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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一一八話 悪あがき

 妖精たちから魔道具の作り方を学べることになった。

 早速朝から彼女らの居るおもちゃ屋さんを訪れてみると、何と私のために勉強部屋をこしらえてくれていた。

 やる気も俄然漲り、ワクワクしながら机に向かったのも束の間、課題として出されたのは【付与】という聞き慣れない技術を行使して、発光するガラス玉を作りなさいというものだった。


「えっと……ごめん。そもそもまず、付与って何……?」

「え」


 勿論、付与というものに心当たりはある。ゲームではよく聞くワードだ。

 エンチャントと言えば一層聞き馴染みも深い、それのことを指しているのだと思われる。

 けれど、私はこの世界に来て今まで、付与ってものを見たことがなかった。

 強いて言うなら、一時的なバフがそれに近い気がしないでもないけど、それとは別物なのだろうなとは思う。

 だってモチャコは付与を使って、『加工』しろと言ったのだ。

 であれば、一時的ではなく永続的なものという意味合いだろう。

 イメージは出来るけれど、具体的にどうやるのかもさっぱり分からない。

 なのでストレートに尋ねてみたのだが……。


「な、何言ってるの? 付与は付与だよ」

「え、ええ……?」

「……もしかしてミコトは、付与のスキルを持っていないのかしら?」

「っていうかー、ひょっとして人間は持ってない感じー?」

「あー……そういうことか」


 スキルと一口に言っても、様々なものがある。

 ちょっと練習すれば誰でも覚えられるようなものから、特定のジョブじゃないと覚えられないもの。

 才能がないと覚えられないものや、資格や適性が必要なものなど。

 そして、種族によって限られたスキルというのも。


「その【付与】っていうスキルは、妖精だったら誰でも使えるものなの?」

「う、うん。そうだけど……」

「……ごめん、私は使えないや」


 ズーンと、一気に場の空気が重くなった。

 モチャコたちもどうやら察したらしい。即ち、付与というスキルを使えるのが、妖精という種族に限ったものである、という可能性を。

 そうなってくると、私が彼女らに弟子入して妖精流の魔道具制作を学ぶ、という話も土台から崩れてしまう。

 せっかく彼女らがワクワクしながら、立派な勉強部屋まで用意してくれたっていうのに、それはあまりに申し訳無さ過ぎる。

 考えてみれば、普通に人が作る魔道具においても、制作にはスキルが用いられる。妖精のそれなら大丈夫、だなんてはずはなかったんだ。そこを確認しておかなかった私の落ち度である。


「ス、スキルが無いんじゃ、どうやって教えたら……」

「モチャコ、残念だけど無理よ。スキルに頼らず付与なんて出来っこないもの」

「盲点だったよねー。てっきり人間も持ってるものだと思ってたよー」

「…………」


 すっかりあきらめムードに入ってしまったモチャコたち。

 確かに、妖精の作るおもちゃに用いられた技術は驚くべきものだ。昨日帰り際、改めて観察させてもらったけれど、ハッキリ言ってどれも魔道具というより機械……いや、それ以上と言っていいほどの出来栄えだった。

 複雑な機構が幾重にも折り重なっており、さながら精密機械のような動きを見せる。

 なめらかに動くぬいぐるみに、カメラ付きのドローン。列車は変形したし、女の子のお人形とは違和感なく会話ができた。

 進んだ科学は魔法と区別がつかないだなんて言うけれど、確かにその領域に達しているのではないかと思えるような、そんな品々がこのおもちゃ屋さんには並んでいるのだ。

 付与とは、そんな高度なおもちゃを作る上で、本当に初歩の初歩となるようなスキルなのだろう。

 私はそこで躓いてしまった。

 仕方のない話とは言え、酷く惨めな気持ちになる。

 以前、私のせいで鏡のダンジョンを後回しにしちゃった、あの時のそれに近い気持ちだ。


「……一つ、お願いがあるんだけど」

「?」


 このまま泣き寝入りするのが嫌で、私は悪あがきをしてみることにした。

 モチャコたちに、一つ頼み事をする。


「お手本を、見せてくれないかな? このガラス玉に付与を施して、光るようにするんだっけ。今の私じゃ何をどうやるのか、さっぱり見当もつかないんだ。だから、まずはお手本を見せて欲しいなって」

