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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一二二話 黒苦無の使い方

 いつもより豪勢な食事を囲み、私たちはささやかな宴を催していた。

 何かを乗り越えた時、或いは嬉しいことがあった時などは、よくこうしてちょっとお高いお店で食事を摂ったりする。

 とは言え私たちにオトナな雰囲気のレストランは似合わない。高いお店とは言っても、かしましく騒いだって怒られないような、気軽さのあるお店が定番だ。

 その基準に漏れること無く、このお店もワイワイガヤガヤといろんなテーブルから聞こえる話し声が混ざりあって、にぎやかな雰囲気を演出している。とても上品で静かなお店とは言えないが、むしろそれが良いとさえ思う。


 さて、今夜この小さなお祝いを行っている理由についてだけれど。

 ゴーレムの谷で修行を初めて、そろそろ半月と言わず経過する今日。何と初めて、オルカが単独でゴーレムの撃破に成功するという課題を成し遂げたのである。

 課題とは言っても、彼女自身が自らに課したものではあったのだけれど、火力不足に悩んでいた彼女が如何にしてそれを成したのか、実のところ私はまだ聞かされていないのである。


「そろそろ教えてくれないかなぁ? オルカはどうやってゴーレムを倒したの?」

「ふふふ、それはまだ内緒。明日、直接見てもらいたいから」

「ミコトと言えど、きっと驚くだろうな」

「ですね、ココロもあれにはびっくりでしたもん」

「ぐぬぬぅ、気になる」


 あまりに三人が楽しそうに秘密にするものだから、私もうっかり心眼が情報を拾わぬよう気を散らすのに苦心していた。

 特に興味もない別の席の人達に意識を向けたりして、雑念で心眼を乱すという荒業をこなしているのだ。

 彼女らの話にもあるように、明日はその方法とやらを直接見せてもらえることになっている。

 私の修行の方も結構順調で、勿論壁にぶち当たって手こずることもあるのだけれど、着実に使えるコマンドを一個一個増やすことが出来ている。

 覚えたものを忘れないように、反復練習で確認を続けることも重要で、なかなか気の休まらぬ日々を送っているため、オルカが一枚壁を破れたというニュースは私にとっても良いサプライズになった。


