33.拗れた高倉くんと一香ちゃん
咲は一体どう言うつもりなんだ、いきなり呼び出して。
詳細を聞いても教えてくれないし俺にどうしろって言うんだよ?
急に咲から一香ちゃんのアパートに来いって言われたはいいけど、いくら理由を聞いてもまともな返事が返って来なかった。
俺はエスパーじゃないんだぞ?
やっぱり……俺たちは結局こうだ。
気持ちがすれ違ってばっかりで、もう二度と交わることはできないのかも知れない。
アパートの階段をきしませながら一段一段上がっていく。
突然軽快な足音が後ろから被さってくる。
(……ん?)
振り替えると俳優のような顔をしたイケメンが息を切らしながら駆け上がってくる。
俺を追い抜くときに軽く肩が触れた。
「あ、ごめんなさい」
足を止めることなく振り返り軽く会釈された。
「……あ、あぁ」
この階段を上がり切ったら……一体何が待ち受けてるんだ?
まさかさっきの男は関係ないよな?
最後の一段を上がり、部屋に続く廊下に体の向きを変え、ゆっくりと前を向く。
(……ん?!)
狭い廊下に見覚えのある顔がずらりと並んでいる。
その中にさっきのイケメンも混じっていて馴れ馴れしく咲の肩に触れていた。
思わず足が勝手に前に出る。
『おい、咲に触んな!!』
喉元までそう出かかったがゴクリと喉を鳴らして呑み込んだ。
「真也っ!! こっちこっち!!」
咲に大きく手招きされて、俺は小走りでそこに向かう。
「どうした? 何事なんだ、一体?」
もう訳がわからない。
一香ちゃんや高倉くんの他に羅々ちゃんと謎の男……
「これが、私の彼氏! 納得してくれた?」
咲は羅々ちゃんに向かってニッコリと微笑んでいる。
どう言うことかわからんが……とりあえず合わせといたほうがいいんだろうか?
もう下手に喋らず流れに任せたほうが賢明そうだな……
「えっ? 咲ちゃん彼氏いんの?? 俺のがいい男でしょ? 乗り換えちゃいなよ!」
さっきの謎のイケメンが咲ににじり寄る。
「おい! 拓兄!! いい加減にしろよ! なんで今日ここにいんだよ?!」
高倉くんが慌てた様子で自分の部屋に謎のイケメン『拓兄』を押し込もうとしている。
「いや、今日もちょっと色々と事情があって泊めて欲しいんだよ〜、な、陽ちゃん」
猫撫で声で高倉くんに戯れている様子を見ると……兄弟なのか?
そういえば目元や顔の形とか……所々似てんな。
「話は後で聞くからとにかく中に入っててくれ!! 羅々ちゃんもなんでここに来てんだよ?! 頼むから今日のところは大人しく帰ってくれ!!! 今度隣から苦情来たらマジで住めなくなるからっ!」
アイツもあんなにあからさまに取り乱すことあるんだな。
俺は必死で笑いを堪えながらその様子を赤の他人の様に眺めていた。
「じゃ、咲ちゃん。お隣に住んでるんならまた後でピンポン押すね」
バチっとウインクしながらも遮られるように高倉くんに部屋に押し込まれていく。
(隣……? どう言う事だ?)
「高倉くんのお兄さんも来ちゃったみたいだし、今日は帰るね。でもまた明日来るから」
羅々ちゃんはギュッと高倉くんの手を握り名残惜しそうに見つめている。
「マジでお願いだからもう来ないでくれ!!」
大きなため息を吐きながら彼女に懇願している高倉くんの思いはきっと届いてないだろうな……
俺は哀れな視線を送りつつ、いったいどう言う事なのか咲にたっぷり説明してもらおうじゃないかとにじり寄る。
羅々ちゃんと謎のイケメンの姿が消えたのを確認して一香ちゃんが口を開いた。
「あ、あの、今日は本当にありがとうございました! 高倉くんや佐久間さんに事情をちゃんと説明してなかったし……みなさん、よかったらウチに寄って行きませんか?」
確かに謎だらけの呼び出しの理由も知りたかったし……
謎のイケメンの存在も、咲との関係もやっぱり……気にはなる……
「一香ちゃんは大丈夫なの?」
咲が心配して一香ちゃんに声をかけた。
「外でお話ししててもその……また隣の人に怒られちゃうといけないし……ウチは全然構いませんから」
俺と咲は顔を見合わせて頷いた。
「高倉くんも……何となく事情は分かってるかもだけど、咲さんは初めてでしょ?」
二人が話す空気が最初の頃よりも丸く柔らかくてなっている気がした。
見えない所で少しずつ距離が縮まってくれているなら素直に嬉しい。
コッチは……相変わらずだけどな。
「一香が平気なら……」
そう言って頭を掻いている。
なんだ素直じゃないか。
急に『高倉くん』にどんな心境の変化があったのか気になってきた。
「じゃ、どうぞ、上がってください」
そう言って一香ちゃんは玄関を開けてくれた。
俺たちはゾロゾロと部屋に上がって行く。
「好きな所に座ってください、今お茶入れますね」
一香ちゃんはそう言って台所に入っていく。
「俺も手伝うよ」
俺は『高倉くん』のその言葉にとんでもなく驚いた。
その先も……俺の予想を遥かに超えた二人の会話が続いていく。
「カップいつもの所?」
「うん」
「紅茶新しいの買ったんだ」
「そう! ダージリンばっかりじゃ飽きちゃって。アールグレイもすっごいいい香りするよ?」
「へぇ。一香、ほんと紅茶好きだな」
「うん、高倉くんだって美味しいって言ってたじゃない」
「一香に洗脳されたのかも」
「もう! 美味しいなら美味しいっていえばいいのに、素直じゃないんだから!」
あははと二人の笑い声がキッチンを遮る暖簾越しに聞こえて来る。
咲と俺は顔を見合わせてニヤニヤしていた。
「なぁ、もう付き合ってんの? あの二人?」
咲に聞くと横に首を傾げている。
「だって……相当行き来してんだろ、お互いの部屋。あの会話じゃ……間違いないだろ」
コソコソと小さい声で咲を見た。
「私たちが心配する必要なかったわね」
そうならそうと報告くらいしてくれればいいのに。
羅々ちゃんには言えない理由でもあるんだろうか?
一香ちゃんがお盆の上に紅茶を入れて運んできた。
丁寧に四つテーブルの上に置かれて真ん中には美味しそうなクッキーがお皿の上に並んでいた。
「これ私が作ったんで、よかったら食べてください」
そう言って席に着いたかと思えば……
「ほんと旨いっスよ、一香の作ったクッキー」
そう言って『高倉くん』はパクリと口に運ぶ。
「なぁ……確認なんだけど、二人って付き合ってんだよな?」
俺は我慢できなくて言ってしまった。
これでカップルじゃないなんて、逆に説明つかないだろ??
途端に隣同士で座っていた二人は磁石の同極が弾き合うかのように瞬時に距離を空けた。
「そ、そんな訳ないじゃないですか!! 私なんてただの友達ですからっっ!!」
大慌てで一香ちゃんが弁解する。
「そうなの?」
咲も笑いを堪えながら二人を見ていた。
「……そうです。ただの友達……です」
さっきとは顔色を180度変えて『高倉くん』は視線を落としながらそう言った。
俺と咲は何かしらが拗れてるんだなってことはこの二人の様子を見て流石に察知できた。
察知できたが……
そこから葬式のような空気が流れ始めたのは言うまでもなく……
どうしたもんかと俺は頭を抱えていた……