「で、でもミコト、付与のスキルが無いんじゃお手本なんて見たところで……」

「人の技術は、何でも模倣に始まるっていうよ。折角みんなが色々準備してくれたのに、なんにもしないまま諦めるなんて出来ないからさ、お願い!」


 私が合掌して頼むと、モチャコ、トイ、ユーグは暫し顔を見合わせて逡巡した後、快い返事をくれた。


「もともと教えるって言い出したのはアタシだからね。ミコトがそう望むんなら、付き合うよ!」

「ありがとう、モチャコ!」


 早速彼女は、私の課題用にと持ってきてくれた大ぶりなビー玉のようなそれに手をかざし、意識を集中し始めた。

 これより彼女が施すのは、MPを注ぎ込むことで光を発するようになる、という付与加工である。

 私はその工程の一切を見逃すまいと、神経を集中して食い入るように観察した。

 するとどうだ、心眼の効果なのか、普通に視覚情報として得られるもの以上の、MPや魔力の流れなんかが理解できる気がした。

 MPと魔力、というのはどうやら違うもののようだというのは、割と最近気づいたことなのだけれど。

 MPというのはこう、もっと根源的な力と言うか、それこそエネルギーと引き換えるポイントみたいな感じがする。

 対して魔力とは、不思議な現象を起こすためのエネルギーそのもののことを言う。

 MPは魔力に変換することが出来るため、結構混同して考えがちなのだけれど、心眼のおかげでその違いがはっきり分かった。


 モチャコの使用したMPは、彼女の内でこれまで感じたことのない、特殊な魔力へと変換された。

 普段私や他の人達が魔法やスキルに用いる魔力とは、明らかに毛色の異なる魔力。

 それを用い、ガラス玉へと干渉していく。

 流石に、事細かに何が起こっているかまでは分からなかったけれど、何をしているのかは何となく分かった。

 それはさながら、プログラムでも書き加えているような作業に見えたのだ。

 ガラス玉というオブジェクト情報にアクセスして、そこに特殊な効果を書き加えているような、そんな感じ。

 それが、妖精の持つ力。付与の能力……。


「……ふぅ、出来たよミコト。ちゃんと見てた?」

「み、見てた。とんでもないことをしてるってことは、分かったかな」

「どうかしら、真似できそう?」

「うーん……とにかく練習してみる!」


 一先ず素材棚からガラス玉を幾つか持ってきて、机に並べておく。

 そうしてそのうちの一個に手をかざし、意識を集中した。

 目を閉じて、モチャコがやって見せてくれたことを反芻する。

 さしあたって手順を三つに分けて考えてみた。

 まずは特殊な魔力を練り上げること。

 次にガラス玉のオブジェクト情報……って表現が正しいかは分からないけれど、ゲーム脳の私にはそれがしっくりくる気がする。そこへ魔力を駆使して干渉すること。

 そして情報を書き加えること。


 魔力の操作は慣れたものだ。寝ながらだって出来ちゃうくらいだから。

 でも、モチャコが扱ったあの魔力を再現するのは、ちょっとやそっとじゃ出来ないことのように思う。

 MPをちびちびと魔力に変換しては、あーでもないこーでもないと失敗を繰り返す。

 作った魔力は発散してやらないと体に悪い気がするから、適当に無害な魔法として消化する。燃費の悪い重力魔法にぶっこんでおけば、一瞬自分の体を軽くする程度で安全に消化できるため便利だ。

 それにしても、魔力に種類があっただなんて驚きの発見だ。てっきりMPを変換して得られる魔力なんて、どれも同じだと思っていた。

 この分だともしかすると、魔石から得られる魔力にも何かしら違いがあるのかも知れない。ちょっとワクワクしてくる。

 なんて雑念が脳裏を通り過ぎる間も、試行回数を着々と増やしていく。


 少しずつ少しずつ、モチャコが見せてくれたあの魔力へと近づけていく。

 ただMPを魔力へ変換するのではなく、その際に強くイメージする。それによって多少、魔力の質が変化することを掴んだ。

 後はコレをイメージ通りに操ることが出来れば、付与に用いる魔力を生成できるかも知れない。


「……ミコト、固まったまま動かなくなっちゃった」

「何をしてるのかしらね」

「しー。邪魔しちゃダメだよー。一先ず私たちはお仕事に戻ってよー」


 モチャコたちがフワリと飛んで、部屋から出ていくのが何となく分かった。集中を手放したくなかったので、申し訳なくは思うけれどリアクションは取れない。

 それにしても、如何な妖精とて私が魔力を似せる練習をしているとは気づかなかったみたいだ。

 他人の魔力なんて、普通は分からないってことか。はたまた私の技術がまだまだ過ぎて、気付けるレベルにも達していないだけか。

 何にせよ、私は私に出来ることを頑張るだけだ。


 結局午前中いっぱいを費やして訓練を続けてみたけれど、いま一歩届いていない感じがする。

 息抜きも兼ねて、オルカたちのもとへ飛ぶことにした。彼女らのお昼ごはんを用意しなくちゃならないからね。

 その際モチャコたちは、私が諦めて帰ろうとしているように思ったのか、必死に慰めたり励ましたりしてくるけれど、また後で来るからと何とか宥めて一度おもちゃ屋さんを後にした。

 正直、どうしてそこまで私を引き留めようとするのだろうと疑問ではあったが、それほど妖精たちは交流ってものに飢えているのだろう。

 何せ彼女たちは人の子供としか触れ合えないのだ。

 子供は、あっという間に大きくなる。気づいたら顔なじみとは二度と会えなくなっていた、なんて妖精たちにとってはよくあることなのかも知れない。

 それで言うと私は〇歳で、しかも魔道具の勉強をするために足繁く彼女らのもとへ通うことになる。

 なるほど、交流相手としては申し分ないだろう。妖精が見えなくなってしまうのが一体いつからなのかは分からないけれど、当分の間は触れ合うことが出来るはずだ。

 けれど時が流れればやがて私だって、モチャコたちが見えなくなってしまう。それは私にとっても、彼女たちにとっても寂しいことに違いない。

 だからモチャコたちは、私が落胆して彼女らの元を訪れなくなる、という事態を恐れたのだろう。

 せっかく知り合えたのに、時を待たずしてさよならなんて哀しいものね。

 わざわざ勉強部屋までこしらえてくれたのだって、お近づきのしるしというやつなのかも。


「うーん、私も何とかしてモチャコたちに報いることができないものか……」


 なんてことを漠然と思いながら、人目につかない物陰でワープを発動。

 オルカたちが修行を行っている、ゴーレムの谷へ飛ぶのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] このファンタジー世界を基礎づける魔力を、不思議なものとして“何でもあり”にし過ぎないてん。 「付与」を魔法のなかで“どういう位置づけにするか”という発想と考察が、このファンタジー作品をより…
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