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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一〇六話 Cランク昇級

 それはオルカたち三人がひたすらゴーレムを相手に派手なバトルを繰り広げている最中のこと。

 三人が三人とも、自らの立ち回りを最適化しながら、同時に技を磨くべく試行錯誤を行ったり、反復練習に努めたりと真面目に修行へ打ち込んでいる。

 それに対して私はと言うと、ソフィアさんとオレ姉の護衛ということでちらちらマップを気にしつつ、延々と待機している有様。

 流石に暇だったので、ちょいちょい二人と話をしていたりもした。

 話題はもっぱら目の前で行われている戦闘のことだとか、スキルのことだとか、新たにオレ姉が開発しようという私専用の武器についてだとか。

 そのいずれもなかなか面白く、有意義且つ有益な話だったのだけれど、中でも私の興味を引いた話題が一つあった。


「そう言えばミコトさん、強化スキルはちゃんと使ってますか?」

「強化スキルって言うと、【身体強化】ですか? 全力を出そうっていう時は使いますけど、あれって素のステータスを○%上昇させるって効果じゃないですか。私にはあんまり意味無いかなぁって」


 いつの間にか生えてきた身体強化というスキル。

 いろんなゲームで、こういったブースト系のスキルは覚えて当然使って当たり前、みたいな用いられ方をすることがままある。

 私だって本来なら最優先で鍛えるべきスキルとして論っていたところだろう。

 ところが、私の素のステータスなんていうのは一般人と比較して大差ないレベル。そんなものを何割強化してみたところで、大した意味はないのである。

 それが分かっていればこそ、他に鍛えるべきスキルを優先して訓練しているわけで。

 全力をだす際の使用に関しても、別に効果を期待してのものですら無い。気休め程度だ。

 そんなわけだから、スキル欄の肥やしみたいな扱いになっていた。


 ところがそう語ってみたところ、ソフィアさんとオレ姉が口を揃えて言うのだ。


「「勿体ない!!」」

「え、えぇ……?」


 全く思いがけない二人の反応に、ゲーマーである私には幾つか思い当たる可能性があったけれど、一先ず問うてみる。

 勿体ないというのは、一体どういうことなのかと。

 すると当然食い気味に答えたのは、スキル大好きソフィアさんだった。


「いいですかミコトさん、強化スキルと言ってもその実、幾つかの種類があるんです。代表的なもので言えば、ミコトさんが習得済みの【身体強化】、対をなす【魔法強化】」

「ミコトにうってつけなのが、【武装強化】のスキルだな」

「ああっ、私がお伝えしようと思ったのに!」

「かたいこと言うなって。装備は私の分野だろ」


 二人の口から、聞き逃がせない単語が続け様に飛び出して、私は仮面の下でぽかんと半口を開いてしまった。

 脳裏に浮かぶのは、ゲームをしていて『うそ、なにその技!? 何処で手に入れるの!?』っていう、自分の知らない強力な技を他人が使っていて、出遅れた‼ 羨ましい‼ って感じる、あの気分。

 知らなくて悔しい。でもそれ以上にときめく。ワクワクする。私、こういうの大好きなんだよね!


「もしかしてそれって、派生で手に入れるようなスキルなんですか!?」

「む、察しがいいですねミコトさん。そのとおりです」

「武装強化は、身体強化に加えてマスタリーのスキルレベルが高いと手に入りやすいらしいぞ」

「同じく魔法強化の場合は、身体強化と魔法スキルを多用する人が早い段階で覚えるみたいです。何れもミコトさんには必須レベルの重要スキルでしょう?」

「ぐぬぅ、盲点でした……すぐ訓練を始めます‼」


 マスタリーも魔法も、使用頻度はとても高い。と言うか、マスタリーに至っては防具にも働いているため、何なら常に使い続けていると言っても過言ではないだろう。

 ただその分、必要経験値のようなものは高く設定されている気がしないでもないが。

 魔法の方も色々開発するだけして、放置しているものも多いからな……実は特定のこれは凄くレベルが高い、なんてことはないんだ。まぁでも、寝ている間も訓練しているわけだから、多分平均的にレベルは高くなっているはず。

