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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一二三話 模擬戦

 深い谷は一日の大部分が薄暗いままであり、現在は限られた日照時間内。

 頭上から降り注ぐ日光は、キラキラと渓流を輝かせており、普段との対比からこの光景がひどく尊いもののように思えた。

 こんなにも穏やかな景色の中で、何が悲しくて仲間と戦わねばならないというのか。

 などと内心でどんよりしながら、私はスキルで操作するゴーレムを探していた。

 探すとは言っても、マップウィンドウを確認すればすぐに目星くらいつくのだけれど。


「そう言えば、試そうと思ったまま放置してたっけね。ゴーレムへのプレイアブル」

「なら丁度いいじゃないですかミコト様! ココロたちを相手に、思う存分テストなさってください!」

「ミコトが操るゴーレムがどんな動きを見せるのか、すごく楽しみ……!」

「ああ、血が騒いで仕方がないな。早くやろうミコト!」

「クラウのバトルジャンキーが、オルカとココロちゃんに伝染してる気がするんですけど!」


 そうか、これが教育に良くないっていうやつか。

 二人ともしばらくクラウと一緒に修行していたものだから、すっかり戦闘大好きクラウちゃんの嗜好が染み付いてしまって、オラわくわくすっぞ状態になっちゃってる。

 半端な戦い方をしたんじゃ、絶対落胆されちゃうだろうなぁ。

 とは思うものの、無理ゲーを幾つもクリアしてきた私にだって、出来ることと出来ないことがある。

 プレイアブルのスキル効果を用いたところで、別にゴーレムのスペックが上昇するわけでもないのだ。

 であれば、どんな動きをしてみせたところで彼女らの相手にはならないと思うんだけどなぁ……。


「期待してもらって悪いんだけど、私が動かしたからって大したことはないと思うよ……?」

「あ、ミコト様! このゴーレムなんてどうですか? 場所も近いですよ!」

「え、あ、はい。じゃぁそれで」

「よし、すぐ捕まえに行こう」

「野良ゴーレムの一体くらい、今の私たちなら瞬殺だからな! だが今回は捕獲だぞ、うっかり倒すんじゃないぞ?」


 無理だ……説得じゃ彼女たちは止まりそうにない。っていうか、今更やめようなんて無理やり駄々をこねて、彼女らががっかりするのもそれはそれで嫌だ。

 結局私は抵抗することを諦め、おとなしく模擬戦の準備に加勢することとした。

 といっても、先行して捕らえに行った三人の手でゴーレムは瞬く間に叩き伏せられ、私が追いつく頃にはプレイアブルを掛ける準備万端という状態だったのだけれど。

 恐々としながら、私は早速ゴーレムへ向けてプレイアブルのスキルを発動する。

 大量のMPと引き換えに発動したそれは、ゴーレムのコントロールをあっさりと奪ってしまった。

 もしかしてMNDがそれほど高くないのだろうか? 或いは、操作系スキルに対する耐性が低いとか?

 まぁ何にせよ、ゴーレムの操作は成立し、私の意のままに動くようになった。

 するとなんだろう、この、巨大ロボットを自在に動かしているという実感が湧くに連れて、滾ってくる胸の疼きは。

 久々に私の中の中二魂に薪が焚べられたかのような、そんな熱さを感じる。


 さっきまでの控えめも何処へやら。これで無様を晒しては、それこそ私のプライドに傷がつくというものだ。

 気持ちをバッチリ入れ替えた私は、プレイアブルの成功を三人に告げると、ゴーレムの状態を確認しに入った。

 実はプレイアブルのスキルを駆使して、実際に戦闘を行うというのは何気にこれが初めてだったりする。

 と言うか、これまでは相手の動きを封じるって用途にしか用いることがなかったため、対象の体を私の意思でちゃんと操作すること自体初めてなのだ。

 果たしてこんな初心者丸出しで、一体どこまで動けるものか。

 一先ずスペックの確認は入念に行った。操作感覚もしっかりチェックする。

 操作に関しては、コントローラーを操作する感じ……ではなく、なんというか……私の体がもう一個あるような、そんな不思議な感じがする。

 多分本来なら、私本体は身動きせず、対象の操作に全意識を回すようなスキルなのだろう。

 けれど私はマルチタスクが得意だ。この世界にやってきてからというもの、恐ろしいほど磨きがかかっていると言ってもいい。

 だから自分の体を動かしながらも、問題なくゴーレムを操作することができそうだ。

 まぁ尤も、今回戦うのはゴーレムであって、私本体は手出ししないんだけどね。


「しかし、かなり細かく動かせるんだな……まさか痛みのフィードバックとかこないよね? それは困るんだけど……いや、ゴーレムに痛覚はないか。なら多分大丈夫」


 更に気づいたこととしては、少し意識を傾ければゴーレムの持つ視覚情報すらキャッチできるという驚きの仕様。

 主観視点で操作を行えば、気分は正に巨大ロボを操るヒロイン!