 斯くしてあれよあれよと一夜が明け、翌日がやってくる。

 天気は快晴、良い日和である。

 私も修行をサボるわけには行かないため、オルカの新戦法を見せてもらうのは午後からということになっている。

 午前中はいつもどおりオルカたちをゴーレムの谷へ送り、私はおもちゃ屋さんで新しいコマンド習得のための修行。


 そうして迎えたお昼。

 修行を程よいところで切り上げると、妖精たちと分かれてゴーレムの谷へ飛んだ。

 まずはお昼ごはんである。ストレージから食材を取り出すと、オルカがごきげんにそれを調理。

 すっかり馴染んだ彼女の手料理に舌鼓を打ちつつ、和やかに昼食を終えたならいよいよである。


 今や単体で行動するゴーレムを探す手間すら必要ない。

 三体固まって動いていたゴーレムを見つけるなり、慣れた様子でオルカたち三人がそれへ突っ込んでいく。


「まずは普段どおり、三人で二体を仕留める。ミコトは手を出さず見ていてくれ」

「ココロたちの成長、見ていてくださいねミコト様!」

「最後の一体は、私の獲物!」


 まずオルカがいつもの調子で一体のゴーレムにちょっかいを掛けると、綺麗にそいつのヘイトだけを釘付けにする。

 その間にすかさずクラウがそれとは異なるゴーレムへ飛びかかると、盾で思い切りそいつの膝を殴りつけた。

 どうやら新しく覚えたアーツスキルらしく、ただ殴っただけにしては威力がおかしい。衝突音もけたたましく、その結果生じたそれは眼を見張るような出来事だった。

 ゴーレムの膝が文字通り砕け、バランスを維持できずその巨体が傾いていったのだ。

 すると、倒れる先で待ち構えていたのはココロちゃん。黒い金棒を野球のバッターよろしく構えており、タイミングを合わせてフルスイングをかました。

 ココロちゃんが殴りつけたのは、ゴーレムが受け身を取ろうと伸ばしたその腕。

 それが、一瞬で跡形もなく粉砕。それどころか、飛び散った破片により甚大な被害を周囲に撒き散らした。

 しかも破片をバラ撒く方向は計算ずくだったらしく、もう一体のゴーレムの体には大小様々な破片が深々と突き刺さり、ものによっては貫通までしていた。

 よくよく見てみると、フルスイングをかましたココロちゃんの額から、ニョッキリと可愛らしい角が生えているではないか。

 なるほど、鬼の力を解放してのスイングである。ゴーレムを砕くことくらいワケはないだろう。

 などと感心していると、いつの間にやら擬似的な散弾によりボロボロになったゴーレムの背後へクラウが飛び上がっており、奴の背を強く叩いた。

 強烈な衝撃により押し出されたゴーレムの向かう先には、再度構えをとったココロちゃん。


 斯くして、瞬く間に二体のゴーレムはクラウとココロちゃんによるコンビネーションで過剰に痛めつけられ、あえなく塵に還ったのであった。

 私はその様を、半ば放心して眺める。

 Aランクは伊達じゃないと、しっかり見せつけられた気分だ。

 が、今日のメインは彼女らではない。オルカが器用に引き離したことで、散弾による被害を免れたもう一体のゴーレム。

 これを今から、オルカ当人が仕留めて見せるらしい。

 器用貧乏で決定打の無かった彼女が、一体どのようにしてこれを仕留めるのか、見ものである。

 二体のゴーレムが倒されたのを確認し、私は少し距離を詰めてオルカの勇姿を眺めることにした。

 ココロちゃんとクラウも残心を解いて、観戦ムードである。

 それを認めたオルカは、逃げ回っていた状態から一転、攻撃を開始した。


「一体どう攻めるんだろう……?」

「ミコト様、僭越ながらココロが解説を務めますね」

「なら私は実況か? ガラではないのだがな」

「や、解説はともかく実況はいいから。ダブル解説でよろしく」


 邪魔な二体を排除し終えたココロちゃんとクラウが、いつの間にやら私の傍らに陣取って共に見守る姿勢に入る。

 そうしてついに、オルカによるゴーレムとの単独対戦が幕を開けたのである。

 事前情報が殆どないため、苦戦したりしないか少し心配なのだけれど、ココロちゃんやクラウは全く案じるような素振りすら見せない。

 一体オルカはどんな攻撃手段を手に入れたというのだろう?

 とにかく見ていれば分かるだろうと、私も観戦に集中することにした。


 攻撃に転じたオルカは、相変わらず見事な身のこなしでゴーレムを翻弄しながら、苦無を一本奴の関節部めがけて投擲した。

 しかしそれは中空で苦無の形を失い、さながらスライムのようにゴーレムへとへばりついたではないか。

 あれで一体何をするのだろうと、訝しみながら凝視していると、そのスライムはあっという間にゴーレムの関節をぐるりと一周回って、輪のような形状へ。ほんの一秒にも満たない出来事だった。


