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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一一五話 不思議なおもちゃ屋さん

 カランコロンと鳴るドアベルはしかし、喫茶店にあるような落ち着きのあるものより随分とにぎやかで。おもちゃのピアノでも奏でたかのような音色が出迎えてくれた。

 木製のドアをパタンと閉じれば、そこは紛うことなきおもちゃ屋さん。

 昼間外から覗いた時とは打って変わって、所狭しと展示されているそれらはそれぞれが動いたり、光ったり、奏でたりして目にも耳にも楽しい光景を作り出していた。

 対象的に、窓から差し込む日差しは赤みを帯び、温かみと同時に一抹の寂しさを感じさせる。

 相まって、とてもノスタルジックな気持ちが心をざわつかせ、私はたまらず下唇を噛んだ。


 誘い込まれるように店内をフラフラと散策する。それほど広いお店ではない。

 しかし私の体が大人のそれに近いから、そう感じるのだろうか。

 不意にちょろっと足元を子供が二人、目をキラキラさせながら通り過ぎていった。

 親の姿は見当たらない。子供だけの空間。私だけが異物なような気がして、少し胸が痛くなった。


 改めて棚のおもちゃに目をやり、ようやっと気づいた。

 動いている。誰かが操っているわけでもなく、動いている。

 地球であればそれは、別段驚くようなことではないのだけれど、この世界では違う。

 おもちゃは電気で動かない。動かす機構が備わっていないから。

 ならばコレは何か。何故動くのか。それは……。


「魔道具……なの?」


 今日、いろんな魔道具を見て回った。

 どれも工夫をこらした品々ではあったけれど、こういったおもちゃを見た覚えはない。

 読んだ本から知識を引っ張ってくるなら、魔道具づくりは何も全自動で行われるわけではなく、パーツごとの制作が基本となる、とのこと。

 要は機械の制作に通ずる工程があり、一筋縄では行かないらしいのだ。

 加えてスキルの行使は人の手によるものであるため、量産というのは難しく。結果単価は高く設定されることになる。

 そうすると、こういった子供のおもちゃというのには手が回りにくいと考えられる。

 おもちゃと言えばもっと、ローテクなものが主流であるはず。

 それがどういうわけか、このお店には沢山のおもちゃがある。魔道具式のおもちゃが。


 私はいそいそと視線を巡らせる。店員さんの姿を探したのだ。店員さんになら、何かしら興味深い情報を聞くことが出来るんじゃないかと考えて。

 しかし、どうしてかそれが見当たらない。お店があるなら、大人の店員さんがいて然るべきだろうに、それがいないのだ。

 私は首を傾げ、一先ずお会計のカウンターへ向かうことにした。流石にそこなら店番の人がいるだろうと思って。

 ところが、カウンターの向こうは無人。目につくものと言えば、カウンターの上にフィギュアサイズの人形がぽつんと一体座っているくらいか。

 やけに精巧な作りのお人形だなと思いながらも、私は一先ず店の奥へ向けて声をかけてみた。


「あのー、すみませーん」

「はいはい、どうしたのかな大きなお嬢ちゃん?」

「え」


 びっくりして、軽く飛び退いてしまった。

 返事があるとすればバックヤードの方からだと思っていたのに、しかして声が鳴ったのはすぐ近くからだったためだ。

 なのにどうしてか人影はなく、すわ透明化の魔法かと目を凝らしてみるも、それらしい気配はない。

 けれど心眼は確かに、何者かの存在を捉えていた。

 それが告げる情報を信じるとするなら、今私の声に応えたのはカウンターの上のフィギュアに他ならないはず。


「……もしかして、あなたが喋ったの?」

「そうだけど、すごいねお嬢ちゃん。アタシの声が聞こえるばかりか、姿も見えてるみたい」


 また喋った。今度は見紛うはずもないほどハッキリと口を動かし、その目はしっかりと私を捉えている。

