第一〇五話 ゴーレム狩り
ゴーレムの小手調べを終えて崖の上に戻ってきた私たち。
休憩セットのテーブルを皆で囲い、今しがた行った戦闘の手応えを語り合おうかというところで、何故か一斉に全員の視線が私へ集まってきた。
何となくいたたまれない気持ちになり、私は自らにモザイクの魔法をかけて彼女らの視線を誤魔化す。
が、そんなことでどうにかなるようなものでもなし。
口火を切ったのはバトルジャンキーのクラウである。
「ミコトはどうだったんだ? ロックゴーレムと戦ってみた感想は」
「え、うーん……動きは鈍いし、黒太刀も爪も通ったから、正直相性は良い相手だったかな……と」
私の率直な感想に、皆が難しい顔をする。
そりゃ私だって、あれで刃が通らないほど硬い相手だったなら、また別に思うこともあっただろう。
だけど攻撃が通り、しかも動きが鈍重であるなら、素早い移動が可能である私にとってはとても相性が良い相手と言えるだろう。
対して皆の感想はと言うと。
「私は、正直もっと手こずると思ったな。巨体に物を言わせた攻撃は重く、私の防御とはそれこそ相性が良くない」
「ココロも、ミコト様のように切断できるわけではありませんし、機敏な動きもできませんから、まんまと反撃を受けてしまいました」
「私はもっとダメ。私の攻撃力じゃろくなダメージは与えられないし、爆弾だって結局目眩ましくらいにしかならなかった」
ずーんと、場の空気が重くなる。
特にオルカの落ち込み様は酷く、さっきから俯いたままだ。
私としては、一人だけ相性が良かっただなんて言っちゃった手前、とても気まずいわけで。
たまらず視線でソフィアさんたちに助けを求めた。
するとそれに気づいたクラウが彼女らに水を向けてくれる。モザイク越しなのに、よく分かったものだ。
「二人はどう思っただろう? 客観的な意見を聞かせてほしい」
「ふむ、そうですね……まず一言述べさせていただくなら、私の嫁が最高にかっこよかった! ですね」
「ソフィアさん、そういうのは後でいいから!」
空気を読むこともなく、平常運転の彼女はフンスと鼻息荒く主観を主張する。
褒められるのはまぁ、嬉しくないわけじゃないのだが、今はやめてほしい。
果たしてその願いが通じたのか、一つ咳払いをした彼女は改めて感想を述べ始めた。
「私としては、所詮ファーストコンタクトによるちょっとしたごたつきでしか無いように思えましたね。ココロさんの攻撃は確かにゴーレムの足を叩き割っていましたし、クラウさんの防御も弾き飛ばされたとはいえそれほどダメージが通っているようには見えませんでした。そしてオルカさんも、確かにダメージソースとしては弱いでしょうが、敵の注意を引くことと、目くらましの役はしっかりこなせていましたし、そう悲観するような結果ではないように思います」
「私も同意見だね。確かにミコトの力には目を剥いたけど、相性が良かったってのも確かさ。あんたたちなら、もう一度ぶつかればまったく違った戦闘を見せてくれるものだと確信しているよ」
今度こそ真面目に語られたソフィアさんとオレ姉のコメントに対し、場の空気がようやく幾分かの弛緩を見せた。
私もほっと息をつき、ついでにモザイクを解除する。
「と言うかそもそも相手がタフなのは分かっていたんだし、初手でちょっとトラブルがあったくらい大した問題じゃないよ。手数をかけた攻略を見越したんだしね」
「それを、一人でぶった斬ってみせた君が言うのか……」
「あう、や、それはその……たまたま手元に優れた装備があったから出来たことだから。私の自力だけじゃ、当然無理な話だったんだしさ」
「それは言い出したら切りのない問題ですよ。ですがミコト様の仰るとおり、トラブルこそあれリカバリーの利く範囲内でのことだったんです。次は先程のミスも踏まえて、もっと上手く立ち回れるはずです」