 それらを鑑みるに、後は身体強化を使い込めばそれ程苦戦すること無く武装強化と魔法強化、それぞれのスキルを得ることが出来るのではないだろうか。

 私はすぐさま身体強化スキルを発動し、これからは常時コレを維持することにした。

 MPを消耗しはするのだけれど、幸い私には即座にMPを満タンにするすべがある。常時発動も余裕で維持できるというものだ。

 そんなわけで、私はオルカたちの奮闘を見守る傍ら、急遽強化系スキルシリーズを習得するべく、基礎となる身体強化スキルの訓練に着手したのだった。



 ★



 谷底は当然日照時間というものが極めて短い。

 私たちが……というか彼女たちが谷底で戦い始めたのは午後になってのことだったため、経過時間で言うなら三時間前後といったところか。

 すっかり辺りは暗がりに呑まれつつあり、流石にこれ以上は危険と判断したオルカたちも引き上げることにしたようだ。

 私たちのもとへ戻ってきた三人を含め、皆で一先ず崖の上へとワープで飛んだ。ほんの一瞬で私が建てた雑オブジェの足元へ転移し、皆が一息つく。


 崖の上は背の低い草がまばらに生えた、比較的見晴らしのいい高原となっている。

 まるで大作RPGのフィールドを彷彿とさせるような雄大な景色の中、ゴーレムの跋扈する渓谷はさながら、地面に走った深い亀裂のようで、その幅は優に一〇〇メートル近くもある。

