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36.『大好き』な気持ちに、素直になりたい。

「おはよう!」

 大きく手を振る咲さんの後ろに止まっていた青い車から、バンッとドアを軽快にしめながら佐久間さんが降りて来た。


「あれ? 今日車で行くんですか??」

 駅で待ち合わせだって言ってから、てっきり電車で行くのかと思っていたのに。


「うん、電車で行こうと思ってたんだけど、今日、天気午後から崩れるって話だったから慎也にお願いして車出してもらったのよ。ボロいけど我慢してね!」

 可愛らしくウインクして後ろの扉を開ける。


「なんだよ、失礼な! 大学生の車なんてこんなもんだろ」

 相変わらずな二人の会話にホッとしながらも私と高倉くんは後ろに乗り込んだ。


「じゃ、出発するから、トイレとか行きたくなったら遠慮無く言ってな!」

 佐久間さんのその一言を皮切りに、ここから一時間程の車の旅が始まった。


「軽だから狭いだろ? ごめんな〜」

 ハハハと笑いながら信号待ちの時にチラッとこちらを振り返る。

 私と高倉くんは軽く会釈をしたけど、気まずい雰囲気はまだまだ継続中だ。


「久しぶりだな、咲を助手席に乗せるの」

 ふと佐久間さんが懐かしそうに呟いた。


「そうね、変わってないわね。相変わらず」

 そう言って佐久間さんを見た咲さんの表情は……とても柔らかかった。


「なんだかんだ色んな所出かけたもんなぁ」

 頼もしい大きな手で掴んだハンドルをサクサクと捌いている佐久間さんと、その横で楽しそうに会話をしている咲さんがどうして別れてしまったのか、私には全く分からなかった。


 二人は間違いなく恋人同士だった……

 後ろから私たちが知ることのない二人の過去がほんの少しだけ見えた気がする。


 前の二人が楽しい雰囲気を醸し出している中、私と高倉くんは微動だにせず、じっと前を見たまま座っていた。

 緊張でだんだんと空気が薄くなるのを私は目をつぶって誤魔化している。


「……一香? 顔色悪いけど大丈夫か?」

 薄れそうになっている意識の中で高倉くんがポンと私の肩を叩いた。


「……え? あ、うん……ちょっと酔っちゃったかも」

 あ、コレはダメなやつだ……

 寝不足が祟ってるわ……


「大丈夫? 後5分位で着くからもうちょっとがんばってな!」

 佐久間さんのその声が私は最後まで聞き取れずに意識を失っていた……


 ◇◆


(……あれ? 私どうしたんだっけ??)

 寝ぼけ眼でゆっくりと目を開けると車のシートが目に入った。

 でもなんかすごく気持ちがいい……

 あったかい手で優しく髪を撫でられている。


(なんだか猫になった気分……)

 柔らかい膝の上で優しく撫でられて……


 ……ん?

 膝の上?

 撫でられてる……??


 急に夢から醒めて目を見開いた。

 恐る恐る見上げると、高倉がじっと私を見つめている。


「うあぁぁぁぁ!!!」

 目の前の光景が余りにも非現実的すぎて受け入れられず、飛び起きた。


「おい、大丈夫か?」

 突然の私のリアクションに驚いたのか、高倉くんは目を丸くしている。


「え? あれ? どうして??」

 ええと、ええと……

 温泉に行くって言って、車に乗って……

 そうだ、気分が悪くなって……


「佐久間さんと咲さんは?」

 そういえば私と高倉くん二人きりじゃない!


「飲み物買うついでに施設の様子見てくるって。もう現地には着いてるよ」

 冷静になると急に車の中の静けさが私を追い詰める。


「そっか……。迷惑かけてごめんなさい! 昨日なんか全然眠れなくって……」

 ホント情けない!!

 告白するって決めたくせに早速また迷惑かけて……

 こんなんじゃまた嫌われちゃうっ!!


「俺もだよ。昨日眠れなかった」

 そう言ってニコッと笑った。

 固まっていた空気が一気に溶けていく。

 自分で熱の作り方を身体が忘れてしまう位に緊張して、カチコチに冷え切っていたのに……

 高倉くんの笑顔だけでじわりじわりと温まって来る。


「そっか」

 ふふふと笑ったら、あははと返ってくる。


 なんだか、たったこれだけのことなのに……

 ただ笑い合ってるだけなのに、私、今凄く幸せなんだ。


「よかった、やっと笑った」

 ホッとしたように高倉くんが息を吐いた。


「えっ……?」

 予想外の言葉に頭が追いついていかない。


「ずっと、なんだか元気なかったし、俺のこと避けてただろ? 羅々ちゃんとの事もあるし話しかけたら逆にまずいかなとか……そんな事考え出したら一香と話せなくなっちまって……」

 恥ずかしそうに俯く姿が愛おしすぎた。


「避けてなんてないよっ! 高倉くんと羅々ちゃんの邪魔しちゃ悪いかなって思っただけ……」

 また車の中がしんとなった。


「……どうして?」

 沈んだ高倉の声が聞こえる。

 顔が……怖くて見れないよ……


「ネックレス、すっごい喜んでたよ、羅々ちゃん」

 ハッとした表情で私の肩を強く掴んだ。

「違う……あれは……!!」


 高倉くんが何か言いかけた時、運転席のドアがガチャっと開いた。


「一香ちゃん、大丈夫?? ほらお茶買ってきたから」

 佐久間さんはあったかいお茶を私と高倉くんに手渡した。


「あ、ありがとうございます」

 私はそれを受け取り掌で包み込んだ。


 あったかい……


「……高倉くん、今日は楽しもう!」

 高倉くんに片想い最後の日。

 結果はもう見えているけど最後の最後まで楽しみたい。

 高倉くんの事が大好きで、大好きで、大好きで……

 どうにもならないくらい好きな気持ちを素直に身体中に満たしていたい。


「……あ、あぁ……」

 そんなに戸惑った顔しないでよ……


 ごめんね、自分勝手で。

 でも今日だけは高倉くんの一日を私に下さい……




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