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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一二一話 枯尾花

 とうとう、ミコトの行動に疑問を抱いたオルカたち。魔道具の修行を行っているはずの時間帯、しかしマップに映る彼女は空き地でじっとしたまま動かないのだ。

 そのことがあまりに気になりすぎて、結局その後はゴーレムを狩ることも忘れてマップを凝視し続けたのである。

 そうこうしていると、ようやっとミコトに動きがあり、次は一体どんな行動に出るのかと彼女の反応を追うオルカたち。

 ところが突然当人が目の前に現れ、三人して悲鳴を上げてしまう。

 気づけば空はすっかり夕映えを見せており、谷底であるこの場所は早くも暗闇に包まれつつあった。

 マップの観察に熱中するあまり、時間を忘れてしまっていたらしい。


 一方で奇っ怪な反応を示したオルカたちを訝しむミコト。

 首を傾げながら、何かあったのかと心配げに問うてきた。


「な、なんでもない」

「ですです。ミコト様が急に現れたので、ちょっとびっくりしただけですっ」

「いやぁ、ワープというのは本当に心臓に悪いよなぁ、あはは~」


 三人して、カクカクと目を泳がせながらそんな事を言うオルカたちに、ミコトは釈然としない心持ちで眉をひそめた。

 が、誤魔化すということは言いたくないということなのだろうと思い、一旦その話題は流しておくこととし、三人を引き連れて街へと戻る。

 ちなみにワープで街に戻る際は、幾つかの転移場所を使い回すようにしているミコトたち。

 当初は宿の自室だけで十分と考えていたが、流石に宿のスタッフに怪しまれたので考えを改めたのだ。

 人がめったに立ち寄らないようなスポットを見つけて、そこを転移ポイントとして活用しているのである。


 ミコトの奇行に関して、つい問いただすタイミングを掴みあぐねてしまった三人は、ソワソワしながら浴場で湯浴みをし、モジモジしつつ夕飯を共にして、うっかりその日はそれぞれの部屋に引き上げる、その直前になってクラウが、後で部屋に行っていいかとアポを取ったことでようやく切っ掛けを作ることが出来た。

 ミコトとオルカの二人部屋にクラウとココロを交えた四人で集まり、オルカのベッドにオルカたち三人が。ミコトのベッドには当のミコト一人が、彼女らと膝を突き合わせる形で腰掛け、逆に問いかけた。


