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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一一二話 下着のお姉さん

 モザイクという魔法には、二通りの使い方がある。

 一つは普段私がワープスキルを用いる際に併用しているような、掛けられた当人からはモザイクが見えないが、他人からはしっかりモザイク処理が見えるという、さながらマジックミラーのような使い方。

 対してもう一つは、自身にも掛かったモザイクが見える使い方。

 後者は存外、戦闘においても役に立ったりする。例えば敵の顔面にモザイクを施してやれば、それだけで視界を奪うことが出来るし、状態異常系の魔法ではなく、直接付与系のそれに当たるためMNDによる抵抗を受けないというのも大きい。

 前者の方であれば、自身ではそれを認識できない、という魔力干渉系の要素も加わるため、MNDに弾かれる場合もあるのだけれど。

 斯くいう現在、目の前の女性へ施したのは前者のモザイクだったりするわけだが、狙い通り当人はその変化に気づいていないようだ。MNDによる跳ね除けは起こらなかったらしい。

 初対面の相手に魔法を施すだなんて、実際とんでもなく失礼というかマナー的にアウトなことなのだけれど、今回ばかりは勘弁願いたい。何せこれなしでは気が散ってまともに話もできないのだし。

 ただもしモザイクに気づかれたなら、平謝りするしか無いだろうけれど。しかしその際は服を着てくださいと抗議の一つもせねばなるまい。


 そう。私とクラウの目の前に立つこの女性。

 あろうことか、とんでもなく布面積の小さな下着だけしか身に着けておらず、色々と見えちゃいけないものがはみ出しちゃっているような有様だったのだ。

 目のやり場に困るどころの話じゃない。

 そんな痴女かと見紛うほどのこの人こそ、オレ姉が紹介してくれた腕の良い防具職人ハイレさんだというのだから、一体彼女とオレ姉がどういう関係なのか、興味がむくむくと湧いてくる。

 が、それは後回しだ。私たちはまだ、挨拶の言葉もろくに述べてはいないのだから。


「突然押しかけてしまってすまない。私は冒険者をしている、クラウという者だ。こちらはミコト。最近行動を共にしているPTのリーダーを務めている」

「どうも、ミコトです」

「あら! ミコトさんとても綺麗な声をしているわね! お顔は見せてくれないのかしら?」

「う、それは勘弁してください。ちょっとしたコンプレックスなもので」


 ぐいっと詰め寄ってくるハイレさんにたじろぎながら、私はさっとクラウの後ろに隠れる。ほらメイン盾! ちゃんと仕事して!

 クラウは苦笑を浮かべると、許してやってくれと間に入ってくれた。


「あら、残念ね。まぁいいわ、それで有名な女騎士様が私にどういった御用なのかしら? それとも用があるのはミコトちゃんの方?」

「いや、私だ。実は先日、愛用していた甲冑をダメにしてしまってね、新調したいと考えているのだが、せっかくなら腕のいい職人に仕立ててもらおうと考えたのだ」

「私はまぁ、それに便乗した形ですね。尤も、今は金欠なのでオレ姉が紹介してくれた人がどんな人か、様子を見に来た感じですけど」


 そう言って、オレ姉に書いてもらった雑な紹介状をハイレさんへ手渡すと、彼女は喜色混じりの驚きを見せた。

 紹介状を確認すると、相変わらずあの子は雑ねと微笑む。とても綺麗な人だなと思った。その格好さえなんとかなれば……。


「まったく、それなら早く言ってくれればいいのに。いいわ、ここは暑いから向こうで話をしましょう」

「ハイレ殿は、暑いからそのような格好をしているのか……?」

「ん? そうねぇ、当たらずとも遠からず、と言ったところかしら」


 なるほど、半分は趣味だと。心眼のせいで、彼女の考えていることが大体分かってしまう私は、内心でげんなり。

 っていうかそんな格好で防具作りして、危なくはないのだろうか? なんとも不可解な人である。

 工房には当然、金属を熱するための炉があり、室温はゴリゴリに高いわけで。お話をするのは別室に設けられた応接室のような部屋でということになり、ハイレさんに続いて工房を後にする。

 モザイクがあって本当に助かった。さもなければ、目の前を歩く彼女のお尻に目が行ってしまうところだった。

 そうして私たちはこれまた上品な一室へと通され、ハイレさんとテーブルを挟む形でソファへと腰を下ろした。ふかふかの座り心地だ。

 しかし目の前で、相変わらずほぼ全裸の彼女が同じくソファへ腰を下ろすのを見ると、一体どんな感触を覚えているのだろうかと変な興味が湧いてきて、私の中の変態チックな部分が刺激されている気がする。よくない傾向だ。

 でも気になるでしょ。普段ソファに腰を下ろすのなんて、ズボンやスカート、それに下着を間に挟んでの感触だもの。それが直接素肌に触れるって、どういう感じなのか……っていかんいかん、何考えてるんだ私は!


