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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一二五話 模擬戦決着

 ひゅるりと一陣の風が雄大な高原の草を撫で、さながら波立ったかのような光景を作り出す。

 それを尻目に私は、緊張感を持って三人と対峙していた。

 かなりの魔法を浴びせたにもかかわらず、彼女らはすっかりダメージを全快してしまっており、状況は完全に振り出し。

 いや、クラウの闘志に火をつけてしまった分、気圧されている。気持ちをしっかり持って対応しなくてはならない。

 幸い私の方も未だダメージはなく、消費したMPだって補充済みだ。実質いくらだってMPは回復できるため、一番の問題はゴーレムの損傷となる。

 何せ的が大きいので、一度捉えられてしまうと一方的に勝負を決められる恐れがある。

 体捌きと魔法での援護で上手く立ち回らなければ、一瞬で持っていかれかねない。


 っていうか何より困るのは、私が勝利する条件が困難なこと。

 どうしたら彼女らを降参に追い込むことが出来るというのか。負けを認めさせるというのは、いかにも難しい。

 それにこれ以上えげつない魔法を使ったのでは、本当に大怪我をさせかねない。レギュレーションは私が勝手に意識していることではあるのだけれど、それを破るつもりはないのだ。

 致死性の低い攻撃で、彼女たちを降参に追い込む……こうなってはもう、アレしか無いか。


「【スリープ】」

「「「‼」」」


 オルカたち三人目がけ、私は催眠魔法を放った。

 当然MNDにてレジストがかかるが、レジストを行えば僅かながらMPを消耗することになる。

 また、集中を乱せれば強引に眠りに落とすことも出来るだろう。

 それをすぐに察知した三人は、私が勝負に出たことを悟ってすぐさま動き出す。

 ゴーレムめがけて攻撃を仕掛けていった。

 が、そうはさせない。スキルというのは強力だが、発動を妨害しさえすれば余計な危機に瀕することもないのだ。

 私は彼女らの先手を打って魔法を仕掛けた。

 ピットフォール。既に見せた手だが、かと言って対応は必須。何せいきなり足場が消失するのである。警戒していようと、落下を免れるには一手そこに割く必要が出てくる。


「くっ」


 案の定火のついていたクラウも、舌打ちしながら盾を拡大し、とっさに足場とした。

 そこへすかさずゴーレムが襲いかかる。が、心眼がクラウの自信に満ちた攻撃意思を感知。彼女の構えた剣が輝きを放っていることに危機感を懐き、狙いを変えることに。


「【魔弾】!」


 とっさに私が放ったのは、いわゆる無属性魔法に類する魔力で作った弾丸だ。

 空気を固めたわけでもなければ、鉱石か何かというわけでもなく、強いて言うなら魔力物質とでもいうべき謎の材質で出来た弾丸。それを撃ち出すのが魔弾という魔法なのだけれど、普通に撃ったのではまぁ威力はたかが知れている。