「それで、何か言いたいことがあるんじゃないの?」

「「「!」」」


 図星を突かれ、狼狽える三人。

 本来問い詰める側であるはずなのに、どうしてだか主導権を握られていることを不思議に思いながら、オルカがおずおずと口火を切った。


「えと……ミコトは今日、何してたの?」

「? それは勿論、魔道具作りの修行だけど」

「どこで?」

「え、うーん。言っていいのかな……? まぁ、師匠たちのところで、かな」


 ミコトの返答に、コソコソと小声で話し合うオルカたち。

 だが、心眼のスキルを持つミコトには、既に彼女たちが何を言いたいのか、疑問に思っているのかが概ね分かってしまっている。

 だからミコトの方から確認を取った。


「一つ訊きたいことが出来たんだけど、いいかな?」

「な、なに?」

「今日オルカたちは、マップで私のことを見てたんだよね?」

「「「!?」」」

「で、どんなふうに表示されてたの?」


 三人揃って、あまりにガッツリ核心を突かれたものだから、心臓がバクバクして酸欠を起こしそうになる。

 これが心眼による読心術かと冷や汗を流しながら、代表してクラウが答えた。


「な、なにもない空き地で、長時間一人ぽつんと、だな……」

「あー……そっかー。なるほど、色々合点がいったよ」


 オルカたちの妙な反応にも納得のいったミコトは、それはそれとしてどう対処したものかと逡巡を見せる。

 対してミコトが何を考えているのかさっぱりわからない三人は、半ば混乱状態で無意味なアイコンタクトを繰り広げていた。

 そうすると、何らかの答えを出したらしいミコトが不意に口を開く。


「とりあえず明日、みんなにどこまで話していいか確認を取ってくるから、それまで私のことは気にしないでいて」


 それだけ言うと、ミコトはいつものように勉強やスキル等の自主練へ集中し始めるのだった。

 モヤッとしたものを抱えたまま、しかし結局その日はミコトに何かを聞き出すことも出来ぬまま、夜は更けていった。


 そして次の日。

 ゴーレムの谷へオルカたちを送り終えたミコトは、いつものようにさっさと街へ戻っていった。

 三人は一先ずゴーレム狩りを行おうとするも、まるで集中出来ておらず、普段に比べて明らかに動きに精彩がない。

 それでもしばらく戦闘を続けたが、これではまるで修行にならないと取りやめ。

 昨日同様にミコトのことをマップで観察することにした。


 ミコトは、昨日とはまた異なる空き地に、しかし昨日同様一人きりで佇み、まるで動きを見せない。

 マップの示す光点からでは、彼女が一体何をしているのか想像すらつかないのだ。

 一体何をしているのだろうと、いつしか三人は予想を述べあっていた。


「一人で、独学で勉強をしている……?」

「いや、それならそうだとミコトは言うだろう」

「ですけど、他に何者かがいるようには見えませんよね」

「ミコトには師匠がいるはず。そんな口ぶりだった」

「ああ。それも『師匠たち』と言っていたな。複数いるということだろうが、誰かに会っている様子はない……」


 謎は深まる一方で、答えは一向に見えてこない。

 だがここでオルカが、最も可能性の高いと思しき推察を述べた。


「もしかして……幽霊に教わっている、とか……?」

「「!?」」


 この世界にも、幽霊という概念はあり、その存在もまことしやかに信じられている。

 と言うより、地球のそれよりも一層強く信じられているとさえ言える。

 何せモンスターのいる世界だ。中には死霊系のモンスター、なんていうものもある。

 それが本当に誰かの、何かの死霊なのかは解明されていないけれど、そういうものが実在するために一層、死者は肉体から魂が抜け出て、霊体になるのだという認識が色濃いわけだ。

 そしてなんとこの三人、思わぬ共通点を持っていた。それをたった今知ることとなる。


「ゆ、幽霊、ですか……ひぃぃ」

「ばばばばかな、そんなものいるわけ無いだろう?」

「でで、でも、それ以外の可能性って、何かあるの?」

「そ、それは、その……とにかくオバケなんてないさなのさ!」


 三人が三人とも、冒険者なのにオバケ嫌い。

 死霊系モンスターなら、それとして割り切れるため致命的な弱点でこそないが、こういった不気味な怪談話には弱いのであった。

 それからお昼、ミコトが食事を持ってきてくれる時間まで三人は根も葉もないような憶測を並べ、最終的にはミコトがとんでもなくヤバい奴(多分人間じゃない何か)に目をつけられているんじゃないかという話が彼女たちの共通認識となってしまった。

 そこへ何も知らないミコトがワープでやって来たものだから、当然のように一悶着。

 昼食もそっちのけで、何とかミコトを魔の手から救い出そうと意気込む三人に、どうにかこうにか自分はそんな危険な目に遭ってはいないと語るミコトだが、いかんせん説得力がない。

 何故なら、依然としてミコトはどこの誰に、どうやって魔道具作りを習っているのかすら明言しないのだ。

 きっと何かしら、良からぬ裏があるに違いないと。オルカたちの中で完全に盛り上がったまま疑いが凝り固まり、手がつけられないような状態に陥ってしまっていた。

 ミコトは心眼のおかげで、オルカたちが真面目に自分を心配していることと、完全に思い込みが固定されてしまっていることが分かっており、どうしたものかと頭を抱えた。


「何も問題がないというのなら、一体どこの誰にどんな技術を習っているのか言えるはずだろう?」

「その師匠とやらに、どこまで明かしていいか聞いてくるって昨日言ってたけど」

「ココロが、ミコト様をお救いしなければ……!」

「あー、えーと……うーん。一応相談はしてみたんだけどね、どうせ明かしたとしても、何の証拠にもならないから黙っておけって言われて……」

「「「ほらみたこと(です)か!」」」


 結局ミコトは、話が通じないと思ったのか昼食だけ置いてワープで帰ってしまった。

 残されたオルカたちは、ミコトを悪の魔の手から救うべく作戦会議を行い、何者とも知れぬその相手への闘志を滾らせたのである。

 ここに至ってはもう、相手が悪霊だろうが怨霊だろうが関係はない。ミコトを救うためなら、何だって相手取るという覚悟を決め、ゴーレム相手にウォーミングアップを行ったのである。


 そして夕方。

 迎えに来たミコトと一緒に街へ戻るなり、オルカたちはミコトを置いて駆け出した。

 慌てるミコトを背に、三人が一直線に目指すのは、今日ミコトが一日中留まっていた場所。マップでしっかり確認しているため、それがどこかは既に把握済みである。

 もしかしたらその先で、オバケが待ち構えているかも知れないという恐怖を、仲間を、ミコトをたぶらかされたという怒りで押さえつけ、故にこそのハイテンションのまま突撃を敢行したのである。