 私が密かに新たな扉を開きかけているとも知らず、クラウとハイレさんは早速話を始めた。


「さて、それでは改めまして。防具職人のハイレよ。防具全般のデザイン、設計、制作、お店の経営までやらせてもらっているわ」

「これだけの店を、防具作りの傍らに経営とは……見事な手腕だな」

「あら、お店の方は見てもらえたようね。それなら私の防具は女騎士様のお眼鏡にかなった、と受け取って良いのかしら?」

「ああ。あれだけの数の品々、それら何れにおいても細部まで丁寧に仕上げてあった。歪みも淀みも無い造形、見事なものだ。どういった生産体制を取っているのかは知らないが、あなたの腕が確かであることは疑いようもないだろう」


 クラウが真っ直ぐな瞳でそう返すと、ハイレさんは薄く微笑んで礼を述べた。何とも大人なやり取りに思えて、私なんかは挟む口の持ち合わせが無い。

 クラウの年齢って、生前の私とそう変わらないはずなんだけどな。なんでこんな飄々としているのか。

 私だけ手持ち無沙汰で、二人のやり取りをボケーっと聞いていると、そこへ先程の店員さんがお茶やお菓子の乗ったトレイを抱えてやって来た。

 そしてハイレさんの姿を目に入れると、ぎょっとして危うくトレイを落としそうになる。

 そんな気がしていたので、私は素早く反応して彼女を支え、なんとか事なきを得た。

 しかしながらコレを訝しんだのは、他ならぬハイレさんである。

 私はどうにもいたたまれず、素直に事情を説明して謝罪することに。


「いやその、ハイレさんの恰好があんまり刺激的だったもので、つい魔法で隠させてもらいました。ごめんなさい……あ、勿論体に害なんかは一切無いので!」

「魔法……ミコトちゃんは魔法でそんな事が出来るのね。何という名前のマジックアーツなの?」

「【モザイク】です。使用すると、ええと……こういう感じになります」


 そう言って店員のお姉さんが並べてくれたティーカップの中から、私の分のそれへとモザイクの魔法を行使する。

 するとたちまち、元の形が分からぬほどのモザイクエフェクトがかかり、ハイレさんは驚きに目を見開いた。


「へぇ、すごいわね! これが今、私の体に掛かっているの?」

「見えちゃ不味そうな部分にだけ、ですね」

「とっても興味深いわ!」


 ハイレさんは、先程までの大人っぽい雰囲気から一転、目をキラキラさせて私の魔法へと食いつきを示した。

 それは何処かスキル大好きソフィアさんを彷彿とさせ、思わずたじろいでしまう私。

 あれこれと質問を投げてくるものだから、私は視線でクラウへ助けを求めた。店員さんはいつの間にか去ってしまっている。

 救援要請を受けたクラウは苦笑を浮かべると、ハイレさんへ声を掛ける。


「すまないがハイレ殿、このミコトは変わったスキルの持ち主でね。要らぬトラブルを避けるために情報は極力秘匿するようにしているのだ。その辺り察してもらえると助かる」

「あら、そうなのね……残念だけれど、そういうことなら仕方ないわ」


 思いがけずあっさりと引き下がってくれたハイレさん。

 こういう時、心眼のスキルは便利だなと感じた。彼女が聞き分けてくれたことが、確信を持って理解できるから。

 名残惜しい感情は持ちつつも、きちんと分をわきまえ、それ以上追及するつもりがないのだと読み取れた。

 これがソフィアさんだったなら、口で何と言いながらも、絶対追及はやめないという強固な意志がありありと見て取れることだろう。


 クラウといかにも大人な、交渉じみたやり取りを繰り広げていたハイレさんだったが、今のくだりを経て幾分態度が軟化したように見える。

 クラウもそれを察してか、腹を割ってのやり取りへと移行していった。


「確かに腕は良いと分かった。だが、実用に足るものかは試してみないことには判らないからな。申し訳ないが、貴女に注文をするかは決めかねている。それに私の事情ばかりを押し付けるのも忍びない」