「私も、次はもっと上手くやる」
話はまとまり、皆の目には闘志の光が灯った。
そしてすぐさまオルカ、ココロちゃん、クラウの三人を中心に再戦というか、本戦へ向けた作戦会議が展開されたのである。
オルカは先程よりさらに行動阻害に重きを置き、余裕があればダメージを与えられないかいろいろ試してみるそうだ。
ココロちゃんは相変わらずメインアタッカーとして立ち回るが、一撃で大ダメージを狙うのではなく、手数を加えるスタイルに切り替えるらしい。
そしてクラウは、質量差のため防御は非効率と判断。棘によるカウンターも効果が薄いとなれば、オルカと協力してのヘイト管理とサブアタッカーとして立ち回ることを決めた。
そして私はと言うと。
「ミコトは基本的に、手を出さないでほしい」
「ですね。何かのトラブルに陥ったり、もしココロたちがピンチの場合にのみ助けに入っていただければと」
「ミコトの役回りとしては、ソフィア殿とオレネ殿の護衛ということになるな」
「り、了解っす」
疎外感……いやいや、ゴーレムと相性の良い私が手出ししたのでは、それこそ彼女らの修行にならないからね。仕方のないことだ。
分かっていても、ちょっとさみしい……。
「そう言えばミコト、あんた何でさっきのゴーレムにとどめを刺さなかったんだい? あんだけ一方的に斬りまくったんだ、仕留めるのも簡単だったろうに」
「え、あ。万が一起死回生の切り札とか隠してたら大変だと思って、とりあえず遠ざけた感じかな」
「重力魔法、でしたか。あの巨体を彼方まで蹴飛ばしてしまうとは、驚きました。素敵でした!」
「ど、どうも」
グイグイ食いついてくるソフィアさんだったが、ゴーレムにはそんな隠し玉なんて無いのだという情報もきっちり教えてくれた。当然爆発もしないと。少なくともそんな例はこれまで確認されていないとのこと。
言われてみると、私が以前ギルドや図書館で見た資料にも、そんな切り札の情報はなかった。
とはいえ、さっきの戦闘は小手調べで、私の覚え違いという可能性もあった。あの場はあの対処で良かったと思うことにする。
そうして話し合いもまとまり、誰からともなく席を立つ。
オルカたちの表情は引き締まっており、先程までの陰りはすっかり払拭されたようだ。
「ミコト、もう一度ワープお願いできる?」
「勿論。なん往復だって出来ちゃうよー」
オルカに軽い調子で答えると、ソフィアさんたちへ向けて次はどうするかを問うた。また一緒に下へ降りるのか、次こそここで待っているか。
彼女らの答えは変わらず、共に下へ降り、間近で戦闘を観察したいとのこと。
というわけで、再度彼女らを含めた全員でゴーレムの巣食う谷底へと転移したのである。
狙いは先程と同様、孤立して徘徊しているものを狙って。且つ、転移して早々に発見されぬよう、十分な距離をとって安全な位置へ。
MPの三割ほどと引き換えに転移を成功させるなり、オルカたちが素早く戦闘隊形に入る。
何気にオルカは鬼のダンジョンで手に入れた苦無を使いこなしており、良い足場の無いような崖の壁面には、増殖させた苦無を突き刺して簡易的な足場を作っている。
その他、派手な活躍こそ見せないものの、細々と活用しているらしい。
それを駆使して、今回はゴーレムの視界を直接的に覆う作戦に出たようだ。
ゴーレムの頭部には、視覚を司っていると思しき水晶が六つほど埋め込まれている。
それら全てにオルカは苦無を増殖、変形させて投擲した。変じた形は何やら薄っぺらい布のようで。それらは狙い違わずゴーレムの眼を覆うように被さると、なんとそのまま吸着したではないか。
突然視界を奪われたゴーレムは動揺し、動きを止める。そこへすかさず苦無を一本投擲し、その場を飛び退いた。
ゴーレムはカンと小気味よく体にぶつかった苦無の感触を察知したのか、反射的にそれが飛来したと思しき角度から位置を推測。大雑把に腕を振るい、敵対者への威嚇ないし反撃を行った。