 そうして三人は街なかを突っ切り、人気のない空き地へ凄まじい勢いでやって来た。

 夕日に染まる街で、ポッカリと空いたただの空き地。ともすればそれは不気味にも思えるような静けさをたたえた空虚な場所。

 三人は恐れを噛み殺すように、声を張る。


「で、出てきて! ここにいるのは分かっているの!」

「ミコト様をたぶらかす輩は、たとえ何者であってもココロが赦しません‼」

「オバケナンテイナイオバケナンテイナイオバケナンテイナイ……」


 勢いのまま、三人背中合わせに武器を構える。

 ミコトはそんな彼女らを、呆れやら微笑ましさやら、はたまた師匠たちへの申し訳無さから何とも言えぬ表情で眺め、声をかけた。


「ちょっと落ち着いてよみんな。たぶらかされてなんて無いんだって」


 ミコトの目には、確かにすぐそこにある古びたおもちゃ屋さんと、ミコトの姿を見つけて窓から顔を覗かせる妖精たちの姿が見えている。

 けれど同時に、オルカたちにはそれが見えていないことが、心眼を通して理解できていた。

 彼女らはすっかり、ミコトが悪霊にでも操られているのだと思い込み、暴走してしまっている。

 こうなっては流石に事情を話す他ないが、妖精たちとの約束もある。さて、どうしたものか。


 とミコトが困っていると、そこへ妖精たちの中でも最も親しいモチャコ、トイ、ユーグのトリオがやって来て、ミコトに事情を問いかける。


「ミコト、一人で何してるの?」

「今日はもう帰ったんじゃなかったかしら?」

「あー。ひょっとして、ミコトのお仲間が来てたりするー?」


 鋭いユーグの言に、ミコトはどう返事をしたものか、というかそも返事をしていいのかすら分からず、言葉に詰まる。

 モチャコたちにはオルカたち三人の姿が見えておらず、声も聞こえていない。話によると、そもそも干渉が出来ないそうなので、望むべくもない話ではあるのだけれど。

 そしてそれはオルカたちからも同様で、彼女らには妖精はおろか、おもちゃ屋さんすら目に入らないらしい。多分触れることも出来ないのだろう。

 妖精たちの言ったとおり、本当に交流することが叶わないようだ。

 だから、ミコトがここで妖精たちと会話を始めようものなら、それこそオルカたちはミコトが見えない何か、つまりは悪霊と話をしていると勘違いして、暴れ始めるかも知れない。

 妖精たちに迷惑をかけたくないミコトとしては、それだけは避けたい事態だった。

 とは言え、ことここに至っては、多少無理にでも行動しなくては収まりがつかない。

 ミコトは意を決して、まずオルカたちに言う。


「とりあえず、三人とも。私に彼女たちと話をさせてくれる? 心配ならそこで見てていいから」

「……ミコト、大丈夫なの?」

「ほんとに過保護なんだから……大丈夫だよオルカ。ココロちゃんもクラウも、いい?」

「ミ、ミコト様がそう仰るなら……」

「だが何かあれば、すぐに助けに入るからな!」


 彼女らに苦笑で返事をしながら、ミコトはモチャコたちへ向き直る。

 こちらはこちらで、ミコトの姿しか見えておらず、声も聞こえていないため何となくでしか状況を把握できないでいる。

 そんなモチャコたちへミコトは、ここまでの経緯を語った。

 すると彼女たちは呆れ半分、感心半分といった表情でミコトを見る。


「ミコトって、仲間に慕われてるんだね」

「まぁ気持ちは分かるわ」

「こうなっちゃったら、説明しないわけには行かないみたいだねー」

「ごめんねみんな。ちゃんと口止めもするし、何ならこの場で話をするから」


 ということで、ミコトは妖精からの許可を得る事ができ、ようやっと諸々の事情を仲間たちへ語って聞かせる事ができた。

 妖精の存在と、彼女らにその技術を学んでいること。

 交流が出来ないことと、子供だけの秘密を守るために話せなかったことも。


 一連の説明を、モチャコたち立ち会いのもとでオルカたちへと語って聞かせたところ、それはもう盛大にキョトンとした表情をした後、みんなして大いに驚嘆した。

 その気持ちいいほどの驚きっぷりを、モチャコたちに見せてあげられないのが残念で仕方ないほどに。

 ともあれ、こうしてミコトはオルカたちへ隠し事を打ち明けることが出来、これにより彼女たちの暴走も無事に収まったのであった。

 また、このことは他者に洩らさないという約束も結んだ彼女たち。


 一悶着ありはしたが、斯くして改めて、それぞれがそれぞれの修行に打ち込むようになったのである。

 これを機にミコトは、ちょくちょく仲間たちの話題をモチャコたちに、モチャコたちの話をオルカたちに語って聞かせるようになり、間接的な交流を実現させたのだった。

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