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7.色黒男よ、僕は断じて彼女を好きではない!!

「あー腹減ったー」

 今日は近くの駅まで女の子を送って行ってから、いつもと違う道で家に帰っているところだった。

 途中コンビニに寄って今日の夕飯を調達しようと自動ドアをくぐる。


「いらっしゃいませ!」

 どこかで聞いた声が僕を迎え入れた。

 ほんの少し違和感を感じながらも、弁当コーナーへ一直線で向かう。


(今日は何食うかな……)

 一香の家でご飯を食べて以来、毎日コンビニ弁当の日が続いている。

 ハンバーグ、本当最高だったなぁ……

 あの時の一香が作ってくれた夕飯を思い出すと他の食べ物が不味く感じて食べられなくなる。

 もっとお金を出せば美味しくて栄養のあるものも買えそうだが、どうしても遊びに出費を優先したいお年頃だから貧しい食事はやむを得ないのだ。


(海苔弁か……足りるかな)

 ぐうと切なく腹が鳴く。

 今月も仕送り予定日までまだあと二週間もあるのに……


「高倉くん?」

 右手に機械を持って、サンドイッチをもう片方の手に声をかけてきたのは、たった今僕の頭の中にいた一香だった。


「……一香??」

 あまりの偶然にびっくりしすぎて言葉が出てこない。


「あ、ごめんね。話しかけちゃ不味かったね」

 そう言いながら僕から離れてレジのカウンターの中に入っていった。

 慣れた手つきでスキャンしてお釣りを渡している。

 いつからここでバイトしてたんだろう。

 全然知らなかった。


「一香ちゃん、ここ代わるよ。発注まだ終わってないんだろ?」

 僕よりも背が高くて、色黒のイケメン細マッチョな男が彼女の肩に手を置いている。


「あ、今ちょっと気分転換にレジ入らせてください。10分くらいしたらまた続きやるんで」

 チラッと僕の方を見る。


「一香ちゃんの知り合い?」

 一緒になってその色黒男が僕を見ている。


「いえ、同じ学校っていうだけです。あ、そうそう、佐久間さん、次のライブ8月なんですけど本当に一緒に行きます?」

 僕の視界から消えたところで二人は話始めていた。

 気になっていた訳じゃないんだが……二人に近いお菓子コーナーへ無意識に足が動き出した。

 そうだ、お菓子が食べたかっただけだ!

 コソコソした話し声を僕の高感度センサーを搭載した耳が勝手に拾う。


「行く行く!! チケット取れそうなの?」

 嬉しそうに色黒男が馴れ馴れしく一香に話しかけている。


「はい! ファンクラブ入ってるんで、結構いい席取れると思いますよ!」

 楽しそうな笑い声……


「じゃ、決まりな!! 絶対その日空けるから。この前はグッズもらいそびれちゃったしなぁ」

 横からコッソリ覗くと色黒男が一香の頭にポンと手を乗せていた。


「本当にごめんなさい! 色々事情があって……」

 あのTシャツ、あいつのために買ったやつだったのか……!

 何だか無性に腹が立ってきて、一香のいるレジにスタスタと向かい海苔弁を放り出した。


「い、いらっしゃいませ」

 あきらかに顔色が変わった彼女に視線を送りつつ色黒男を睨みつける。


「一香、この前は泊めてくれてありがとう。でもな、男遊びは程々にしろよ。お前不器用そうだからな」

 フンと鼻で笑ってやった。


「高倉くん……?」

 不穏な顔で僕を見つめている。


「バイトなんかしてたら進級できないぞ? こんなチャラそうなやつと仲良くして……気を付けろよ」

 色黒男をギッと睨んだ。


「やめてよっ!! どうしてそんなひどい事言うの?」

 一香が感情的になり僕を睨む。

 もしかして怒らせた……?!

 初めて怒りを露わにした彼女を目の当たりにして、一瞬……何かが僕の胸をチクリと刺した。


「一香ちゃん、ここはもういいから休憩行ってな」

 そう言って一香を奥に追いやった色黒細マッチョ男は無言で弁当を袋に詰める。


「君、一香ちゃんの事好きなの? 好きならそんな言い方したら嫌われちゃうよ? 386円です」

 僕はポケットの中からクシャクシャになった千円札を渡した。


「一香ちゃんはちゃんと勉強してるし、部活でかかる費用のためにここで働いてるんだよ。俺T大だけど、一香ちゃんの勉強見てあげるとき、よく勉強してるなっていつも感心してる。はい、614円のお返し」

 僕は何もいえずにお釣りを受け取った。


「一香ちゃんいい子だよね。俺も狙ってるから君とはライバルになるのかな? また買いに来てよ」

 嫌味ったらしく白い歯を見せて笑顔で『ありがとうございました』と僕を見送る。


 自動ドアを出てボーッとする頭で感情も無く遠くの景色を眺めた。

 (一香のことが……好き……?)

 さっきの色黒男に言われた一言がベッタリと心の中にへばり付いて離れない。


 イヤイヤ、ないない!!

 あの相葉一香を好きだなんて絶対にありえない!

 僕はあの女を一回振ったんだぞ?

 選択肢の一つの中にも入っちゃいないんだ……!!


 うん……入ってる訳が……ない!!

 


 ◇◆ ◇◆



「一香ちゃん、大丈夫?」

 佐久間さんが心配そうに私を覗き込む。


「ごめんなさい、いつもお世話になってるのにあんなに酷いこと……」

 どうしてあんな事言うんだろう?

 そう人じゃないって思ってたのに……


「俺は全然気にしてないけどさ、男心も結構複雑だからなぁ。彼は、きっとまだ自分の気持ちに気がついてないだけだよ」

 クククと面白そうに笑っている。

 言ってることはよく分からないけど、とりあえず怒ってなくてよかった……


「一香ちゃんが好きだって言ってたの、アイツだろ?」

 ドンピシャな事を言われて固まる私。


「ったく本当二人とも分かりやすいなぁ」

 ククとまた笑いを堪えている。


「二人とも??」

 何のこと?


「いや、こっちの話! まぁ、俺は一香ちゃんのこと応援してるけど、アイツはちょっと痛い目に合わないと分かんないかもしれないな」

 ちょっと、やっぱり怒ってるじゃない!!


「佐久間さん、そんな手荒なことはやめて下さい。高倉くん、どうしてもプライド高いしああ言う性格だから誤解されやすいけど、本当はとっても優しいし、良い人なんです」

 お願い佐久間さん!!


「俺が痛い目に遭わせなくても、アイツはいつか自分で痛い目みるよ。体じゃなくて、心がね」

 大きな掌で私の頭をクシャクシャと撫でる。


「さぁ、今日はもう上がろう! その件に関しては面白そうだからいつでも相談に乗るからさ!」

 そう言ってロッカーから荷物を取り出した。


「佐久間さん……」

 佐久間さんが言うような面白い事にはまずならないだろうけど……

 何だかまた高倉くんとの距離ができちゃったなぁ……

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