法でずっと訓練してるんだけど、未だに成果が上がらなくってねぇ」


 魔道具作りを習得するのと同様に、私にはもう一つ目標があった。

 それが、素材アイテムの秘めた特殊能力が如何なるものかを、自力で鑑定できるようになるというもの。

 これが可能になれば、素材の厳選を行って好みの特殊能力を付与した装備品を作製出来るようになるのだ。

 武器職人のオレ姉とともに手掛ける私専用の最強武器には、是非ともそうした厳選を行いたいと考えている。

 魔道具作りも特殊能力鑑定も、延いては夢の最強武器を作り上げるために! である。

 ちなみに、鑑定を可能にするための方策としてアイテムストレージの強化に精を出しているわけだが。

 以前よりもアイテムの詳細に意識を配って出し入れしたり管理したり、暇があればアイテムの説明文にひたすら目を通したりして、鑑定機能の強化を狙っているのだけれど、今のところ結果は伴っていない。


 ただ、実はストレージがいつの間にかレベルアップしていたりはした。

 それはもうひたすら出し入れしたりしてるからね。いい加減上がってないとおかしいってなものだけど、しかしながらレベルアップに伴い追加された機能はと言うと。

 何とまさかの【生物収納】という、生きたものをストレージ内に入れられる機能だった。

 とは言ってもMNDによる抵抗の対象であるため、例えばオルカたちをストレージに入れるには当人たちの合意が必要になるし、無理やり入れるのなら抵抗できないほど弱らせるか、MPを削り切る必要がある。

 モンスターをゲットするには弱らせなくちゃならない、っていうのと一緒だ。……いや、一緒かは知らないけど。

 ともかく、そういった思いがけない機能が追加されただけで、アイテムに関する説明に関しては相変わらず簡素で淡白な内容しか表示されないのが現状である。


「へぇ、そのストレージっていうの面白そうだね。アタシも入ってみたい!」

「べつにそれは構わないけど、言うほど面白くはないと思うよ? ストレージの中って時間が止まってるから、出入りしても実感が無いらしいし」

「既に実験済みなのね……」

「さすが冒険者、ってことかなー」


 とまぁ話はあっちこっちにフラフラしたけれど、結局特殊能力の読み取りに関しては自力で頑張ることにした。

 魔法やスキルに使う魔力と違って、コマンドを書き込むためには特殊な魔力が必要なことが分かっている。

 それを生成する過程で私は、魔力にも“質”とか“種類”なんかが存在していることを理解した。

 だから今後は地道に、いろんな質や種類の魔力を生成してみて、どうにかこうにか特殊能力と互換性のある魔力ってものを見つけ出したいと思っている。

 なんだか途方も無い作業のような気がするけど、出来ることからやっていかないとね。


 そんなこんなでまた課題が増えてしまったことに、後になって軽く頭を抱えはしたけれど、コマンド習得作業も順調にこなしながら夕方まで頑張った。



 ★



 次の日。

 時刻は昼下がり。お腹も膨れて眠くなる時間帯だ。太陽は燦々と眩しく、最近は汗ばむほどの気温が続いている。

 黒のフードと仮面を常に着用している私なんかは、常時体温調節の魔法をこっそり自身にかけ続けていなければ日射病だか熱中症だかをやらかしかねないほどの暑さだ。夏だこれ、夏が来たんだ。

 おかげでこんな暑苦しい格好をしている私は、外を歩いてもギルドの中でも浮いている。

 かと言って仮面を外すわけにも行かないし、困ったものである。


 さて、私は現在冒険者ギルドを訪れているわけだけれど。

 用件はオルカたちから預かってきた素材の売却である。買取カウンターにて、常駐依頼リストにある素材を引き取って貰い、お金をいただく。

 買取おじさんはストレージの存在を知っているため、奥の倉庫でぺぺっと溜め込んだドロップ品を吐き出せば、手際よく査定を進めてくれるのだ。話が楽でいつも助かっている。

 そうして売却代金を受け取って、さぁギルドを後にしようとした、その時だった。


 ガシッと、不意に誰かの手が私の肩を掴んだのである。

 いや、掴んだと言うほど物騒なことはない。本当は多分、ポンと手を置いただけのような感触だった。

 心眼もまた、それを肯定している。

 けれど触れられた瞬間感じたこの、圧倒的な威圧感と言うか、迫力と言うか、得も言われぬ圧力は何だ。


「ぴゃぁぁああっ!?」

「え、おっと、すまない。驚かせたかな?」


 たまらず、私は大きな声を上げて飛び退いてしまった。

 我ながら、ぴゃぁーって……まぁいいや。

 慌てて振り向くとそこには、なるべく避けるように行動していた相手の姿があった。

 そう、かつてこの世界を救ったと言われる、生ける伝説。

 そして友人であり仲間でもあるクラウの、因縁の相手!

