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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一一六話 弟子入り

 おもちゃ屋さんを後にしたのが、やがて一八時を回ろうかという時刻だった。

 いつの間にか店を訪れていた子どもたちの姿もなく、夕方というより夕暮れという表現がしっくり来るような紅の差し込む店内は、おもちゃたちが飽きもせず延々とにぎやかに騒ぎ続けており、その光景が嫌に哀愁深く感じられてしまう。

 モチャコや他の妖精さんたちに見送られ、店を出た私は急ぎオルカたちを迎えに飛んだ。


 ダンジョンの八階層にて彼女たちと合流を果たしたが、何とも順調に攻略を進めているものである。一日で五階層も進んだってことじゃないかと驚きながら、三人とともにダンジョンを脱出。街へ戻った。

 ギルドにて素材の売却を済ませ、お風呂で疲れを流す。

 しみじみと湯に浸かる彼女らを見て、私ももうちょっと体を動かしたいなと思った。


 それから宿へ戻り、食堂で晩御飯を頂く。

 テーブルを囲いながら、今日の成果を話し合うのは日課である。

 そこで真っ先に問われたのが、私のことだった。魔道具は作れそうか、いい情報はあったか、行き詰まっているなら手伝うよ、などなど。

 私はそれらに、苦笑しながら今日の出来事を伝えた。

 ただし、話せる範囲で。

 というのも、モチャコに魔道具作りを教えてもらうに当たり、幾つかの条件を飲むことになったのだ。

 私は暫し、モチャコとのやり取りを思い起こす。



 ☆



「ねぇミコト、マドーグの作り方、教えてあげよっか?」


 突然そんな事を言いだしたモチャコに、私は我が耳を疑った。

 だってそうだろう。つい今しがたモチャコは、私に魔道具の使いみちを問うたのだ。それに対して私は、武器に使うのだと答えた。

 子どもたちの笑顔が見たいと、おもちゃ作りに精を出す彼女らにとってそれは、忌避すべき使いみちのように思えた。何より私が、後ろめたかったのだ。

 悪用するつもりこそ無いが、おもちゃ作りだなんて平和利用の象徴みたいな使い方ができる技術を、あろうことか私は武器のために使う。暴力のために用いる。

 そう考えるだけで、酷い自己嫌悪に苛まれる。彼女らの目を真っ直ぐ見ることも出来ない。顔向けできないというのは、こういう事を言うのかも知れないな。

 だからせっかくの提案ではあるが、とてもそれを受ける気にはなれなかった。


「ううん、いいよ。自分で勉強するから」

「どうして? 私たちの技術じゃ役に立たない?」

「違う。すごいと思ったよ、妖精さんの技術はきっと人間のそれよりずっと先を行ってる」


 首をかしげるモチャコに、私は正直な気持ちを吐露した。


「そんなすごい技術を、武器になんて使いたくないの。後ろめたいから」

「どうして? ミコトは作った武器で悪いことをするの?」

「しないよ! ……しないけど、武器は道具だから。もしかしたら誰かに盗まれるかも知れない。それで悪用されるかも。それに万が一、私が道を踏み外して、酷いことに使う可能性だってある。良かれと思ってやったことが、他の誰かにとっては悪行だってことも」


