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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一一〇話 もう一つの課題

 素材が秘めた特殊能力。それはそこそこ鑑定のスキルが使える程度では、詳細を調べることはおろか、特殊能力の有無さえ見極めることが出来ないという。

 その素材が特殊能力を秘めているかどうか、というのを判別できるだけでも、十分に腕の良い鑑定士を名乗れるそうだ。

 しかして、私たちが探しているのは特殊能力の詳細までも見極めてしまえる、超一流の鑑定スキル保持者。


 そして今目の前にいるのは、長年ギルドの買取カウンターにて、冒険者達が持ち込んだ素材を毎日のように鑑定し続けた買取おじさんだ。名前は知らない。

 このおじさんならばあるいは、特殊能力を見抜く目を持っていてもおかしくないと思ったのだけれど。


「素材の特殊能力? いいや、ちょっと分からないね」

「むぅ、そうなんですか……」


 ということで、特殊能力の有無くらいならば判別できるけれど、その詳細鑑定までは出来ないと言うおじさん。

 スキルの成長システムがどうなっているのかは知らないけど、もし経験値方式でレベルアップするのだとしたら、毎日鑑定しまくっているおじさんのスキル経験値はきっと膨大なものになっているはず。

 それなのに特殊能力の詳細を見極められないというのは、それだけ鑑定のレベルアップが難しいってことなのか、あるいはおじさんのレベル上限、みたいな問題なのか。もしくはもっと別の要因があるのか。

 ともかく、私たちの当ては完全に外れてしまったことになる。

 私とクラウは揃って肩を落とし、踵を返すのだった。


 用件も済んだことだし、オレ姉のところへ戻ろうかとロビー出口へ向かって歩を進めていると、不意に背中から声がかかった。

 聞き馴染みのあるそれは、ソフィアさんのものだった。


「お二人とも、もうお帰りですか?」

「ですね、ちょっと当てが外れちゃったので」

「む、そういえばソフィア殿なら心当たりがあるのではないか? 職業柄顔は広いだろう」

「女性に向かって顔が広いとは失礼な……」

「え、あ、いや、そういう意味ではなく」


 たじろぐクラウ。ソフィアさんは表情を変えずにそういうことを言うものだから、冗談なのかそうでないのか分かりづらいのだ。

 私はソフィアさんを窘めながら、話を本筋に戻した。

 軽く事情を説明した後、超一流の鑑定士に心当たりはないかと問うてみる。


「超一流の鑑定士ですか。それはまぁ、そこらの大きな商会を当たれば一人や二人いるんじゃないですか? ただそうなると、鑑定の度にそれなりのお金がかかってしまいますし、何よりミコトさんを商人と関わらせるのは嫌な予感しかしません」

「ああ、それは私も同感だな……」

「出たな過保護ムーブ! それなら、他に誰か心当たりはないんですか?」

「そうですね……なくはないです」


 そう言ってソフィアさんは、ぽんと私の肩を叩く。

 仮面の下で私は、期待の表情を固めたまま首を傾げた。


「え、なんですかその肩ポンは?」

「ですから、心当たりですよ」

「ああ、なるほど。ミコトならやりかねないな」

「ちょっと!」


 クラウまで話に乗っかるが、待って欲しい。

 さっきオレ姉のお店で私は、魔道具の勉強を始める決意を固めたばかりなのだ。

 それが何さ、鑑定? 今から鑑定スキルを覚えて、鍛えるって!?


「待って待って、流石に無理があります。その道三〇年のおじさんが無理だって言ってるのに、私に出来るわけないじゃないですか!」

「いえ、あの方はその道まだ二〇年に満たないらしいです」

「そんな細かいことはいいんですよ! 要はそれだけ沢山鑑定を行っても達することの出来ないような、物凄く高いレベルが求められるってことじゃないですか」

「剣の道で言うなら、達人の領域を目指すようなものか。そう考えると確かに一朝一夕で出来ることではないな」


 クラウも真面目に考え直してくれたようで、ソフィアさんの言うことを無理筋だと思ったようだ。

 しかしこのスキル大好きソフィアさんが、何の勝算もなくこんなことを言い出すとも思えない。

 一体、何を考えているのだろう……?


「ミコトさん、遮音をお願いします」

「え、あ、はい」


 私が訝しんでいると、彼女は相変わらずあまり変化のない表情のまま、会話が他に聞き取られぬよう、音を遮る魔法を展開しろと私に指示してくる。

 面食らいつつも、すかさずそれに応える私。発動までは一瞬だ。

 この世界の魔法というのは、マジックアーツスキルとして一度登録しさえすれば、後は別に深い集中が要るだとか、強烈なイメージが必要、だなんてことはない。

 ただ発動を念じながら口頭で唱えれば魔法が展開されるし、慣れたら口に出す必要すら無い。強く念じるだけで魔法は起こるのだ。これはスキルにも言えることである。

 なので、驚いた拍子に発動を念じたとて、魔法の効果が不十分、だなんてことにはならない。


 私が発動完了を頷きでソフィアさんへと伝えると、彼女は口元に手をやり、唇の動きを他人に見られぬよう注意をはらいながら言うのだ。


「ミコトさんのストレージには、簡易的ながら鑑定に近い効果があるでしょう。それを鍛えればいいのですよ」

「はっ……‼ そういえばそうでした!」

「そんなものがあるのか……でもどの道、鍛錬は必要そうだな」

「そこはそれ、ちょうど現在鍛錬期間中なのでしょう? 丁度いいじゃないですか」


 私が魔道具の勉強をすることになったと、ソフィアさんはまだ知らない。だから気軽にそんな事を言うのだろうけれど……怖いのは、それを分かっていたとしてもこの人なら普通に同じことを言いかねないところだ。