 まぁ、ロボットと言うにはえらく岩岩しいフォルムだけれどね。

 ともあれ、各種動作確認も終え、私はいよいよオルカたちへ準備完了を告げた。

 すると彼女らは待ってましたとばかりにスタンバイに入る。

 私はゴーレムの後ろに控え、対面する形でオルカたち三人と三〇メートルほど間隔を空けて対峙している。

 渓流の音がやけにうるさく聞こえるほど、ピンと張り詰めた空気が漂い始め、私は思わずごくりと唾を飲み込んだ。

 彼女たち三人を相手にするのなんて、これが初めてなのだ。正直おっかないが、少しだけワクワクもする。

 私にとってもこれは、良い力試しになるかも知れない。

 ゴーレムを操り、軽くファイティングポーズを取る。

 一つ息をつき、私は声を張った。


「よし、いつでも仕掛けてきていいよ!」


 そう宣言し、一拍の後動きがあった。模擬戦の開始だ。


 まず飛び出したのは、いつもどおりオルカ。

 なまじ強力な切断技があると知っているため、正直に言って一番の警戒対象だ。

 この図体では苦無の回避なんてほぼ不可能。弱点があるとするなら、苦無一本の質量では作れる輪っかの大きさに限界があるということか。だから体の太い部分で受ければ、苦無が輪を作れず切断には至れないはず。

 輪っかを完成させず途中で無理やり板化させようとしたところで、多分幾らか食い込む程度の被害で済むだろうと予測している。

 だからオルカの投擲する苦無には、とにかく注意を払っておかなければならない。

 なんて思っている矢先に、早速数本のそれが放たれた。が、心眼によってそのタイミングも角度も予測できている。

 私は動きの重いゴーレムを、しかし最速最小最適の動きで動かし、安全な部位で受けることに成功した。

 肘を狙ったものは避け、肩を狙ったものは胸で受け、膝を狙ったものも避けた。

 初手は凌いだものの、オルカの動向には全く油断ならない。今のは小手調べだとして、恐らく隙を見せればすぐにでも撃ってくるし、隙を作るためにだって撃ってくるだろう。本当に厄介な武器だ。


 なんてオルカに気を取られている内に、ココロちゃんが突っ込んで来ていた。既に足元まで迫っている彼女。

 更には、クラウが飛び上がってゴーレムの目の前に。嫌な位置取りだ。足元に注意を払えば、クラウが何か仕掛けてくるのだろう。かと言って最大火力を誇るココロちゃんへの対応を怠っては一気に流れを持っていかれる。

 更にこのタイミングで、オルカが第二射を投擲。恐ろしい三段構えである。

 が、この手は読めていた。心眼に頼らずとも、そも私は先読みを得意とするタイプのプレイヤーだからね。


「凌いで見せる!」


 まず中空のクラウへは、黒盾を刺激せぬよう素早く且つ繊細に掌を合わせ、足元へ落とした。ココロちゃんのスイングに合わせ、ささやかな妨害工作だ。

 結果まんまと、頭上から降ってきたクラウに気づいたココロちゃんの攻撃は停止。

 オルカの投擲も、読めていれば対処は可能だ。先程と同様に最小の動きで対応した。

 そして、ここからは私のターンだ。

 クラウを優しくはたき落とした掌はそのままクラウとココロちゃんの頭上へ。迫る掌はさながら石の天井が落ちてくるかのようだろう。

 これにはココロちゃんが金棒を構えて迎え撃とうとするが、それは別に飛び道具というわけでもなし。つまりは、射程距離こそがココロちゃん最大の弱点と言える。

 心眼を持つ私のフェイントは強力だと自負している。ココロちゃんが思わず振ってしまうような勢いで寸止めをかけ、空振ったところへ掌を落としてやった。

 ぎょっとしたオルカが更に投擲するが、それにも対応。

 すると掌はクラウが受けたのか、手の甲から黒盾の棘が貫通して突き出ている。痛々しい光景だが、ゴーレムに痛覚はなく、そもそも岩でできた体なのでどうということもない。


 そして、ここで発揮するのは私のスキルだ。

 徒手空拳で戦うゴーレムには、体術由来のアーツスキルが再現できそうである。

 ここで初めて気づいたことだが、操った対象でも適性のあるアーツスキルなら、私が使用できるものの中から転用できるらしく。

 私は一瞬脱力の後、ありったけの力を掌底へ込めてそれを発動した。


「【掌底破】!」


 ボゴン! と、一瞬にして渓谷の景観を乱すような深いクレーターが出来上がり、威力の凄まじさを示して見せた。

 が、相手はタンクのクラウに頑丈なココロちゃんだ。私は油断すること無く、即座にクレーター底の土砂ごと彼女ら二人を引っ掴むと、苦無を更に投擲しようとしていたオルカへ向けて思い切り投げつけた。