 未だにどういう因縁があるのかは聞かされていないのだけれど、何にせよ私にとっては要注意人物であるところの、勇者その人であった。


 私が奇声を発したことで、一瞬ギルド内の視線を集めてしまったけれど、勇者がポリポリと後頭部を掻きながら苦笑してみせると、それだけで視線は散った。これが人徳!

 しかし私だけは気を許すこともなく、緊張で身を固くする。

 私に話しかけてきたということは、やっぱりクラウ関連のことだよね? どうしよう、何を言われるんだろう。正直おっかないんですけど!


 と、不意に勇者が私の顔(仮面)を改めて見て、一つ首を傾げた。


「おや……ひょんなことを訊くようだけれど、キミは……人間か?」

「……そう、見えませんか?」

「ふむ……」


 な、何を言い出すんだこの人。っていうか私からしたら、貴女のほうがよっぽど人間とは信じられないんですけど!

 確か普通の人のステータス値って、基本的に何れかの能力値が50もあればとてつもなく高いとされていて、100に届けば人外扱いされる。ここはそういう世界だったはずだよね。

 装備やスキルの力を借りることで、一応私も100を突破するすべは持っているけど、絶対この勇者それどころの話じゃないよねこれ。

 こうして対峙してみて改めて感じる。

 この人、人間の領域を完全に超越してる。そりゃ世界も救えるはずだ。


 私が背筋を冷たくして身構えていると、少し訝しむように首をひねっていた勇者がまぁ良いかと話を変えてきた。


「ところでキミに一つ訊きたいことがあるのだけれど、いいかな? 実はクラウというぼ」

「ああごめんなさい、ちょっと私急いでて、この後行くところがあるんですよ。質問なら他の人を当たってください! 失礼します!」


 私は嘘が下手だ。苦手と言うか、下手だ。その自覚がある。

 なので、変なボロを出す前にさっさと退散することにした。

 勇者の返事も聞かず、私は逃げるようにギルドを飛び出すと、全身全霊を込めて仮面の力で気配を遮断。

 猛スピードで物陰に身を潜めると、そのままおもちゃ屋さんの裏までワープで飛んだ。


 焦った。こんなに焦ったのは何時ぶりだろうか。

 私はしきりに背後を確認し、ホラー映画よろしく振り返ったらそこに彼女が立っている、なんてことがないだろうかと前後ろ前と素早く前後確認をする。

 だってほら、振り返って安心してから正面に奴が! っていうのは定番だからね。背後を確認しただけじゃ安心できないよ。


 どうやら勇者がついてきた、なんてことはなかったらしく、マップウィンドウを確認してみると彼女の反応は未だギルドの中にあった。

 ホッと安堵のため息を深くつき、一先ず彼女にマーカーをくっつけておく。これでうっかり遭遇するようなハプニングを避けられるはずだ。っていうかもっと早くそうしておくべきだった。

 私はなんだかどっと肩に乗っかった疲労感を引きずりながら、おもちゃ屋さんの裏口をいつものように潜った。


「はぁ……正面からぶつかったらどうにもならない相手に対峙するって、こんなにおっかないものなんだな……」


 ましてクラウのことを隠しているという後ろめたさがあるため、尚の事だ。

 おいコノヤロー、喋らないとぶっ飛ばすぞ! なんて胸ぐらをつかまれたら、私なんてひとたまりもない。

 二度と遭遇しないように気をつけなければ。まぁ私みたいなモブのことなんて、実際既に彼女の記憶から消え去っている可能性もあるのだし、あまり深刻に考えても仕方ない。


 気を取り直して午後も修行に励むのだ!


 ……なんて楽観的に考えていた、その次の日。

 宿の前に勇者が来ていた。

 この世界に来て、もしかしたら一番の恐怖を味わった瞬間かも知れない。

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