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9.微笑みのビーナスは救世主?

「一香ちゃん、何かあった? 今日元気ないね」

 佐久間さんに図星を指されて、補充していたカップラーメンがバラバラっと崩れ落ちる。


「……なんでもないですよ。いつもとおんなじでしょ?」

 一生懸命笑顔を作って佐久間さんの顔を見ると、何故か『ぷっ』と吹き出された。


「どうしてそんなに分かりやすいの? ま、そういう所が一香ちゃんの魅力でもあるんだけどね。で、何があったの?」

 まだクスクス笑っている佐久間さんにはどうも隠し事は出来ないみたい。

 とは言え、叶うことのない恋愛相談してもな……


「この前来たあの男の事だろう? 顔に書いてあるよ」

 佐久間さん、なんでもわかっちゃうんだなぁ。


「……そうなんですケド……。いいんです、もう。どうにもならないし」

 早く吹っ切らなきゃ。

 バイト先の先輩にまで見抜かれちゃうほど最近の私どうかしてるもん。


「どうにかなるかならないかは、話してみなきゃ分かんないんじゃない?」

 佐久間さんの口から出た言葉と思いきや、背後から聞こえたのは黒髪のロングヘアーに真っ赤な口紅がバッチリ似合ってる綺麗な女の人の声だった。

 私たちの後ろにショートパンツからスラッとした足を出して立っている。


「ね、真也」

 その女の人はビーナスのような微笑みを浮かべ佐久間さんを見ている。


「なんだ、咲か。どうしたんだよ? 俺を好きすぎる余り追ってきたのか? ……ったく、ストーカーですか??」

 床に座り込んでカップラーメンを拾っていた佐久間さんは面倒くさそうに彼女を見上げる。


「何よ、人聞き悪いわね。別にあんたなんか好きじゃないわよ。実家が近くにあるから、たまたま帰りついでに寄っただけ」

 腕を組んで見下ろす『咲』と呼ばれた女性は、佐久間さんとやけに親しそうだけど……

 彼女なのかな……?


「一香ちゃん? 今コイツのこと俺の彼女じゃないかって思ったでしょ? 違うからね、元カノ、元だから!!」

 やけに『元』を強調した佐久間さんはフンと鼻を鳴らし彼女を睨んだ。


「そう、元カノ。ま、別れてもずっとこうやって腐れ縁でよく絡んでるんだけどね」

 咲さんは負けじと佐久間さんを睨み返す。


「でもさ、さっきの話、詳しく教えてよ。私恋愛のプロだからさ、きっと貴方の力になれると思うよ」

 女の私から見てもドキッとしてしまうようなウインクをする彼女が頼もしく思えるのは、その自信に溢れた風貌から恋愛を百戦錬磨してきたように見えてしまったからなのかもしれない。


