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6.想い渦巻く夜

「はあ……緊張したぁ」

 私のベットの中で寝息を立てている高倉くんをリビングからそっと覗いてみる。


 寝る前にどっちがベットで寝るか一悶着あったけど、熱はほぼ下がって来たものの一応病人ではあったし、お客さんをソファーで寝かせるわけには……と思って何とか説得した。


 湯船に浸かり、いつもと違うところにアヒルが置いてあるのに気づく。

(高倉くん、アヒル浮かべたのかな……)

 想像したら可愛くてふふふと笑ってしまった。


 まさかこんな事になるなんて……

 高倉くんには言えないけど、私にとっては最初で最後になるかもしれない幸せな時間だったなぁ。

 あんなに大好きだった人が同じ家で寝てるんだもん。

 私の手料理、美味しいって食べてくれて……

 もう十分だよ。

 これ以上望んだらバチが当たる……


 そういえば、バイト先の先輩に頼まれてたライブのお土産……

 しようがないよね。男性物の服あれしか無かったし……


 一応仕送りはもらっているんだけど、美術部でもお金がかかるし先月からコンビニでバイトを始めた。

 そこの大学生の先輩と私は同じバンドが好きで意気投合。

 ライブに行くんだって話をしたら、限定グッズのTシャツとトランクス買ってきてくれって頼まれて。

 流石に使用済みじゃ受け取ってくれないよね……


 お風呂から上がって髪を乾かす前にココアを入れる。

「はぁ……沁みる……」

 今日は本当に色々あったなぁ……


 高倉くん、凄いカッコよくなってた。

 短髪もしっかりセットして……お風呂上りも濡れた髪が素敵だったし……

 お兄ちゃん二人なんか目じゃないくらい高倉くんのがカッコいいよ。

 背も高いし、目が優しいし……

 でも、別に外見がそうじゃ無くったって私は最初から大好きだったんだから!!

 ぽっと出の女の子達なんかに、高倉くんの本当の良さなんて絶対誰にも分かるはずが無い!


 私は……ずっと彼のファンだったんだから……


「おい、なに百面相してんだよ」

 突然声をかけられて『ぎゃあ』と叫んでしまった。


「ちょっと、何にもしてないのに、何だよその叫び」

 ぷっと吹き出しながら『トイレ借りるな』とリビングを通過していく。


(はぁ……焦ったぁ……。私の心の声、外に出てないよね?)

 嫌な汗がじっとりと噴き出てくる。


「さあ、さっさと髪乾かして、絵仕上げちゃお」

 じっとしているから余計な事を考えちゃうのよ!!

 絵に集中すれば……きっと隣に高倉くんが寝てることなんて忘れられるはず!



 ◇◆ ◇◆



「眠れない……」

 一香がこの布団で毎日寝ているのかと想像するだけで眠れない……

 彼女の匂いに包まれて心地いいというより興奮のが完全に勝っている。


 トイレから出られず悶々と一人戦う自分。

 ドアの外からドライヤーの音がする。

 今風呂上がったのか……

 僕の世話で大変だったもんな。


 そういえばさっきメガネしてなかったな……

 可愛かった……素直に。


 扉を開けるとドライヤーに髪をなびかせこちらを見ている。

 本当に可愛い。

 しつこいけど可愛い。

 何でメガネなんかしてんだよ。

 とったほうが絶対モテるのに。


「一香ってさ、コンタクトにしないの?」

 ヤベッ! 突然何言い出してんだ!


「え? うん。必要ないし」

 全く興味なさそうに返事を返す。


「そか」

 勿体無い。

 非常に勿体無い……が余計なお世話か。


「大丈夫? 眠れる?」

 心配そうに彼女が声をかけてくれる。


「ま、まぁ。一香は寝ないの?」

 もう12時だ。明日も学校なのに。


「うん。ちょっと美術部の作品手を入れたいから」


 部活やってるのか。

 僕は放課後も休日も遊んでいる。

 勉強は、授業について行けて、赤点取らない程度に程よくやっている。

 一香がしっかりしているように見えるのは、こういう所の差なのかもしれない。


「じゃ、おやすみ」

 彼女に声をかけ寝室に向かう。


「おやすみ。ゆっくり休んでね」

 最後の最後まで彼女は優しい。

 僕は何も彼女に返せない。



 朝になって起き上がると鉛のように重たかった身体はすっかり軽くなっていた。

 リビングで机に突っ伏し寝ている彼女の横で、美しい紫陽花の絵が目に入る。


「……凄い……」

 あまりにも色鮮やかに、生き生きと描かれたその絵は彼女の心の色そのものだと思った。

 自分は一香の事をただのお節介焼きで疎ましく思っていたけど、それは僕がちゃんと彼女の心の色を見ていなかっただけだったのかもしれない。


 スヤスヤと眠っている顔を見つめながらほんの少しだけ、セミロングの柔らかい髪に触れてみた。

 ドキドキした。

 触れた指先にはいつまでもじんじんと彼女の温もりが残っていた……


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