 私は本当に、彼女たちの在り方に感動したんだ。

 そりゃ、今日ちょっと知っただけで、深い部分まで見聞きしたわけではないけど。それでも、素敵な在り方だと思った。

 ずっと、そんなふうであってほしいって思った。

 だから万が一にも、彼女らの表情を曇らせるような、そんな技術の使い方はしたくない。

 私はその技術を得るに相応しくない。

 それが、私の考えだった。


「ミコトはすごいね。子供なのにそんな事考えてるんだ」

「それは、さっき教えたでしょう? 私は確かに〇歳だけど、子供じゃないんだよ」

「ううん、子供だよ。だって私のことが見えてるし、話もできる」

「? それは私が〇歳だからじゃないの?」


 モチャコ曰く。

 妖精は人間の子供としか触れ合えない。

 触れ合えないと言うより、干渉できないのだと。

 それはさながらチャンネルのようなもので、人は歳を重ねて大人になっていくに連れ、段々波長がズレていくのだと言う。

 妖精たちのチャンネルからズレていき、やがて姿も見えず、声も聞こえず、触れることも出来ないようになると。

 だから妖精たちの目には、この街が空っぽに見えるのだと言う。子供しかいない街に見えると。

 それは酷く、寂しい光景だろう。街の規模に比べて、子供の数はたかが知れている。きっと空虚な街並みに見えて仕方がないことだろう。

 かと言ってみたところで、モンスターは妖精にも襲いかかる。街の外へ迂闊に出ることは出来ない。

 妖精の棲み家、というのは確かに存在しているらしいけれど、彼女らはそこから飛び出した者たち。そう易々と戻れはしない。

 だから、寂しい人の街や町村を転々としながら、長い時を過ごしてきたのだそうだ。

 モチャコたちに言わせれば、私は二つの意味で子供だと言う。

 一つは、チャンネルが合っていること。姿も見えるし、声も聞こえる。触れることも出来る。完全に波長が合っている証拠だ。それはつまり、妖精たちにとっては子供である証となる。

 そしてもう一つは、年齢。たとえ私が元の一七歳だったとしても、モチャコたち妖精は途方も無い年月を生きてきた。それに比べられては、誰も彼も子供だと言われて、否定のしようがあるはずもない。


「ぐぅ……まぁ、そう言われたらそうかな」

「ねぇミコト。ニンゲンはオカネで物をやり取りするんでしょう? だけどさっきうちに来ていた子たちが、おもちゃと引き換えにオカネを払ったように見えた?」

「え、あ。そういえば……」


 そも、魔道具のおもちゃを買うほどのお金を持っているような子たちには見えなかった。

 特別身なりが悪いとかそういうことではなく、妖精の技術が詰め込まれたおもちゃなんて、とんでもない値が付くに決まってるのだ。そこらの子供が買えるようには思えない。

 けれど子どもたちは、皆が何かしらのおもちゃを握りしめ、心から嬉しそうにはしゃいでいた。


「もしかして、無料配布?」

「ムリョーハイフ? よく分かんないけど、私たちはオカネなんて必要としていないからね。あっても使いみちがないもの。だからおもちゃをプレゼントする代わりに、一つ約束を交わすの」

「約束?」

「そう。このおもちゃ屋さんのことは、大人には秘密にすること。もしそれを破って話しちゃったら、おもちゃはそれっきり動かなくなる」

「どうしてそんな約束を?」

「だってその方が、ワクワクするでしょう?」


 モチャコはそう言って、いたずらっぽく笑った。

 子供だけが知っている場所。子供だけが手に入れられるもの、か。

 うん、確かにワクワクする。

 けど、地球にはモンスターこそいないが、モンスターペアレントなるものがあってだね……なんて言ったら、それこそ夢を壊す結果になりかねないから黙っておこう。黙っておくのが正解かは、正直分からないけれど。


「でもたまにいるらしいの。どこからこんなおもちゃを持ってきたんだー! 盗んだんじゃないだろうなー! って怒る大人が」

「あぁ、やっぱりいるんだ……」

「だからそんな子たちには、おもちゃと一緒にこういう物をプレゼントしているの」


 そう言ってモチャコが、ゴソゴソと近くの棚から重そうに引っ張り出してきたのは……おもちゃの銃だった。


「って銃!?」

「あら、ミコトの世界にはこういうのもあったんだね。そう、これには特殊な魔法が込められていてね、引き金を引くと、ヘンクツに凝り固まった思考を解きほぐして、子供のことを信じるようになるビームが出るの」