 日本ではまぁ見ないような絶景だ。谷底はすっかり陰って暗かったけれど、遠くには西日が輝いており、日暮れまではまだ些かの猶予がありそうである。

 私は皆に向き直ると問いかける。


「みんなお疲れ様。それでこの後のことなんだけど、どうしようか? 目的地には辿り着けたんだし、一度街に戻る?」

「そのことなのですが、実は私明日からまたギルドのお仕事がありますので、何にせよミコトさんに街まで送っていただくことになります」

「そんじゃ私も、便乗して戻るかね。今回あんたたちの戦いっぷりを間近で見させてもらって、制作意欲がドンドン湧いてきちまったよ! 早く帰って図面に起こしたいんだ」


 ということで、ソフィアさんとオレ姉は街へ戻るとのこと。

 オレ姉は早く帰りたくてウズウズしているようだけど、反対にソフィアさんは心底残念そうにしている。

 また時間が出来たらついて来ていいからと宥めると、渋々聞き分けてくれた。

 そしてオルカたちはどうするのかと水を向けると。


「……無理をしても効率は上がらない。私も街に戻る」

「ココロも同意見です。しっかり休んで、出来れば明日また朝から励みたいです!」

「決まりだな。まったく、ミコトがいると片道三日の旅路も一瞬か。つくづく便利と言うか、とんでもないと言うか……」


 彼女たちにも否やはないようで、みんな揃って街へ戻ることに決まった。

 なんだかんだで旅の疲れもあるし、これ以上ここでぼーっとしている意味もない。

 私は最後に、夕日の赤に染まる雄大な景色を目に焼き付けると、皆とともに街の近くへワープしたのだった。

 勿論、モザイクはバッチリかけて。



 ★



 街に戻ると、オレ姉は早速店へ戻っていった。

 その間際、今後は仕事の片手間ではなく本腰を入れてミコトの武器を制作するので、ちょくちょく顔を出して意見を聞かせてほしいとのこと。

 また、必要な素材についても追々伝えるので、そちらの確保も頼むことになると。


 一方でソフィアさんは、ミコトの昇級試験の支度をしておくので、時間が出来たらすぐに受けてほしいと言う。

 更には、オルカもいい加減にBランクへ上がるべきとの話も出た。

 対するオルカ当人は、Cランクのままだと今後の活動に支障が出る可能性があるから、修行が一段落したら受けると宣言。

 オルカなら合格間違いなしだろう。流石に私も、Cランクの試験に落ちるようなことはないと思うし、冒険者として確実にステップアップできそうである。


 それからソフィアさんは帰るのを惜しんで浴場までついてきたかと思うと、ちゃっかり夕食の席にまで同席していた。

 別れを惜しむかのようにスキルトークをこれでもかと言うほど振ってきて、しかもちょいちょい興味深い話も交えてくるものだから無下にも出来ず。

 最終的に何食わぬ顔で部屋にまで押し掛けてきた彼女。

 私はため息をつきつつ、自宅までしっかり送り届けたのだった。が、そこで終わらないのがソフィアさん。

 無理やり家に連れ込まれ、お茶を出され、更にスキル小話を連発され、泊まっていってくださいと同衾を強要されてしまう。

 流石にワープを駆使して宿の自室まで逃げ帰った。あの人、本当に限度ってものを知らない。


 そんなこんなで慌ただしさと旅の疲れが相まって、ドッと押し寄せた眠気に押し流されるように、床に就いて間もなく私は眠りに落ちたのだった。

 斯くして、私たちの修行の日々が始まったのである。



 ★



 朝早くからオルカ、ココロちゃん、クラウの三人をゴーレムの谷へ送り届けると、私は別途自身の修練を重ねたり、オレ姉のところへ顔を出したり、昇級試験で出されるという筆記試験の勉強をしたりと、慌ただしく動き回った。

 お昼は谷へ赴き、オルカたちとともに野外で昼食、あるいは時折街まで戻って何処かのお店で一緒に頂くこともあった。

 日が傾いたら再度様子を見に行って、引き上げである。場合によっては野営をすることもあった。

 ゴーレムの谷とは言っても、崖上にはまた別のモンスターが分布しており、それらも決して弱い相手ではないのだ。

 であれば、修行の相手としては適している。それに彼女ら同士での模擬戦、というのもちょくちょく行われているらしい。

 特にココロちゃんは、積極的にオルカとクラウへ挑んでいるそうだ。

 オルカからは身のこなしを、クラウからは力の使い方を学んでいるのだと言う。

 私も協力しようかと提案すると、恐れ多いと遠慮されてしまった。


 そんなこんなで早くも一週間が過ぎる。

 今日はCランクへの昇級試験を受ける日だ。朝からオルカたちを送迎した後は、ドキドキしながら一人ギルドへ向かう。

 ソフィアさんの顔を見た瞬間、少しだけ緊張がほぐれた。

 そしてまずは筆記試験ということで、いつもの密室とは違う広い部屋へ通された。

 さながら教室のような部屋だ。黒板があり、その正面には長机と椅子が並んでいる。

 後ろの席に行くほど高い位置になり、さながら大学のそれのようだった。


 私はそんな広くも他に人のいない部屋にぽつんと一人座り、教壇? にはギルドのスタッフさんが一名。私が不正をしないか見ているらしい。

 机の上には数枚の紙。何れもが筆記試験のプリント用紙である。

 開始の合図を皮切りに私はそれらへスラスラとペンを走らせ、数度読み返しまで終えてから、スタッフの人へプリントを提出したのである。

 自信はある。以前の訓練や勉強が役に立ったし、試験勉強もちゃんと活きていた。

 あと、INTが上昇する装備で図書館や資料室に籠もったのも良かったのかも知れない。学習したことがしっかり頭に入っていたのだ。


 筆記が終われば午後からは実技試験だ。

 しかしこれにはソフィアさんが苦い顔をする。というのも、実技試験の内容というのが試験官同伴の下、指定された依頼を一つこなしてくることが求められたためである。

 私は以前、試験官を務めた女性冒険者に貶められ、酷い目に遭った経験がある。それは当然ソフィアさんもよく知るところであり、彼女にとっても苦い経験なのだ。

 故にギルド側もそれを配慮してくれたらしく、Cランク冒険者の他ギルドスタッフも同行するという形で試験が行われることになった。

 これでもし、二人して良からぬ企みをしていたとしたら、それはもう災難どころの話ではないのだけれど、しかし不思議と恐れはない。

 それくらいだったら多分、なんとでもなるという自信が今の私にはあるから。

 今の私の逃げ足ときたら、多分この世界でもトップクラスだと思うんだよね。でもまだ、マップを十分に広げられていない感はあるから、流石に世界の裏側まで一瞬で逃げる! なんてことは出来ないけれど。

 それでも、オルカたちのところまでは直ぐに飛べるから、それで十分だろう。だから万が一という危険もないと思っている。


 なんて警戒してはいたものの、いざ試験に当たってみると全くの杞憂に終わり、依頼も呆気ないほどスムーズに完遂できてしまったのである。

 これと言って特筆するようなことがあるとするなら、スキルの秘匿にこそ一番神経を注いだな、というくらいか。

 ギルドに帰還する頃には筆記試験の結果も出ており、そちらも問題なく満点が取れた。

 文句なしの合格である。


 斯くして私はこの日、晴れてCランク冒険者へと昇級を果たしたのであった。

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