「恋愛のプロ……」

 このまま悶々としてても仕方がないし、話してみようかな……


「一香ちゃん、この女は適当だから俺が相談に乗るって!」

 咲さんの間に佐久間さんが入ってきて、私をガードする姿勢を取る。

 火花が散るような二人の睨み合い……


「わ、分かりました! お二人にお話しするんで、頼むから仲良くしてください!」

 一歩離れたところから私たちの方に向けられた冷たいお客さんの視線に耐えきれず、よく考えもしないで口走ってしまった……



「さあ、一香ちゃん。今日は真也がぜーんぶ奢ってくれるみたいなんで、じゃんじゃん食べて元気だそっ!!」

 咲さんがバイト上がりに連れて来てくれたファミレスのメニューを私の方に向けてくれる。


「お前の分は別だからな!!」

 すかさず佐久間さんは咲さんに突っ込む。


「何よ! 相変わらずケチね」

 仲が良いのか悪いのか、息がぴったりな貶し言葉の掛け合いを呆気にとられながら見入ってしまう。

 私に対しては優しい佐久間さんが、咲さんと話している時はなんだか高倉くんみたいに見えてくるのが不思議だ。

 思わずふふふと笑ってしまった。


「ん?」

 声を揃えて同時に私の方を見た二人。


「あ、ごめんなさい! 佐久間さん、今、私といる時の高倉くんに似てるなぁって思ったらつい……」

 急に恥ずかしくなって俯いた。

 二人は顔を見合わせている。


「そうそう、今日はその高倉くんとやらの話を聞きにきたんだったわね。早速、詳しく聞かせてもらおうかしら」

 ニッコリと私を包み込むような優しい表情を見せた咲さんは、佐久間さんと頷き合う。

 私は今までの流れを丁寧に二人に説明を始めた。



「なるほどね。よーく分かったわ! 一香ちゃん、まだまだ諦めることはないわよ。ね、真也」

 咲さんからバトンを受け取るように佐久間さんが頷き私を見た。


「アイツは、まだ恋とはなんなのかを知らないんだ。俺も高校生くらいの時は見境なく可愛い女の子を追っかけ回してはあっちこっち手をつけてなぁ。でも、それはそれで楽しかったし、男としてはモテるっていうステータスは誰しもが欲しいものだから、女の子が寄ってくるだけで満たされた気持ちになってたよ」

 チラッと咲さんに目をやると鬼のように佐久間さんを睨んでいる。


「ま、まぁ、それもコイツと出逢って少し女の子の見方が変わってな。たくさんの女の子に囲まれてる時よりも、大好きなヤツ一人に笑顔を向けられてる時の方が100倍幸せなんだって気が付いたんだ」

 腕を組みながら『ウンウン』と大きく相槌を打つ咲さん。

 なんだかとっても嬉しそう。


「でも、一香ちゃんみたいに素直ならいいけど、コイツは性格が歪んでてな……」

 言い終わる前に強引に佐久間さんの口を塞いだ咲さんが、くるりと振り向き私を見た。


「ねぇ、いいこと思いついた!! 一香ちゃん、真也と付き合ってみたら?」

 あんまりにも唐突な提案に私も佐久間さんも目が点になる。


「おい、またいきなり何訳分かんない事言い出すんだよ、お前は!! そんなのいい事な訳ないだろ!!!」

 あまりの佐久間さんの慌てぶりに咲さんは笑いを堪えながら説明する。


「真也、落ち着いて! 付き合ってるって言ってもフリよ、フリ! その高倉くんにはわざわざ付き合ってるなんて言う必要ないの。付き合っているように見せるだけで十分効果はあると思うわ! 一香ちゃん元はいい素材してんだから、すっごく可愛くして真也とデートしてる所なんて高倉くんが見たら、私嫉妬すると思うわよ〜! 誰かさんみたいにね!」

 咲さん、いますっごく悪い顔してる……!


「ちょっ……黙れっ!! なんでもペラペラ喋りやがって!! ……今となっちゃ、嫉妬するのはお前の方だろが?」

 真っ赤なを顔して、すかさず入れた佐久間さんの一言を咲さんは『んなわけないでしょ!』と一瞥し、私の肩を掴む。


「絶対一香ちゃんのそんなところ見たら焦るわよ。どう? やってみない??」

 助けを求めて佐久間さんを見た。


「まぁ、いいんじゃね? 結構それ、俺も効果あるとは思う。とは言っても、最後は一香ちゃんの気持ち次第だけどな」

 顎をなぞりながら佐久間さんは私の返事を待っている。


「私ただでさえ嫌われてるのに……もっと嫌われないかな……高倉くんに……」


「心配するな! そしたら本当に俺が一香ちゃんの彼氏になってやるから。……アイツはたぶん……ま、やってみる価値は大アリだって俺は確信してる」

 少し言葉を濁らせながらも、真剣な眼差しで私を見ながら大きな手で頭をクシャクシャと撫でてくれる。

 そんな光景を『そういう問題じゃないから!』と言いつつ、優しく見守る咲さんも穏やかに微笑んでいた。

 こんな話になって……咲さんは佐久間さんの事、本当にもうなんとも思ってないのかな……?


「一香ちゃん。心配しなくて大丈夫よ。私も真也も一香ちゃんと高倉くんと同じような道を歩いて来てるから。ま、結果別れちゃってるからあんまり説得力ないかもしれないけど……。それにしても今のままじゃ、一歩も前に進めなくて辛いでしょ?」

 咲さんの優しい言葉が急に私の涙腺を刺激する。


「……はい」

 それ以上何も答えられない私の側に二人はじっと寄り添ってくれていた。


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