 かと思えばフワリと羽を広げ、その場に浮かび上がってみせたではないか。

 さながら白昼夢みたいに現実味の薄いこの空間で、極めつけのように現れた彼女に、私は心当たりがあった。

 それは本で得た、この世界の知識。

 私からしたら何もかも眉唾じみたこの世界でなお、半ばおとぎ話のように語られる種族の一つ。

 子供の前にしか姿を表さないとされる、特別な存在。


「妖精さん……なの?」

「そうだよ、アタシはモチャコ。このお店のテンチョーなんだ」

「実在したんだね、妖精さんって……。私はミコトっていう冒険者だよ」

「ボーケンシャ? 子供なのに?」

「ま、まぁね。っていうか私が子供に見えるの?」

「だってアタシのことが見えるから。ギャクセツテキにミコトは子供ってことになるよ。おっきな子供」

「待って。その言い方だと意味が違ってくるから」


 どうやら子供の前にしか姿を見せないというのは本当だったらしい。と言うか、大人じゃ見ることができないというのが正しいみたいだ。

 だから妖精を見ることも、言葉をかわすことも出来る私は子供なのだとモチャコは言う。

 確かに私はこの世界だと未だ〇歳だけれど、だから子供判定ってことなんだろうか? 或いは、心眼のおかげで妖精が見えるっていう可能性もあるけど。

 何にせよ、私は今とても稀有な体験をしているのだろう。

 不思議なおもちゃ屋さんだなぁとは思ったけれど、まさか不思議生物が営んでいるお店とまでは想像していなかった。

 驚きのあまり放心気味だったけど、理解が追いついてくるにつれてなんかドキドキしてきた。


「それでミコトは何のご用なの?」

「え、あ、そうだった。実は質問したいことがあって」

「シツモン? 何が聞きたいの?」

「ここのおもちゃって、誰が作ってるの? もしかしてモチャコが自分で?」

「おお! ミコトはお目が高いね! フフン、いいよ。知りたいなら教えてあげる」


 そういうとモチャコは、私を店の奥へと案内してくれた。

 彼女に誘われるままにカウンターの奥へと入っていくと、そこには驚くべき光景が広がっていたのである。

 一言で言うと、そこは……オフィスだった。と同時に工場のようでもある。いや、うーん。違うな。

 ああそうだ、以前テレビかネットで見た、漫画家の仕事場。その様子に近いものがある。

 部屋の大きさは、おおよそ一〇畳くらいの小広い空間だが、仕切りが設けてあって区分けされている。

 中央の区画には幾つもの机が並んでおり、妖精たちがそれぞれの机でちまちまと作業をしていた。

 何をしているのかと言えば、勿論おもちゃ作りである。それぞれの机でそれぞれがパーツ作りに勤しんでいるようだ。

 かと思えば、別の所では新作の企画会議なんかを行っていたり、大柄なパーツの組立作業をしている作業場然とした区画もあり、総じて一つの会社じみている。

 よもや店の奥にこんな空間があろうとは……彼女らのサイズが、皆手の平に乗れるくらいしか無いため、たった一部屋で事足りているのだろう。

 その分机のサイズなんかも随分こじんまりとしており、とてつもなくファンシーな光景に見えた。

 脳裏に過ぎったのは、サンタさんの家ってもしかしてこんな感じなんじゃないの、というイメージ。


「すごい……」

「えへへ、どう? ここでおもちゃを作ってるの。みんなで協力して、時代のニーズに合った製品づくりを心がけてるんだ!」

「ニーズて」


 曰く、子供の間にも流行り廃りというものはあるらしく、妖精たちはそれをつぶさに調査し、常に子どもたちが喜んでくれるものをと一生懸命制作に取り組んでいるらしい。

 おもちゃ屋さんの鑑とでも言うべき勤勉さに感心させられる。

 しかしながら当然、疑問もあった。


「モチャコたちはどうしておもちゃを作ってるの?」

「え、だって楽しいじゃん! 子どもたちが笑うのって好きなの。それにみんなで何かを作るのも面白いから」


 ニカッと笑うモチャコ。心眼を通さずとも、驚くほどの無邪気さがストレートに伝わってくる。