 ゴーレムの膂力で投げつけられた小石は、それだけで恐ろしい凶器となる。たかが土塊とてありえない重みでもって襲いかかることだろう。

 オルカはそれを察知してすぐさま回避を行った。ちゃっかり投擲も済ませたが、無論私はしっかり対応。避けれるものは避け、避けれないものは安全な部位で受ける。


「さて、少しくらいダメージが入ってるといいんだけど……」


 ズシャシャッと河原の石を踏み分けながら、思い切り投げ飛ばしたクラウとココロちゃんが共にしっかりと着地。

 服は泥だらけで、肌には細かな傷も見られたけれど、ココロちゃんのそれはすぐに治り、クラウの傷はココロちゃんの魔法で瞬く間に治癒された。

 オルカだって無傷で逃げおおせているし、結局何ら優勢は取れない。


「うわぁ……これ、どうやって勝つのさ……」


 辛うじて勝負になってはいるけれど、今のでココロちゃんとクラウの目に火が灯った。

 心眼が彼女らの本気度を嫌というほど伝えてきて、私の背中に冷たい汗が流れる。

 ココロちゃんの額からは、ニョッキリと可愛らしい角が伸びてきて、クラウはクラウで未だ一度も抜いたところを見たことがない剣を、いよいよ抜いて構えた。

 オルカも油断なく隙を窺っているし、いよいよ私の勝ち目は失われたようだ。


 そこから先は、まぁ酷いものだった。

 スペックの跳ね上がったココロちゃんは、ゴルフのスイングよろしく足元の小石を散弾のように打ち出してくるし、そんな範囲攻撃じゃガードする他無く。

 そこへ襲いかかったクラウの剣は、ゴーレムの腕を強引に叩き切ってみせた。

 そうして隙を晒したが最後、オルカの苦無が的確に体の軸に沿った、動かせない部分を狙って切断。

 身動きを封じられた私のゴーレムは、あっという間に黒い塵へと変わったのである。


「これ、無理ゲーじゃないよ。無理なやつだよ……」


 私が四つん這いで打ちひしがれていると、スッキリした表情の三人がやってきた。

 クラウもココロちゃんも、既に清浄魔法でどろんこは落としたらしく、まるで何事もなかったかのような出で立ちである。


「ミコトのゴーレム、やっぱりとんでもなかった」

「ですです! 信じられない動きをしてましたよ! 正直想像以上でした‼」

「まったくだ。是非またやりたいものだな!」

「か、勘弁してください」


 私、これでも負けず嫌いなんだよ。負けるのが何より嫌いで、だから無理ゲーだって無理くり攻略してきたんだけど、今回ばかりはそういうわけにも行かない。仲間が相手じゃ、何も言えないって。

 こんな負けイベントは一回で十分だと内心で嘆くも、オルカたちの清々しい表情を見せられては暗い顔もしていられない。


「ぅぅ、ぐぅ、オルカたちこそすごかったよ。最初から勝てる気はしなかったけど、まさかここまでどうにもならないなんて……」

「でも考えてみたら、私たちこれで喜んでて良いのかちょっと疑問」

「それは……そうですね。何せミコト様はゴーレムを操った状態で、ご自身も戦えるのですよね?」

「それを思えば、今回はミコトの魔法も飛んでこなかったのだし、随分とハンデをもらった気がしてくるな……」


 と、なぜか突然雲行きが怪しくなってきた。

 さっきまでの天晴な空気は鳴りを潜め、三人の目がじっとこちらに向けられる。


「なぁミコト、もう一戦やらないか?」

「次はミコトの魔法や、その他のスキルも解禁で」

「ゴーレムを倒すか、ココロたちがギブアップしたら決着というルールでいかがでしょう?」


 なんてことを言い始める彼女たち。

 本当にバトルジャンキーになってしまったのか……私としては、まだまだ余力十分そうだった彼女たちとやり合うなんて、正直ごめんなのだけど。


「えっと、どうしてそんなに戦いたがるの? 三人が着実に強くなってるのは今のでよく分かったんだし、それでよくない……?」


 思わずそう問いかけてしまった。

 正直、スキルや魔法を解禁して戦うとなると、彼女らに怪我を負わせる可能性が高くなる。

 いくらココロちゃんが直ぐに治せるからと言っても、気分のいい話じゃないのだ。だから、出来ればやりたくない。

 私が力をつけたのは、モンスターと戦うためだったり、自分の身を守るためであって、仲間に怪我をさせるためじゃない。

 さっきだってココロちゃんとクラウは、少しとは言えダメージを負っていた。

 心臓に悪いんだ。そんな物騒なこと、しなくていいじゃないか。


「それは違う。私は、ミコトに置いていかれたくないの」

「! オルカ……」

「ココロもです。ミコト様は、信じ難い速度で力をつけられて、今もどんどん成長なさっています。このままではココロたちが足を引っ張ってしまうかも知れません」

「ミコトの戦力に、私たちが釣り合えないというのが問題なんだ。君の背中を守れると証明するためにも、是非ここで力試しをしておきたい」


 そう語る彼女たちの眼はどこまでも真剣で、私が考えなしにスキル磨きを行っている裏でそんなことを考えていたのかと突きつけられたような気分だった。

 私こそ、みんなの足を引っ張らぬようにと必死だったっていうのに。


「……分かったよ。この試合、受けて立つ。ただし勝つ気でやらせてもらうからね!」


 こうして、まさかの第二ラウンドが決定したのである。

 それぞれの本気を胸に、私たちは次の試合に備えて準備を始めたのだった。

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