 精々スリングショットで小石を打ち出した程度の威力くらいか。鍛えれば強力になるみたいだけど、広く浅く魔法を使う私にそれは望むべくもない。

 魔弾の利点と言えば、魔力由来の弾なので透明であることか。目を凝らしても見えない。何故なら光を綺麗に透過するから。

 とは言え、このタイミングで私がそんな豆鉄砲を頑丈なクラウに向けて無駄撃ちするはずもなく。無論狙いはある。

 クラウは不可視の弾丸を、しかし持ち前の鋭さで持ってカンカンと輝く剣で弾いてみせた。しめしめ。


「【アトラクト】」


 次の魔法を私が発動すると、途端にクラウが慌て始める。

 無理もない。今彼女が持つその剣は、彼女の手を離れて私のもとへ飛んで来ようとしているのだから。

 アトラクトは文字通り、物を引き寄せる魔法だ。しかしただ使ったのでは、何でもかんでも引き寄せる危ない魔法になってしまう。何せ重力魔法の一種だから。

 そこで用いるのが、雷魔法の【マーキング】だ。これは接触した対象に特殊な魔力を纏わせ、私の魔法の目印にするというマジックアーツ。

 これを魔弾と組み合わせて、クラウの剣をマークしたのだ。魔弾は無属性魔法なので、他の属性魔法と組合せできるという強みがある。とても自由度の高いマジックアーツだ。

 斯くしてクラウは、剣を手放すまいと踏ん張っているせいでろくに剣を振れない状況に陥ってしまった。面白いほど焦っている。

 そこへ容赦なく突っ込むゴーレム。繰り出した拳に対し、クラウは歯噛みして迎撃を諦めた。

 器用に足場にしていた盾を、ジャンプと同時に蹴り上げ、体の前に持ってくる。さながらスケボー乗りのトリックを思わせる動きだった。

 宙に浮いた彼女の体は、引っ張られる剣に逆らえず奇妙な横移動を見せる。が、それはゴーレムの迫る方向への移動。私はゴーレムの後方に位置取っているので当然ではある。

 正面衝突の形でクラウはゴーレムの拳を盾で受けることになった。

 勢いよく飛び出した無数の棘が、ゴーレムの腕を貫くがなんのその。それより何より、彼女を襲った衝撃のほうが甚大だった。

 剣を手放さなかった彼女は、思ったほど飛ばされることこそ無かったけれど、ダメージは決して小さくないだろう。何せ踏ん張りの利かない空中で攻撃を受けたため、威力を受け流すことが出来なかったはずだ。

 私はアトラクトの魔法を切り、すぐさまターゲットを他の二人へ移す。少しクラウ一人に気を取られすぎただろうか。


「ぐぬっ」


 案の定オルカもココロちゃんも動いていた。

 拳を振り抜いて一瞬無防備を晒しているゴーレムめがけて、凄まじい速度の突進を仕掛けるココロちゃん。


「【魔弾】!」

「させない!」


 これは拙いと放った魔弾は、しかしオルカが射線上に割って入り、苦無で打ち落としてしまった。とんでもない芸当である。

 なんて驚いてる場合じゃない。私の前には、オルカが立ち塞がったのだ。


「ミコトの魔法はあまりに厄介。私が止める!」

「ぐっ、【ゼログラビティ】!」

「!」


 ぽすん、と。ココロちゃん渾身のタックルは、しかしゴーレムに何の衝撃ももたらすことはなかった。

 ゼログラビティは、普通に使えば重力を無くす魔法だ。つまりは無重力状態を作り出すことが出来る。

 が、これを防御に用いれば、相手の繰り出した攻撃の『重さ』をゼロにする効果がある。

 結果、ココロちゃんのタックルは赤子のそれよりも無力なものとなった。

 しかし当然消耗も大きく、流石にMPの補充が必要だが、ここに来てオルカが私をマークに掛かってきた。

 隙を見せられないほどの距離感だ。クラウに意識が向いていた間に接近を許してしまったらしい。

 相対距離はおおよそ八メートルほど。オルカなら一瞬で詰めてくる。裏技を使用するのには、一旦無防備な装備に切り替えて、MP回復薬を僅かに服用。装備を元に戻すという三つのステップを経る必要がある。どうしたって現状ではリスクが大きすぎた。


 ルールでは、ゴーレムが倒されればオルカたちの勝利。

 しかし私の行動を妨害してはいけないなんて決まりはないし、何なら私へ攻撃を仕掛けたってルールの内なのだ。

 だが、そうであれば私だって、黙って攻撃を受けたりはしない。自衛はちゃんとする。


「【換装】」

「くっ……」


 普段から着けている狐面を装備。以前よりも一層装備の特殊能力を引き出せるようになった私は、全力で仮面の力を用いて気配を消す。

 探知に長けたオルカの目すらかいくぐるほどの隠密性能を発揮し、私はその場から移動しようとした。

 が。


「無駄!」

「っ!?」


 どうやら、姿は捉えられずとも環境に及ぼす僅かな変化は見つけられてしまうらしい。

 私の足元に、鋭く苦無が突き刺さった。とっさに避けはしたが、そのせいで動きがバレてしまう。とんでもない洞察力だ。

 他方でゴーレムもピンチである。

 タックルこそ無効化したものの、ココロちゃんの攻撃はそれで終わったりしない。

 即座に黒金棒で次々に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 ゴーレムはそれを体捌きでもって回避するが、ゴーレムの身軽な動きを支えているのは私の重力魔法。

 動けば動くだけ私のMPはゴリゴリ削られていき、程なくして底をついてしまうだろう。


「ええい、かくなる上は!」


 このままではジリ貧と判断し、私はたまらず最強装備へと換装を行った。

 そうして黒太刀でもってオルカへと襲いかかる。狙いは彼女のMPを吸収することだ。

 心眼を用いれば、いかなオルカとて回避は不可能。いや、可能ではあるのだけれど、先読みで詰ませることが出来るのだ。一手目を見切って避けたところで、二手で大体命中。三手あれば必中だ。