 なんだか、子供にしか見えないというのも納得できる気がした。

 そうして私が彼ら、彼女らの作業風景を目を細めて眺めていると、不意にモチャコの方から問うてきた。


「ところでミコトは、どうしておもちゃを誰が作ったか、なんて気にしたの? 他の子はそんなこと聞いてこないよ?」

「ええとね、魔道具を自分で作れるようになりたいんだよ、私。それでここのお店が気になったんだ。魔道具のおもちゃなんて、他じゃ見なかったからね」

「? マドーグ?」

「こういうのなんだけど、知らない?」


 ストレージから時計を取り出して、モチャコへ見せてみる。

 魔道具としての機能は、せいぜい時間が狂わないようにすることと動力源の供給程度だけれど、これも立派な魔道具だ。高かったしね。

 それを見たモチャコは、へー、ホーとしきりに感心した。すると目ざとく他の妖精も何体か飛んできて、みんなして懐中時計を観察し始める。

 ついには分解してみたいとまで言い出す妖精たち。

 私は少し迷ったが、妖精たちの反応も気になったので、元に戻せるのなら構わないと了承することに。

 するとキャッキャとモチャコを始め彼女らは喜んで懐中時計を宙に浮いたまま受け取ると、重そうに作業スペースへと運んでいった。

 私もその後に続く。うっかり何か踏み潰しては大変なので、ウサ耳と重力魔法で体重をほぼゼロにして、そろそろと彼女らの作業を観察した。


 驚くほど手際よく、私の時計がバラバラにされていく。扱いは非常に丁寧で、彼女らのチームワークも素晴らしい。

 それからものの数分で解析は終わり、あっという間に組み立てが終了。無事に私の手元へ懐中時計は戻ったのだった。

 そして、分解してみた感想はというと。


「なかなか興味深くはあったけど、どれもゲンシテキな技術の組み合わせで、あんまり面白くはなかったかな」

「おぉ……そうなんだ」


 なかなか厳しい意見をもらってしまった。別に私が作ったものでもないんだけど、なけなしのお金をはたいて買った品なだけにちょっとショックである。

 と言うか、今の手際を見ても分かることだが、もしかして妖精の技術力って人間のそれを遥かに凌駕しているんじゃ……?

 魔道具って言葉すら知らなかったから、ちょっと侮っていた部分も否めないのだけれど、実際作業をする妖精たちは紛れもないプロフェッショナルだ。

 もしかすると、子供としか交流がないから難しい言葉を知らないだけ、という可能性はある。

 語彙力と技術力は比例しないってことだ。


「ねぇ、ミコトもそのマドーグっていうのを作りたいの?」

「うぐ。モチャコたちから見たら、原始的かも知れないけどね。それでも、私は“魔法の力で動く道具”の作り方を覚えなくちゃならないんだ」

「ふぅん。なんのために?」

「ぶ……武器を作るために」


 なんだろうこの、妖精さんに武器の話をすることの後ろめたさよ。

 技術を悪用しようとしてますと宣言したような、このいたたまれなさ。

 どうしても私の脳裏に浮かぶのは、前の世界のこと。モンスターなんていなかった世界で、武器といえば戦争に用いられるものだった。

 そのイメージが未だに色濃いため、私自身武器に対して恐れや忌避感を感じる部分は、未だにあるのだ。

 それらは純真な妖精たちに触れてほしくない、人の業のような気がして。私はたまらず目を逸らした。


「作った武器で、何をするの?」

「……モンスターを倒す。身を守る。それから、鏡のダンジョンに行く……かな」

「鏡のダンジョン?」


 私は、問われるままに話した。

 鏡のダンジョンへ向かう目的。私は私自身のことがよく分からないこと。生前のこと。

 魔法が使えることや、変なスキルが使えることも少々。

 モチャコはそれを興味深そうに聞くと、ふむと一つ間を作り、言った。


「ねぇミコト、マドーグの作り方、教えてあげよっか?」

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