「光線銃……っていうか、精神系の魔法!?」


 その手の魔法は私も一応使えるけど、精神を直接操作する系のそれは、かなりえげつない効果をもたらすため習得難度が非常に高い。

 それがまさか、魔道具になっているなんて……妖精の技術は私の想像を超えているようだ。

 しかしそんな物を子供に持たせて大丈夫なんだろうか……。


「勿論、この銃は危ないものだから、色々とセーフティーも施してあるよ? 持ち主に害意を持っている相手にしか発射できないとか、一発撃ったらただのおもちゃになるとか」

「思ったより物騒なものも作ってるんだね……」

「そう、それだよ! アタシたちだって、子供を悲しませるような相手に対しては怒るんだから! ミコトが思うほど、お花畑じゃないの!」

「そ、そこまでは言ってない」


 どうやらちょっと、妖精に対して夢を見すぎてしまっていたらしい。

 彼女たちだって不快に思うことはあるし、そういう物事には強気な態度や手段で当たることもある。

 場合によっては、人の振るう武器より恐ろしいものを用いることだってあるのかも知れない。

 それに彼女らとて、モンスターへの備えは必要なのだ。そうすると普通に武器なんかをこしらえている可能性もなくはないのかも。


「ミコトには、マドーグの作り方を教えてあげてもいいよ。その代わりに、約束を守ってくれるのなら」

「……どんな?」

「まず、子どもたちと同じ。このお店のことを秘密にすること。アタシや、他の妖精のことを内緒にすること」

「ふむふむ」

「それともう二つ」


 なんだろう。手下になれとでも言われるんだろうか……?

 なんて身構えてはみたが、モチャコの言葉は思いがけずと言うか、案の定と言うか、肩透かしをくらうようなものだった。


「一つは、子どもたちを悲しませるような使い方をしないこと。チョクセツテキなのは勿論ダメだし、カンセツテキなのも、意図してやるのは絶対ダメ!」

「意図せず子どもたちが悲しんだら?」

「……あんまり良くはないけど、それは仕方がないことだよ。なるべくそうならないように気をつけてほしいかな」

「うん。わかった」


 これに関しては、私だって好き好んで子供を悲しませるようなことをするつもりはない。

 前世の私の死因は、幼女を庇っての交通事故だぞ。イエスロリータノータッチの精神は今も健在なのだ。

 あ、勿論男の子にだって意地悪はしないよ! ショt……ゲフンゲフン。なんでもないです。


「それで、もう一つの約束って?」

「それは、えっと……えっと……」

「?」


 先を促してみるも、モチャコは暫し顔を赤くして、何やらもじもじしている。

 ぐ、くっ、何だよ、かわいいなぁ! そんな美少女フィギュアみたいななりして、それはずるいと思うんですけど!

 なんて内心で悶えていると、意を決したようにモチャコが口を開いた。


「……な、なるべくちょくちょく、会いに来ること! 子供はどの子もすぐにここへ来なくなってしまうから……アタシたちの技術を学びたいのなら、ミコトはたくさんここに顔を出さなくちゃならないの!」

「そ、それが約束?」

「そうだよ! ど、どう……? 難しいことじゃないと思うんだけど……」


 顔を真っ赤にして、上目遣いでチラチラとこちらの顔色を窺ってくるモチャコ。ぐ、えげつないほど可愛いかよ……!

 お、落ち着こう。一度落ち着いて、話を少し整理してみよう。


 まずどういうわけか、モチャコは私に魔道具の作り方を教えてくれるという。

 しかし私は、妖精の技術を物騒な用途に用いることに抵抗があり、それを断ろうとした。

 けれどモチャコは、私が思うほど妖精は清らかなだけじゃないと言う。腹が立てば物騒な道具も作ると。

 だから約束さえ守ってくれるなら、技術を教えても構わない、と。

 そしてその約束というのが、『妖精について秘密にすること』『技術を使って子供を悲しませないこと』『なるべくたくさん会いに来ること』の三つ。


 こ、こんなに美味い話があって良いものなのだろうか……?

