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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一一一話 防具屋さん

オレ姉のお店は、街の中心からは些か外れた立地にあり、こう言っては何だがあまり客足は多くない。

 ただし取り扱っている商品は何れも質が良く、何代も続いているお店ということもあって、お得意様というのは多いようだ。

 それに対し、彼女から紹介してもらった防具職人さんのお店兼工房というのは、随分と街の中心部にあるのだなと思う。

 このアルカルドという街は決して小さいものではない。幾つもの街道が交わる場所で栄えたこの街は、物流の盛んな商業の街と言っていいだろう。

 それに対して私たちが普段通っているのは、ギルドや冒険に必要な武器や防具、薬に雑貨等を扱っているお店など。わざわざ街の中心部にまで足を伸ばさずとも、十分に事足りてしまうのだ。


 それはまぁ、良い服なんかを求めるなら話は違ってくるだろうけれど、冒険者がそんな物を持っていても嵩張るだけだ。

 私にはストレージがあるから、例外の部類には入るのだろう。でも普通の冒険者にとっては、オシャレ用の服なんて荷物にしかならないわけで。

 特定の場所に腰を落ち着けての活動、というのなら別だろうけどね。持ち家があったりとか。

 でもそうでないのなら、何処か別の場所へ拠点を移す際、引っ越しだなんて大袈裟なことはやっていられないものだ。

 衣類なんてある程度着回せる分だけ持っていれば十分であり、溜め込んでいてもどうせ売ってしまうのが関の山。ならば始めからそんなものにお金を掛けず、装備を買おうというのが冒険者の価値観というものである。


 そんなわけで、普段あまり足を運ばない街の中心部。

 私とクラウは今現在、そこへ向かっていた。

 それというのも、オレ姉に教えてもらった腕利き防具職人さんのお店というのが、中心街にあるからだ。

 一筆したためられた雑な紹介状の裏にも、一応住所をつらつらっとなぐり書いてくれているが、やはり間違いない。

 オレ姉オススメの職人さんは、中心街にお店と工房を構えている。


「なぁミコト、中心街で売られている装備だなんてたかが知れていると思うのだが、大丈夫なんだろうか?」

「まぁ、実用性を重視した装備なら、冒険者ギルドの近くでこそ売られているだろうね。その方が需要もずっと高いだろうし、それ故の販売競争や、商品品質の競い合いなんかも生じやすい」

「……変なことに詳しいんだな」

「それ褒めてるの?」

「一応」


 クラウの懸念は、冒険者があまり足を運ばない、つまり需要の低い中心街で店を構えているような職人の腕が、果たして本当に信頼できるほどのものだろうか、ということだ。

 私としても、少し心配ではある。でもあのオレ姉が紹介する人だし、腕の方は確かだと思う。

 だとするなら……。


「もしかすると、すごく変な人が出てくるかも知れない……」

「? どうしてそう思うんだ?」

「オレ姉の紹介する人なら、きっと実力は確かだよ。でも普通に凄い人なら、わざわざ中心街になんて店を構えない。だとすると何かしら事情を抱えている人って可能性が高いと思うんだ」

「ふむ、例えば商人と何らかの契約をして、中心街の方に店を構えることになった、とかか?」

「或いは、自分で望んで店を構えているか。もしもそうだとすると……変なこだわりを持った人って可能性が高いかなと」


 私の推測に、ふむとクラウも考え込む。

 そうして少し逡巡した後、私の方を向いて一言。


「気を引き締めていこう」

「だね」



 ★



 時刻は午後三時を回った辺りか。雨はようやっと引っ込み、湿った石畳の上をコツコツと歩く。

 こころなしか舗装の質が、ギルド周辺よりも良く感じられる。まぁあっちは荒事を引き受けてお金を稼いでいるような、腕っぷしの民が集う場所だからね。それほど上品な道路も必要ないというわけだ。