 オルカたちがゴーレムを相手に修行を繰り広げている中、私だけちょっと暇を持て余す形になっていたのが、あれよあれよと一変してしまった。


「ちなみに、他に鑑定士の当ては……?」

「ありませんね。あったとしても鑑定士は立派なお仕事ですから、それが超一流の相手ともなれば相応のお金を取られますよ」

「ぐぬぬぅ……」


 どうやら、おとなしくストレージの機能に期待して鍛錬に力を入れるのが早道なようだ。

 理想の武器を作るのって、こんなに大変なんだな……たくさん回り道をさせられてる気がする。

 それになんだか、ソフィアさんの口車に乗せられた気もするし。だってこの人多分、アイテムストレージっていうレアスキルの成長が気になってるだけだもん。

 その証拠に、表情筋死にがちのソフィアさんがニコニコじゃないか。なんだその笑顔は。美人が引き立つなぁ、もう。


 斯くして、私は魔道具の勉強以外にも、ストレージを集中的に鍛える訓練をすることになった。

 寝ている間は今もストレージ訓練を継続しているらしいし、密かにウエストバッグ内のものを高速でストレージ内に出し入れするっていう訓練は未だに継続してやっているんだけど、そういえば最近はレベルが上っていないな。そろそろ上がっても良さそうなのに。

 やっぱりレベルが高くなってくると、それに比例して成長しにくくなっている感じはあるかな。

 ましてアイテムストレージのような便利スキルだもん。育ちにくくて当たり前、という気もしている。

 はてさて、これを一体どうやって今以上に鍛えたものやら。ちょっと考えないといけないかもな。



 ★



「ただいまー」

「おおミコト、どうだった?」


 ギルドを後にした私たちは、その足で再びオレ姉のお店へ向かった。

 お店に着くなり早速オレ姉へ、ギルドでの話を伝える。即ち、私が鑑定をも担当することになった、と。

 それを聞いたオレ姉はと言うと。


「なるほどなぁ、まぁ武器のためだと思って頑張っておくれよ。それにあんたがそれだけ高度な鑑定を使えるようになったなら、今回だけじゃなくこの先何かと役に立つんじゃないかい? なんたって商人には垂涎のスキルだからね」

「確かにそうだな。良い素材を自身で見分けられるようになれば、それを買い叩かれるようなこともなくなるだろうし、うっかり貴重な特殊能力の宿った素材を手放してしまうことも無いはずだ」

「おぉ……そう聞くと、確かに普通に冒険者として有用なスキルだね……まぁスキルっていうか、ストレージの副次的な効果なんだけど」

「集中的に鍛えたら、派生するかも知れないだろ?」

「なるほど」


 純粋にストレージ本来の機能を鍛えるんじゃなく、疑似鑑定の効果にフォーカスを当てて強化を促してみれば、派生して鑑定に類するスキルを得ることが出来るかも知れない。

 あるいは、鑑定スキルそのものが生えてくるかも知れないけど。まぁそれならそれでいいか。あって困るものでもないし、その場合は普通にストレージのレベルアップを図ればいい。


 ということで、オレ姉の武器づくりはしばらくの間私の成長待ちということで停滞しそうである。

 一応彼女なりに、もっとアイデアを練っておくとのこと。

 そうして話が一段落したところで、次はクラウの用件へ話題を切り替えていく。


「それでオレ姉、今日クラウが一緒に来たのには理由があるんだけど」

「ん? ああ、武器を見に来たのかい?」

「いや、すまない。武器は愛剣があるため、今は間に合っているんだ」

「? なら用ってのは」


 クラウは、先日鬼のダンジョンで甲冑がダメになってしまい、今は間に合わせの品で凌いでいることを説明した。

 そして現在は、腕の良い防具職人を探していることも。


「なるほど、つまり防具職人を私に紹介しろってんだね?」

「私にとっても防具は重要なものだからね、そろそろ新調したいなって思ってるんだ。オレ姉いい人知らない?」

「無論、この店は今後贔屓にさせてもらうつもりだ。オレネ殿の人となりも、その腕も信頼の置けるものだと分かったからな」

「なんだい、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。そうさねぇ……なら、とっておきのやつを紹介してやろうじゃないか」


 そう言って彼女はニヤリと笑った。

 クラウは嬉しそうに感謝を述べたけれど、私はどうにもそのいたずらっぽい笑顔に引っかかりを覚える。

 それは、オレ姉がなにか面白いこと、興味深いことを思いついた時のそれに近いのだ。

 果たして彼女が紹介してくれる人って、一体……?

 一抹の不安を覚えながら、私たちは彼女に教えられた住所へ向かうべく、オレ姉のお店を後にしたのだった。

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