「こんな大きなお店をやり繰りしてたんじゃ、特注品の製作も難しそうだよね」

「ああ、その点は心配要らないわ。流石にお店の商品を全て私一人で賄っているわけではないもの。特注を受ける余裕くらいは捻出できるわ」


 曰く、彼女のデザインした防具を量産するスタッフが別途いるらしい。それも店に並べるにあたって、彼女自らチェックは欠かさないという。

 なので特注防具の生産は引き受けることが出来ると。

 ただし、それは余程ハイレさん自身が気に入った人にしか適用されないルールであり、基本的には断るようにしているのだと言う。


「なるほど、私もまた貴女のお眼鏡にかなわねばならないようだ」

「ハイレさんはどうやって受注するかを決めてるんです? 注文を受ける相手の基準、とかあるのかな?」

「ええ、あるわ。唯一にして、絶対の基準が」


 彼女はそう行って、一拍の間を取った。

 そして私たちをまっすぐ見据えて言う。


「私に制作したいと思わせることの出来る相手。それが、私に注文をつけることの出来るお客様の条件よ」

「オレ姉もなかなか変わったこだわりを持っていたけれど、ハイレさんも負けず劣らずこだわりがあるんですね」

「そういう職人気質、嫌いではないな。しかしふむ、なかなか難しい条件ではある」


 ハイレさんの提示した条件に、考え込むクラウ。

 少しの沈黙が場に漂い、私は何となく間を繋ぐべきかと口を開いた。

 実は一つ気になっていることがあったのだ。


「ところで、ハイレさんの今着けているその下着って、もしかして自作のものなんです?」

「? ええ、そうよ。私が身に着けている衣類は、基本的に自ら手がけたものばかりね」

「売り場にもありましたね、下着……もしかしてなんですけど、ハイレさんって『下着にも防具としての役目がある』ことに気づいてたりします?」

「「‼」」


 それは以前、上限装備枠についてあれこれ調べていた時に発見したこと。

 この世界には、一定種類以上同時に装備アイテムを身に着けると、新しく装備しようとしたものが塵になって消えるというルールがある。

 そこで私は、試しにショーツもブラも外して装備を追加で身につけてみたことがある。

 結果、普段より二つも多く装備を身に着けることが出来たのだ。

 それで確信した。ショーツもブラも、装備可能枠を一つずつ埋めているのだと。

 しかしながらこの世界の人は、その事実に気づかない。だって装備枠を上限まで埋める人自体が稀だから。

 この世界の装備品は、直接ステータスの値に補正がかかるようなものではない。

 剣なら剣が何かを斬りつける際、初めてステータスに威力補正が乗ったりする。

 防具なら、その防具にピンポイントで攻撃を受けた際、威力減衰が働くという仕様なのだ。

 なので、無闇矢鱈に装備品を増やしたところで、下手をするとただ動きにくくなるだけ、ということもあり得るわけで。

 なので大体の人は、装備枠を常に余らせて過ごしている。

 だから下着に装備としての効果があるだなんて、気づいてる人は滅多にいないのだ。

 たとえそれが、防具職人を生業としている人であっても、である。


 故にこそハイレさんには、もしかしてと尋ねてみたわけだ。

 お店の方には、他の衣類とは別に、下着コーナーというのがしっかり設けられていた。

 服屋に、ついでだから下着も置いてあるだけ。そう考えることも出来たのだけれど、ハイレさんはわざわざ下着まで自ら手がけていると言う。

 だからもしかして、と思ったのだが。


「驚いた……ミコトちゃんもその事に気づいていたのね。誰かに聞いたの?」

「いえ、自分で考えて調べた結果、確信を得ました。下着を着けないならその分更に装備を追加できると仲間に語ったら、やめてくれって止められちゃいましたけどね」

「私は初耳だったな。私と出会う前の話か?」

「うん。結構前だね」


 殊の外クラウがその話題に食いつきを見せ、しきりに関心を示してくる。

 甲冑はパーツも多いから、装備枠をガッツリ埋めちゃうもんね。だから下着を犠牲に別のアイテムが装備できる、というのは彼女にとって朗報だったのかも知れない。

 他方でハイレさんはと言うと、しばらくの間わなわな震えていたかと思えば、不意にすくっと立ち上がり、私をまっすぐに見据えてこう言ったのだ。


「ミコトちゃん、貴女の下着が見たいわ! ねぇ、今ここで脱いで見せてくれない!?」


 うわぁぁ! やっぱり変態じゃないか!

 久々に誤字報告をいただきまして。

 不謹慎とは思いましたが、正直嬉しかったです。

 何せ最近、ただただ書いて投稿するばかりでしたからね……読んでくれてる人は絶滅したんじゃないかと本気で思ってました。

 あなたが絶滅危惧種か……よくぞ誤字を見つけてくれました!

 あと、誤字してごめんなさい。もしまた何か見つけたなら、遠慮なく報告いただければと思います。

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[一言] 「普段ソファに腰を下ろすのなんて、ズボンやスカート、それに下着を間に挟んでの感触だもの。それが直接素肌に触れるって、どういう感じなのか……っていかんいかん、何考えてるんだ私は!」 いやいや…
[良い点] 誤字報告さぼってたのはアレです、誤字見つけたけど1話読み切って満足して忘れ、次の日の更新で思い出しても満足して忘れ⋯⋯(以下ループ 次の更新も楽しみにしてます!ミコトちゃんと露出おねーさ…
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