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37.咲さんの気持ち

「ねぇ、見て見て高倉くん! すっごい可愛いよ!」

 なんかもう吹っ切れた。

 だって私はずっとずっとずーっと高倉くんとこうしたかったんだから。


 手なんて繋げなくったっていい。

 二人で一つのものを見て笑い合って……

 たくさん会話して、認め合って。

 これ以上の幸せなんて求めたらバチが当たる。


「なんかコレ、一香に似てない??」

 高倉くんが入り口のお土産物屋に並べられていた淡いピンク色のウサギのぬいぐるみを手にして私の顔の隣に並べてきた。


「そっかなぁ? でも可愛いからいいか!」

 ぬいぐるみの表情をわざと真似して口を尖らせてみる。


「あはは、可愛い!! すっげー可愛いよ!!」

 その言葉を一瞬真に受けて頭に湯気が上る。


「ち、ちょっと、素直すぎなんだから! もう!」

 もう、照れ隠しするのが大変だよ。

 心臓が跳ね上がりすぎて、もうヘトヘトになっちゃう!


「だって、本当に可愛いぜ。一香も、そのウサギも」

 急に真顔で私の顔を覗き込んだ。


「……そんな真剣な顔で言われたら……。お世辞じゃなくて本気に聞こえるじゃない」

 独り言で言ったつもりだった。


「え? 本気でそう思ってるけど?」

 振り返り当たり前のような顔をして私を見た。

 きっと顔、真っ赤になってるよね。

 恥ずかしくて咄嗟に両手で顔をかくした。


「なになに? なんかマズいこと言った?」

 そう言って私の顔を覆った手を引き剥がそうとする。


「やだやだ……! ちょっと、まって! 恥ずかしい!」

「なんだよ? また泣いてんのか??」


 力強く振り解かれた掌の下は、完全に沸騰しきったヤカンの様な湯気を出していたに違いない。

「もう……!!」

 そう言って高倉くんを見上げると、今更私以上に耳たぶまで顔が真っ赤になっていた。


「……え? 顔真っ赤……」

「ちょっ!! 見んなよ!! 一香が顔真っ赤にしてっからつられたんだよ!!」

 そういってくるりと後ろを向く。


 なんか最高に嬉しかった。

 どうしよう……大好き……


 ◇◆


「一香ちゃん。なんか高倉くんといい雰囲気なんじゃない??」

 大きな露天風呂に浸かりながら咲さんは嬉しそうに私に話しかけてきた。


「なんか……今日告白して、片想いももう終わりになるって思ったら不思議と吹っ切れちゃって。中学の時からずっと高倉くんの事好きで、一緒にこんな事出来たらなぁとか、こんな会話のやりとりしたいなぁとか思ってた事が怖いくらいに叶っちゃって……」

 夢の中だけで終わる世界だって思ってたのに。


「でも叶えば叶うほど、もっとずっと一緒にいたいとか、二人で色んなものを一緒に見たいとか、変な欲が出てきちゃって。ダメですね、私」

 欲張りにも程があるよね。

 きっと最後の日だから、神様がちょっとだけ味方してくれてるだけなのに。


「一香ちゃんは素直でいいなぁ! 私にもその素直さがあればうまく行ってたかもしれないのにね」

 咲さんがまた寂しそうな顔をした。


「咲さんも佐久間さんもすっごく仲がいいじゃないですか? こんな事聞いて失礼かもしれないですけど……どうして二人は別れちゃったんですか?」

 前に佐久間さんにした質問……

 咲さんならなんて答えるんだろう??


「うーん……。真也はさ、優しいの。すっごく。でもさ、いつからかその優しさは関係を守る為の優しさって言うか……私を好きで好きで仕方がなくて、自分の中からそうしてやりたいって湧き上がるものと違うと言うか……、うまく説明できないなぁ」

 一呼吸置いて咲さんは続けた。


「真也が私に付き合ってくれっていってくれた時は、この人は本当に私を好きでいてくれてるんだって確信が持てたのよ。だから付き合い始めたけど、ちょっとした事で私が本気で怒って、『もう別れる』って言っちゃったの。それはもちろん売り言葉に買い言葉で本気じゃなかったわよ?」

 冷たい冬の空気が私たちの頭をすうっと心地よく冷やしていく。


「それがきっかけだったのかな。今まで真っ直ぐ私に投げてくれた優しさが急にご機嫌とりの様なものに変わって……。だんだんとそれが嘘くさく感じる様になって。そんな社交辞令みたいな優しさを振りまいてまで、どうして私と一緒にいたいって思うの?って思ってた時に、真也の友達から、彼が美人の彼女がいるんだって自慢しまくってるって話を聞いて……気持ちが一気に冷めちゃった」


「褒めてくれてるのに……?」

 私は咲さんの気持ちを全部は理解できなかった。

 高倉くんにそんな事言われたら……私なんか嬉しくて仕方ないのに。


「私ね、自分が言うのも何だけど、見た目だけで『好き』って言ってくれる人はたくさんいるのよ。でもそれって本当の私をみてくれてないって事じゃない? そう言う男がアレルギーみたいに大嫌いで……真也は最初は見た目だけで言い寄って来てたけど、だんだん違うのかなってやっと思えて付き合い始めたのに、その友達の一言で、あぁ、やっぱりコイツは私を自分の飾りにしたがってるだけなんだなって気づいちゃった」


 そう……なのかな……?

 私にはそうは見えなかったけど……


「でもさ、一香ちゃんと高倉くん見てると羨ましいんだ。付き合ってなくったって二人とも素直だから私には本音が透けて見える」

 ふふふと笑いを堪えている。


「一香ちゃん。高倉くんはきっと嘘つけない人だよ。だから今までどおり彼を真っ直ぐ見てればいい。一香ちゃんの目に映った高倉くんは駆け引きなんて全くない、全部本当の高倉くんだから」


 咲さんは私の肩をそっと叩き『お先に』そう言って上がって行った。

 私はそんな咲さんの気持ちも、言葉も、全部上手に理解はできなかったけど、佐久間さんともう一度向き合って欲しい……そんな気持ちでいっぱいになっていた。



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