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4.雨の日のハプニング

 最近よく雨が降る。

 そういえばもう6月か……


 今朝は雨の気配など全くない、爽やかに晴れた1日の始まりだった。

 ところが昼過ぎから怪しげな雲がモクモクと空を覆う様に広がっていく。


「何だか降りそうだねー。今日傘持ってきてないのに」

 窓際で女子たちが空を見上げて話している。


 そういや僕も傘がない。

 こんな日こそ、女の子と相合い傘でもして帰りたいものだが……

 家バレして隣に同中の相葉一香が住んでいるなんて噂が広まったら……とんでもないことだ!!

 くそっ! アイツのせいで僕のささやかな夢さえ叶える事が出来ないとは……

 グッと握った拳を机に叩きつけ立ち上がる。


 ……とは言えこの前の美術の時間は相葉一香のあまりの絵の巧さに普通に声をかけてしまった。

 どうしてだろう、こんなに疎ましいと思っているのに、僕の隣で縮こまっている彼女を見たら贖罪の念に足を救われてしまったのかも知れない。


 もう、考えるのはやめよう。

 これからはアイツはもう僕の中では透明人間だ。

 家の前だろうが、学校だろうがすれ違ったって、目が合ったって完全無視を決め込んでいる。

 そうだ! アイツとは鼻から関わりなんてなかったんだ、と無理やり思い込まないと、毎日ビクビクしてやってられない!


 学校だけでも、今僕は十分モテモテだ。

 休み時間の度に次から次に女の子が寄ってくる。

 休日はデートの約束でビッシリだし、昼も誰かしら弁当を作って来てくれるから節約にもなっている。

 なんて最高な毎日なんだろう!!


 贅沢を言えば、彼女が出来たら家に呼びたい……

 女の子を呼ぶには絶好の環境なはずなのにっ!!


 ……こればっかりは仕方ない、諦めよう。

 家もまあまあ散らかってるしな。

 この前も母さんが来て片付けろってグチグチ言われたばっかりだし。




 放課後、昇降口を出てもまだパラパラくらいにいしか降っていなった。

 ところが家まで徒歩20分の距離の間にバケツをひっくり返したような雨が降ってくる。


「うあ! ヤバイ!!」

 カバンを頭の上に乗っけてダッシュするが、もはやあまり意味がない。

 全身びしょびしょになり、ようやくアパートが見えてきた。


「ったく、ホントについてねぇ……」

 髪から滴り落ちるほどの雨滴を雑に払いながら階段を上る。


「早くシャワー浴びねーと風邪ひくな……」

 鞄の中をガサガサと漁りながら鍵を探す。


「ん? あれ??」

 いつもの所に……ない??

 おかしいな……ポケットの中か?

 ズボンのポケットに手を突っ込む。


「あ!!」

 そう言えば今日トイレの中でハンカチを出すときに鍵が床に落っこちて……

 拾った後、鏡の前に一回置いて……そのままだった!


「……って事は学校か……」

 時計を見たらもう7時過ぎている。

 日直で雑用を手伝っていたから今日に限って遅くなってしまった。

 これから雨の中、学校に戻っても、もし中に入れなかったら……?


「あ〜!! 最悪!!」

 そのままドアの前に座りこんで大きくため息をついた。

 大家さんに電話して開けてもらおうと思ったが、何故か電話にでない。

 80歳位のお爺ちゃんだったから、まさかもう寝てるんじゃないだろうな……!


 ブルブルっと悪寒が走る。

「ヤバイな……このままじゃここで一夜を過ごすのか?」

 いくら初夏とはいえ、まだ夜は肌寒い。

 財布の中には508円しか入っていなかった。


「完全に終わったな……」

 そう、途方に暮れながらシトシト降り止まない夜空を見つめながら眠気が襲う。


(あぁ……寒い……。このまま凍え死ぬ何てシャレになんないな……)

 そのまま意識を失った……





「…倉くん! 高倉くん!!」

 物凄い強さで揺さぶられている。

 あれ? なんかスゲー寒い……

 薄ら目を開けながら視界がだんだん広がってくる。


「相葉……一香……?」

 何で憎っくきあの女の顔が目の前に居るんだ?


「高倉くん、すごい熱!!」

 額に覆いかぶさった柔らかい掌が不思議と心地いい。


「ねぇ、鍵は? 何でこんな所で寝てるの? もう9時だよ!?」

 取り乱したように彼女が叫んでいる。


「……あぁ、思い出した。鍵……学校に置いてきちゃってさぁ。……情けねぇよな」

 ったく、コイツには何でいつもカッコ悪ところばかり見られちまうんだろう。

 結局いつも力を借りて、借りばっか作って……


「とりあえずウチに来て。このままじゃ本当に救急車呼ばなきゃ何なくなっちゃう!」


 ちょっと待って!!それは困る!!

 学校のトイレに鍵を忘れて家に入れず風邪ひいて救急車だなんて、カッコ悪すぎだろ!!


「き、救急車はやめろ!! 頼む!!」

 必死で彼女の腕を掴む。


「じゃあ、とにかく中に入って! 大丈夫、私高倉くんに嫌われてるし、もう何とも思ってないし。ただの人助け」

 ニコッと笑って僕を見た。

 その笑顔に何だか頑に拒否する理由が見つからなくなり……


「そんなに言うなら……」


 彼女はモゴモゴと口を動かして喋る僕の手を強引に引っ張り、

「はい、じゃあ、どうぞ!」

 玄関の扉を開けて僕を支えながら招き入れた……



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