38.本能のキス
「なんか、変な感じだな。君と一緒に温泉に入ってるなんて」
過去は巨漢だなんて言ってたから大した身体じゃないんだろうなんて思ってたが……
ビックリするほど引き締まってんじゃねーかっ!!
最近の自分の弛んだ身体が恥ずしくなる位だ。
「君とかやめてください。陽一でいいですよ」
なんか垢抜けたな、コイツ。
表情もだいぶ穏やかになったし。
「陽一くん……ってか陽一!! いや、陽でいいか! どうなんだ、最近?」
喋れば喋るほど親父臭くなんな……
あぁ、嫌だ嫌だ。
「最近って、なんスか?」
面倒くさそうに俺を見た。
「なんスかって、一香ちゃんの事に決まってんだろ」
突然真っ赤になって陽は俺と距離を取り出した。
「な、何言ってんですか?? 別に、俺は、そんな……」
なんだよ、可愛い反応すんじゃねーか。
「別にじゃないだろ? 何のために別れた元カノと一緒に来てると思ってんだ? 咲も俺も、最初っからお前の気持ちなんてお見通しなんだよ!」
ったくこれだからガキは!
女の子なら可愛いけど男はただただ面倒臭いだけだ。
「そんな、佐久間さんには関係ないでしょうが! 余計な口挟まないで下さいよ!」
……ったく一瞬でも可愛いと思っちまった俺の気持ちを返しやがれ!
「あのな。一香ちゃんがいつもお前のそばにいてくれると思ったら大間違いだぞ? 男と女なんていつ何がきっかけでお別れになるかなんてわかんねぇんだから。これは命令だ。さっさと告白しろっ!」
俺は陽の背中をバシッと叩いた。
「痛っ!!」
ギロっと俺を睨む。
「まぁ、命令なんてもんは冗談だが、少なくともあの羅々って子、好きじゃないならちゃんと切っとけ! 一香ちゃんが彼女がいる男に手を出す様な子に見えるか? 確かに羅々ちゃんは可愛いけど性格は最悪だ」
俺は遊園地の彼女を思い出すとまた背筋が寒くなる気持ちに襲われる。
「それは……分かってます」
分かってるんかいっ!!
はぁ、つくづく面倒なやつだ。
「なぁ、なんでちゃんと気持ちを伝えないんだ? 一香ちゃんだって陽といる時は楽しそうにしてんだろう?」
あんだけ女の子をとっかえ引っ換えコンビニに連れてきてたんだから、告白くらいたやすい事だろうが。
「……そんな簡単に言えないっスよ。俺にとって一香は……自分の全部を捧げてもいいくらい大切な存在だって気づいてしまったから……。下手な告白をして彼女の心をかき乱したくもないし、悩ませたくもない。俺は、それだけ一香に今まで酷いことをしてきたから……」
おいおい、どんだけ好きなんだよ?!
自分の全部を捧げてもいいくらいなんて、ちょっとばかり重すぎやしないか??
「なぁ、少し考えすぎじゃないか? プロポーズするわけじゃないんだし」
「結婚……したいです。できるものなら。もう彼女以外に興味の湧く女性なんんて今までもこれからもいませんから、絶対」
絶対って……おい。
その話、ちょっとレベルが高すぎて俺にはついて行けそうにないな……
「佐久間さんは咲さんと付き合ってた時、結婚したいって思わなかったんですか?」
「思ったこと……ない」
はぁと陽一がため息をついている。
あるわけねーだろ!
俺たちまだ学生だぞ?
そんな発想にもなんねぇわ。
「じゃ、咲さんに明日他の人と結婚するって言われたら『はいどうぞ』って別の男に渡すんですか?」
「いやいや、ちょっと待て。突拍子が無さすぎて想像が追いつかん。にしても……まぁいい気はしないかな」
想像つくかよ?
俺たちはもう恋人でもないんだぞ?
「俺だったら絶対に嫌です。何がなんでも渡したくない」
そう言う割には告白も出来てないじゃないか。
本当にガキだな。
小学生か。
「だから……彼女に俺を好きになってもらいたい。他の男なんて目に入らないくらいいい男になって……。俺にはまだ全然足りないんだ。彼女に好きって言えるほど中身がまだ何もない」
瞳の奥に燃え盛る強い意志は十分に伝わった。
でも、恋愛にはやっぱりタイミングってもんは重要なんだよ。
「一香ちゃんが今、陽の事が好きだったとしたら……?」
「……な訳ない。むしろ嫌われてたっておかしくないんだ」
「ふうん……」
こりゃ一筋縄では行きそうにないな……
まぁ、でもコイツの強い気持ちは結構……刺さったよ。
◇◆
風呂から出た後も陽は一香ちゃんの側から片時も離れない。
側から見れば本当に恋人同士にしか見えんが……
「高倉くんは本当に一香ちゃんの事が好きなのね。一人の男性にあんなに好きになってもらえるなんて羨ましい」
咲がポロッと吐いた言葉にどうも納得がいかない。
「俺だって咲の事……ずっと好きだったけどな」
陽一の影響だろうか。
思っていた事がつい口から滑り落ちてしまった。
「真也のは好きじゃなくて、ご機嫌とり! 私は……ちゃんと真也の事想ってたわよ?」
はぁとため息をつく咲に俺はどうしたらお前に対する想いをちゃんと伝えられるんだろうか?
「うるせえな!! お前がなんと言おうと俺は咲の事好きだったんだよ!!」
思わず細い手首を掴んだ。
「何よ!! 離してよっっ!!」
「誰が離すか……!」
これはもう本能だけだった。
咲の口から飛び出す俺への気持ちがほんの少し見えた気がしたんだ。
取りこぼしたくなかった。
あるもの全部自分の中に取り込みたかった……
それ一心で、俺は人目も気にせず咲の唇を貪り続けた。