 街並みも綺麗で、何処か上品さがある。生前テレビで見た、海外の街並みを彷彿とさせる感じだ。

 ギルドのある地区とは趣が異なっており、成程商人の街かと納得できる。

 人の往来は、雨上がりということもあり落ち着いたもので、広い通りのわりに混雑は感じられなかった。

 とは言え、流石にフードと仮面で怪しさマシマシの私なんかには、チラホラと訝しんだ視線が投げかけられるわけだけれど。

 最近得た心眼スキルのせいで、それらがいちいち顕著に分かってしまって、辟易としてしまう。

 それを目ざとく察知し、スッと私を人目から護ってくれる辺り、女騎士だなぁと感心した。流石クラウ、イケメン女子だ。


 そうしてしばらく歩けば、ようやっと目的の建物に行き着く。

 想像していたよりもずっと大きな佇まいに、私もクラウも一瞬唖然としてしまった。

 三階建の、デカデカとした店である。オレ姉のお店の何倍くらい広いんだろう……なんて比べちゃダメだな。

 私たちが求めているのは、店の大きさではなく装備の質だからね。

 クラウと一つ頷き合うと、私たちは揃って店内へと足を踏み入れたのである。


 一目で、なるほどと思った。

 店内は広く、明るく、清潔的で、そして小洒落ている。

 装備を取り扱っているお店とは思えないほど、物々しさとはかけ離れた空気感。

 防具屋さんと言うよりは、おしゃれな服屋さんだと言われたほうがしっくり来るような、そんな雰囲気だった。

 ちらりと隣を窺えば、案の定クラウが胡乱げに眉根を寄せている。


「とりあえず商品を見て回ろう」

「……そうだな」


 流石、美麗な容姿を台無しにするような、全身甲冑に身を包んでいた女。本気で装備のデザイン性などには興味がないらしい。

 かくいう私も、ファッションセンスというのには自信がない。あるとすれば二次元のそれくらいだ。

 まぁそういう意味だと、日常が二次元みたいな世界なので、私のファッションセンスもキラリと輝きを見せちゃうかも知れないんだけどね。中二ファッションでもバカにされない世界……か。