 それに依然として、スリープの魔法は継続して仕掛けている。MPを削りきれば彼女らを眠りに落とすことが出来る。

 私が直接手を出すつもりは正直なかったのだけれど、自衛とあらば仕方がない。


「そのMPもらった!」

「なっ、くぅ」


 大事なオルカを自らの手で傷つける。吐き気を催す程の心理的抵抗を堪え、私はオルカからMPを削りきった。

 正直心眼がなければ当たる気がしないような回避力だった。でも、これでやっと一人脱落だ。

 オルカは眠りに落ち、ゴーレムは未だ健在。防戦一方なれど、ココロちゃんの攻撃をなんとかいなし続けている。

 何気に一撃必殺級のスキルを繰り出されたりもしていたが、発動を予見できるのなら回避も間に合う。

 結果として高原にはボコボコとクレーターが量産されてしまっているが、辛うじてゴーレムはまだ無事だ。


 私はすぐさま裏技を駆使してMPを補充。血まみれのオルカを最優先で癒やしつつ、勝負を決めに掛かった。

 黒太刀を解禁してしまったからには、このまま行かせてもらう。

 狙いは魔法でダメージを与えつつ、黒太刀の効果転用でMP吸収。抵抗力を奪ってのスリープアウトだ。

 なんて思っていると、突如として驚くべき事態が起こった。


 それはココロちゃんの後方。

 そう、殴り飛ばされたクラウのいる方からだ。と言うか、その当人によるもので間違いない。

 突如として輝く光の柱が天へと立ち上り、それが徐に、ゆっくりと、ゴーレムめがけて倒れてくるではないか。

 その光には見覚えがあった。

 彼女がついぞ手放すこと無く握っていたあの剣が、正にそれと同じ青色に輝いていたのだ。

 ゆえに悟った。あれは、クラウの放つ大技に違いないと。

 彼女もまた、その一撃で勝負を決めようというのだ。


「それにしても、大袈裟すぎない!?」


 全長何百メートルあるのだというほどの光の柱。幅も相当に広い。範囲攻撃なんて生易しいレベルじゃないだろう。

 これにはチームメイトのココロちゃんも慌てている。これでは巻き添え待ったなしではないかと。

 柱の発生源であるところのクラウを遠目ながらに観察してみれば、心眼を通して完全にハイになっているらしいことが伝わってきた。

 これはダメだ、何も考えてない一撃だ。振り下ろされれば、みんな仲良く即死級のダメージを負うことになる。


「だけど、これで詰みだね」


 私は黒太刀を一振りした。

 スペースゲートの向こうにいるクラウを斬りつけたのである。

 あれだけの大技だ。消費するMPも膨大だっただろう。浅い一太刀で彼女のMPは底を尽き、即座に眠りへ落ちた。

 光の柱はたちまちの内に、何事もなかったかのように霧散して消えてしまった。

 これにて二人目の脱落である。


 そうして最後に残ったココロちゃん。彼女はヒーラーなだけあってMP量もかなり多いのだが、ゴーレムと私の魔法を駆使して削りきり、ようやっと三人とも眠りに落とすことが出来た。

 彼女の抵抗も最後まで恐ろしいもので、何せ一撃があまりに重いため、ほんの一手仕損じればゴーレムを一瞬で破壊される可能性があったのだ。

 動きのキレも以前のそれとは比べ物にならないレベルまで鍛えられており、焦りを表情に滲ませながらも、体を動かすことが楽しいと言わんばかりの大胆な動きに、終始私は翻弄されっぱなしだった。

 肝を冷やしながらの攻略となったが、しかしどうにか無事にやり遂げることが出来た。

 単体攻撃は捌けても、範囲攻撃となればダメージを避けられず、回復したところで狙いはMPを削り切ること。

 結果として持久戦の末にスリープへの抵抗が出来ないほどまでMPを消耗させることに成功したのである。


 これにて、私の勝利が確定した。

 だが、どうにもモヤモヤとした気持ちが胸の辺りに溜まって、喜ぶ気にはなれない。

 黒太刀を使ってのMP削りだなんて、アイテムの性能に頼り切った戦い方をしてしまったせいだろうか。

 黒太刀がなければ、間違いなく負けていたのは私だった。

 確かに使用を控えた魔法もあったけれど、それは禁じ手だ。使える手札を切りまくった結果がこれでは、やっぱり胸を張る気にはなれない。


「これじゃぁ、強くなっただなんて言えないな……」


 斯くして模擬戦の決着はなされ、三人が目を覚ますまで私はその場で立ち尽くしていた。

 今更になって、オルカやクラウを斬った感触が手に蘇り、身が竦んで動けなかったのだ。

 もうこういうことはしたくないなと、心底思った。

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