が、オルカは既にその場所にはおらず、音もなく位置を大きく変えている。そして同じように苦無にて挑発。ゴーレムを翻弄する。
完全に奴の意識がオルカへ向いている隙に、ココロちゃんが飛び出した。
まずは足元から削る作戦なのか、ゴーレムの膝関節めがけてすれ違いざまに一撃を見舞い、そのまま走り抜けていく。
先程までとは異なり、明確な痛痒を与えてきた相手に警戒したゴーレムは、露骨に足元へ意識を向けた。
するとどうだ。それを見越したかのように、高く跳躍していたクラウが、思い切りその黒い盾でゴーレムの頭部を殴りつけたのである。
瞬間、盾より伸びた幾本もの鋭く長い棘がその岩で出来た頭部を刺し貫いた。
彼女は剣も使うはずなのだが、腰に携えたそれを抜く様子はない。硬い相手に斬撃は不利と判断してのことだろう。
頭部に貫通攻撃をもらったゴーレムは、しかしどうやらそこにコアはなかったらしく、黒い塵に還ることもなかった。戦闘は続く。
「良い連携だなぁ……私も加わりたいなぁ」
「ミコトさんには、妻である私を守る役割があるでしょう」
「誰が妻ですか……」
私は少し先で繰り広げられる戦闘を眺めつつ、ふと思った。
いつの間にかあんな、びっくりするほど人間が高く跳び上がったり、岩で出来た体を金棒でゴリゴリかち割ったり、不思議なアイテムを駆使して戦ったり、そもそも巨大なゴーレムとやり合っているこんな光景にも、それほど驚かなくなったなと。
どう考えても海外の映画のようなド派手な光景。それが現実として目の前にあるって言うのに、こんなに落ち着いていられるんだもの。慣れって恐ろしいな。
戦局はいよいよ終盤に突入した。
ゴーレムの狙いは尽く翻弄され、ココロちゃんの一撃一撃が着実に奴の体を破壊していった。
オルカも相手を挑発しつつも、どうにかダメージを入れられないかと色々試してはいるようなのだが、どうにもそれに関しては芳しい結果を得られないみたいで。
ともあれ、クラウと協力してココロちゃんの攻撃をスムーズに通させることは出来ている。
そうしてものの一〇分にも満たない時間で、ゴーレムは見事討たれたのだった。
あの巨体である。塵に変わる様もなかなか大げさであり、思わず「おお」と声が出てしまった。
一仕事終えたオルカたち三人が、ドロップアイテムを拾ってこちらへ戻ってくる。
「みんなお疲れ様。危なげなく勝てたね」
「作戦通り事が運べてよかったです!」
「私はずっとソロでやってきたが、こういう勝利もなかなか悪くないな」
「むぅ……やっぱり、ダメージが通らないのは悔しい」
満足げなココロちゃんとクラウに対し、オルカはやはりというか少し不服そうである。
彼女は予てより火力不足を気にしていた。ゴーレムのような、固くてタフな相手にそれは顕著に現れる。
「でもまぁ、だからこそ修行をするんだし、じっくり考えればいいと思うよ」
「ミコト……」
「ココロも、もっと小技を磨きたいです! 大振りの癖が残っちゃってて、これを機に手数を加える立ち回りや体捌きを習得できたらと思うのです!」
「私は、打撃系の攻撃を身につけようか。それに大質量の一撃を受ける訓練にもなるな!」
それぞれがそれぞれの目標を掲げ、ゴーレムへの初勝利を締めくくった。
そしてここから、彼女ら三人による怒涛のゴーレムラッシュが幕を開けたのである。
課題を定めたからこそ、彼女らは飽きることもなく何体も何体も試行錯誤しながら屠っていく。
モンスターは倒せど倒せど尽きるということを知らない。倒したらまたポップするからだ。
斯くしてこの日は、空がすっかり赤色に染まるまでひたすらゴーレムとの戦闘が繰り返されたのである。
私はその間、ソフィアさんとオレ姉の護衛という名の暇な時間を、一観戦客として過ごしたのだった。