 気づいた時にはゴーレムの左肘が切断され、そこから先がボトリと重力に引かれて落ちたのだ。

 何が起きたのか、一瞬理解が追いつかなかったが、直ぐに一つの可能性に思い至る。

 そしてすぐさま、隣から解説が聞こえて来た。まるで自分のことのように誇らしそうな、弾んだ声で。


「ご覧になられましたかミコト様、あれがオルカ様の新たな攻撃手段です!」

「見ての通り、クナイを駆使した切断攻撃だな。一先ず細かなからくりは置いておくとして、オルカがゴーレムを仕留める様を見てやってくれ」


 クラウに促されオルカの戦うさまを眺めていると、確かにそれは苦戦するような懸念が不要なほどに危なげと縁遠い、一方的な戦闘のままあっという間に終わりを告げた。

 オルカが一つ苦無を投げるたびに、ゴーレムの体の一部が切断され、それが瞬く間に何度も繰り返される。

 ものの数秒で形勢は決し、巨大なゴーレムはほぼ為すすべもなく体をバラバラにされ、塵に還ったのである。

 それはさながら、以前私自身がやってのけたゴーレムバラバラ事件の焼き直しじみてすらいる。

 舞い上がる黒い塵を背後に、残心するオルカは何とも画になった。

 塵が消え去ると、彼女はあとに残ったドロップアイテムを拾ってこちらへ駆けてくる。

 その姿がなんとも、褒めてほしそうな子犬のようでちょっとときめいてしまった。


「ミコト、見てた? どうだった?」

「うん、すごかったよ! っていうかびっくりした……あんな戦い方が出来たんだね!」

「おや、その様子だと既にオルカが何をしたのか、察しはついているようだな」

「さすがミコト様です。解説要らずでしたね、というか解説する暇もなく終わっちゃったんですけど」


 ずっと表情に陰のあったオルカが、ようやっと強力な攻撃手段を得て笑顔をみせてくれた。それを目の当たりにして、私も正直グッと来るものがある。

 ゴーレムに通じた攻撃なら、大抵のモンスター相手にも十分な効果を示してくれるに違いない。間違いなく強力な武器になるだろう。

 ひとしきり皆で彼女に賞賛を送った後は、答え合わせの時間だ。

 私はオルカが苦無を用いて何をしたのか、予想した回答を述べてみる。


「つまり、苦無をまずは狙った部位にくっつけた後、そこを囲うように輪っかを作った。そしてその輪っかを次は、一枚の薄い板に変えた……ってことなんじゃないかと思ったんだけど、どう?」

「正解。一回で見抜くなんて、流石ミコト」

「うー、ココロは理解するのに少し掛かったのに、ご慧眼お見事ですミコト様」

「私も、最初見た時はわけが分からなかったからな。クナイの変形が、それほど強力な力で行われるとは思ってもみなかった」

「それは私も。でも、ダメ元で試してみたのが功を奏した」


 オルカは苦無を一つ取り出すと、それを変形させて綺麗な輪っかを作ってみせた。

 次の瞬間、シャッ! と、輪っかから内へ向けて一瞬で板が張られた。それがゴーレムの関節を切断した物の正体なのだろう。

 物体の中を薄い板で隔ててやれば、それは実質切断という結果をもたらす。

 問題はそれが容易ではないということなのだが、オルカの苦無ならそれが出来るらしい。


「コツは、とにかく薄い板を生成すること。薄さはそのまま鋭さになる」

「なるほど……」


 確かにより薄い板で隔てようとすれば、切断力もより強くなるのかも……あ、いや、でも待てよ……?


「もしかして、板に拘る必要はないんじゃない? 板と言うより、“膜”でも良いんじゃ……」

「! く、詳しく!」


 食い気味に問われ、私は語った。

 そも物体は、原子や分子と言った目に見えないほどの細かな粒子の積み重なりによって出来ていること。

 それらの隙間に潜り込めるほどに細かい膜を張れるのなら、実質的に万物を切断できる武器になるんじゃないか、という可能性。

 イメージとしては断ち切ると言うより、苦無を『浸透』させて物体の間に割り込ませる感じだろうか。

 まぁ単なる中二チックな思いつきでしか無いため、実現できる可能性があるかすらわからないのだけれど。

 しかし少なくとも、今よりももっと強力な切断力を得る方法はあると思う。オルカにはそれを知ってもらいたくて、つい口出ししてしまった。


「す、すごい……そんなこと、考えたこともなかった……ミコト、私頑張る!」

「う、うん。少なくともその概念を頭に入れておくだけで、今までより更に切れ味は上がると思うんだよね」


 オルカは勉強熱心で器用なため、そのうち本当に実現させてしまうかも知れない。

 けど、ふと懸念も湧いた。


「ああけど、その苦無を構成している粒子の大きさ次第では、物体の中に侵入なんて出来ないことも考えられるから、そこは留意しておいてほしいかな」

「そうなんだ……何にしても、まだ極められそうってことは分かったから、今はそれで十分」


 オルカはそう言って、苦無をぐっと握りしめた。

 最初こそ効果が地味に思えた苦無だったが、まさかそんな使いみちがあったとは。改めて驚きである。

 ともあれこうして、オルカが単独でゴーレムを獲る様を見ることが出来た。

 私は大いに満足し、すっかりこのイベントが終わった気になっていた。


 ところが、である。

 不意にオルカたち三人から提案がなされたのだ。


「ねぇミコト、次はミコトが操作するゴーレムと戦ってみたいんだけど、どう……?」

「え」

「ミコト様には【プレイアブル】というスキルがありましたよね? それでゴーレムを操作し、相手をしてほしいのです」

「正直普通のゴーレムでは、もう相手にならないんだ。倒し方も熟知してしまっているからな」

「えぇ……」


 完全にやる気満々といった彼女らのノリに流され、結局断ることも出来ぬまま。

 斯くして唐突に私は、ゴーレムを操って彼女たち三人と戦うことになったのだった。

 初の試みではあるけれど、正直善戦できる自信すら無い。

 果たして、まともな試合になるのだろうか……。

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