 私としては願ったり叶ったりだけれど、だからこそ心配になってくるレベルで好条件だ。

 しかし妖精のことを秘密にする、という約束があるため、一度持ち帰って仲間と相談するという選択肢も取れやしない。


「モチャコはどうして、私に魔道具の作り方を教えようだなんて思ったの?」

「そんなの決まってるよ。子供にはいつだって、一番欲しいものをプレゼントしてきたの。ミコトが欲しいのはおもちゃじゃなくて、マドーグの作り方だった。だからそれをプレゼントしようと思ったんだけど……もしかして他に欲しいおもちゃとかあった?」

「欲しいおもちゃ……テレビゲーム……」

「てれびげーむ? なにそれ、気になるんだけど!」

「ああごめん、なんでもない。えっと、なるほどね、私が子供だからプレゼントをくれようとした、と」


 矛盾は無いように思える。と言うか、もしも嘘の類があるのなら、真っ先に心眼のスキルがそれを看破するはずだ。

 それが無いということは、モチャコを始め妖精たちに嘘偽りは無いということになる。

 後は私の意思一つ、か。

 仲間たちからも散々、情報の扱いや身の振り方には気をつけろと注意を受けていたため、少々疑り深くはなっているのだけれど、私の直感はここで遠慮するべきではないと告げている。

 心眼の感覚も、すっかり馴染んで来ているため嘘を見逃したとは思えない。

 彼女たちを信じていいんじゃないかと、そう思えた。だから……。


「……わかったよ、約束する。私は妖精のことを誰にも言わないし、子どもたちを悲しませるような技術の使い方もしない。それからなるべくここへは顔を出すようにする!」

「うん。うん!」

「だから、えっと……私の弟子入りを、認めてくれるかな?」

「で、デシ!?」


 ぴゃっと素っ頓狂な声を上げて、空中でもちゃもちゃするモチャコ。

 あれ、妖精には弟子って言葉じゃ伝わらなかったかな?


「手ほどきを受ける立場だから、弟子かなって思ったんだけど。生徒って言ったほうが良かったかな?」

「う、ううん! デシ……そう、弟子だよ! ミコトはたった今から、アタシの弟子! アタシのことはシショーって呼ぶの!」

「わかりました、モチャコ師匠」

「ぴゃぁ」


 今度こそ真っ赤になり、フラフラと床に力なく着地すると、しどろもどろになっているモチャコ師匠。

 目がグリングリン泳いでおり、一生懸命威厳のあるポーズを取ろうとしては失敗し、結局よくわからないことになっている。

 何だこの可愛い生き物は……持って帰っちゃダメですかね?


「あらあら、モチャコってばすっかり舞い上がっちゃってるわね」

「無理もないよー。私たちには上も下もないからねー。モチャコはずっとそういうのに憧れがあったみたいだし」


 と、不意にそこへ声がかかった。モチャコ師匠の傍らに、別の妖精が二体フワリと降り立って、真っ赤なモチャコをからかっている。

 どうでもいいけど妖精の単位ってどう数えたらいいんだろうね。師匠に対して何匹、というのも失礼だろうし。かと言って人でもないしなぁ。やっぱり何体、というのが無難かな?

 なんて思考を散らかしていると、モチャコと特に仲の良さそうなその二体がこちらを見上げて声をかけてきた。


「話は聞いていたわ。ボクはトイっていうの。ボクも教えるの協力してあげるから、トイ師匠って呼んでよね!」

「ボクっ娘だ! 分かりましたトイ師匠!」

「私はユーグ師匠だよー。わからないことがあったら、何でも聞いてねー」

「よっ、ユーグ師匠!」


 なんて話をしていると、以降も続々と妖精の師匠たちが飛んできては、ひと声かけてくれた。

 一口に妖精って言っても、当たり前だけど千差万別。私はとにかく、頑張ってみんなの容姿と名前を覚えることに努めたのだった。


 と、そんなわけで私は晴れて、魔道具作りにおける師をどっさりと得たのである。

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[気になる点] >三人とともにダンジョンを脱出。街へ戻った。 ギルドにて素材の売却を済ませ 主人公の出入りが不審だって話でしたが 街の出入り記録がない者が物資の売却を繰り返すのも不審ではないかなと思…
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