 遠くを眺めながら生前の記憶に思いを馳せつつ、私たちはオシャレに展示されているスタイリッシュな防具へ近寄っていった。

 綺麗な白いマネキンが、形の良い軽装を着せられ飾られている。本当にファッション性が高いなぁと、内心で驚いた。

 今まで私が訪れきたお店の中では、こんな洒落た防具なんて見たことがなかったから。


 一方でクラウはと言えば、真剣な表情で食い入るように装備を睨みつけている。

 それは紛うことなき、冒険者の目だ。防具に性能だけを求めている人の目。

 私もそれを見習い、改めて真面目に防具へ視線を移した。

 見た感じ、とても丁寧な仕上がりのように感じられた。流石にどの程度の防御力があるか、なんていうのは見ただけじゃ分からないけれど。


「クラウ、どう?」

「……そうだな、悪くないと思う。ただ流石に私も、見ただけでは詳しい良し悪しまでは分からないが」


 クラウも私と似たような感想を持ったらしい。

 ともあれ、店内は広い。上の階層もある。なので私たちは一通り店内を回り、品物を物色してみることにした。

 職人さんを訪ねてやって来たわけではあるけれど、必ずしも特注じゃないといけない、なんてことはないわけだからね。

 これぞというものがあるなら、それを買って帰れば良いのだ。

 とは言え、どれもこれもいいお値段の物ばかり。おいそれと手が出る代物ではない。

 特に私の場合は、オレ姉に武器の注文をしているので、正直金欠気味だ。防具を買うだけの余裕は無いので、今日は下見ということになる。あと職人さんとの顔合わせ。

 クラウの懐事情までは知らないけれど、彼女にとっても安い買い物ではないだろう。品物を吟味する視線は真剣そのものだった。


 2階3階と回って、このお店が中心街でも支持される理由というのが分かった。

 防具だけでなく、普通に服も取り扱っていたのだ。或いは、服に近い防具も。

 広義に於いて、この世界の衣服とは大体が装備品なのだ。職人がスキルを駆使して制作した、身に着けるアイテムは何れもが装備品であり、故に防具だと言える。

 そういう意味では間違いなく、この店は防具屋さんといって差し支えないわけだ。だから服も取り扱っている、と。

 しかも、デザイン性に優れているというのが、この店を繁盛させている理由の大部分だろう。

 この私ですらつい欲しくなっちゃうようなものが、幾つも目についたほどだからね。買わないけど。


 それともう一つ。

 デザイン性を追求するあまり、やたら際どい防具というのが幾つもあった。

 おへそが出ちゃうものや、生足がガッツリ出ちゃうもの、何ならまさかのビキニアーマーなんてものまで並んでいた。

 これにはかなり面食らったのだが、他方でクラウはそれらに対しても真剣な目で品定めを行っているものだから、もしかしたら性能に満足しさえしたなら、普通に着ちゃうかも知れないぞこの娘。

 ある意味恐々としながら、私たちは物色を終えて一階まで戻ってきていた。


「ふぅ、ガッツリ見て回ったね。なんか凄いお店だった……」

「確かにな。どの商品も、しっかりと細部まで妥協の見られない作りをしていた。職人の腕は間違いなく一流だろう」

「それじゃその職人さんに会えないか、店員さんにでも訊いてみよう」


 残念ながら、クラウのお眼鏡に適うものはなかったのか、はたまた職人さんと話してみてから決めようというのか、店内で彼女が何かを購入するということはなかった。

 冷やかし客だと思われても気まずいので、私たちは会計カウンターのお姉さんに声を掛け、職人さんに会いたい旨を伝えた。

 最初は渋ったお姉さんだったけれど、クラウがAランク冒険者で、巷では女騎士と呼ばれていることを教えたところ、すぐに奥へと引っ込んで行き、少しするとスタッフオンリーのエリアへ通された。


 本来一般客は立ち入れないドアをくぐって、バックヤードへ。なんだかドキドキするね、こういうの。

 店員のお姉さんに続いて通路を奥へ奥へ進んでいくと、そこには工房があった。

 足を踏み入れた瞬間襲いくる、特有の室温に圧倒されながら、私たちはお姉さんの後を追う。

 気温こそ大差ないものの、オレ姉のところと違って余り埃っぽくないと言うか、清潔感があるというか。

 床も壁も、白い石材を基調とした造りになっており、何とも小洒落た感じがある。店構えどころか、工房からしてこんななのかと感心しながら見回していると、作業をしている女性を一人見つけ、そして私たちは固まった。


「ハイレさん、女騎士様とそのお連れ様をお連れしました」

「ええ、ありがとう。茶の用意も頼めるかしら?」

「はい、すぐに!」

 

 店員のお姉さんは、パタパタと何処かへ早足に去っていく。私たちは取り残された形だ。

 だが私もクラウも、そんなことは意にも介さない。

 お姉さんに指示をした、この女性こそがこのお店の主であり、防具職人その人なのだろう。

 入店する前に、もしかしたら変な人かもしれないという予想は出来ていた。心構えも。

 だけれどまさか、そう来るとは……。


「ようこそ、私のアトリエへ。私がここのオーナー、ハイレよ」


 そう言って握手を求めてくる彼女は、どういうわけだか下着姿だった。

 しかも、とびきり布面積の小さい……っていうかちょっとはみ出てますけど!

 すかさず私のモザイクが火を吹いた。

 クラウがアイコンタクトで、賞賛を送ってくる。

 オレ姉がいたずらっぽく笑っていた理由の一端を垣間見た気がして、妙に合点がいった。


 こうして、私とクラウは防具職人のハイレさんと、初対面を果たしたのである。

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