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32.羅々ちゃんの目の前に現れた一香のお姉さん

「見て見て!! 桃ちゃん! コレ高倉くんが私のために買ってくれたの〜!」

 嬉しそうに後ろの席で羅々ちゃんが桃ちゃんに話している声が嫌でも聞こえてくる。


 昨日の夜のこと……

 高倉くんと羅々ちゃん二人きりで何があったんだろう?

 こんなに心配して後悔するくらいなら最初から『お茶出してあげたら?』なんて言わなきゃよかったのに!!


『買ってくれた』って何を……?

 受け入れられるかどうか分からない現実を突きつけられるのが怖くて、振り返れない。


(でも……)


 気になって仕方がない。

 机に突っ伏して寝たフリをしていた顔を上げたところだった。

 目の前にぷらりと青いガラス玉が垂れ下がっている。


「…これ……」

 見覚えがあった。

 遊園地で私が手に取って見ていたネックレス……


「高倉くん、こんな素敵なネックレス買ってくれてたなんて……。早く渡してくれたらよかったのに、恥ずかしかったのかな?」

 うふふと顔を綻ばせて笑っている。


 羅々ちゃんにプレゼントするために買ってたんだ……

 すごく素敵だもんね、それ……


 何だ無性に泣きたくなってきた。

 高倉くんが私に優しくしてくれてたのは……

 特別な意味なんてやっぱり無かったのかな。


 最近の高倉くんがあまりにも優しかったから……

 ほんの少し期待して思い描いていた幸せな未来が急速に萎んでいく。

 思い上がるのもいい加減にしなさいよ、自分!!


「よかったね」

 心にもない返事が意思も持たずに口から出ては灰の様に消えていく。


「でもいいなぁ、相葉さんのお姉さん。彼氏いるの? あんなかっこいい人隣に住んでたら好きになっちゃうんじゃない??」

 冗談めかしな高い声色でも目が冷たい。


「ねぇ、会わせてよ。変に高倉くんに言い寄られても困るしさ。私が彼女第一候補なんだってちゃんと言っとかなきゃ!」


 候補って事は……まだ付き合ってはいないのかな……

 そりゃそうだよね。

 付き合ってたらいくら勉強だっていたって、私のこと部屋に上げたりしないだろうし。

 ……少しだけ、ホッとした。


「あの、でもお姉ちゃん忙しいし……」

 いるはずのない人に会わせることなんて出来るわけがない。

 あぁ、本当に余計なこと言っちゃたなぁ。


「忙しいって言ったって毎日帰ってくるでしょ? 自分ちなんだから! 今日私また高倉くんちに行くし何時になってもいいから必ず会わせて。じゃなきゃ不安で私、自分の家に帰れないじゃない?」


 ちょっと!!

 そんなこと言われたって……

 高倉くんちに泊まるって事?!

 もう、何考えてんのよっっ!!


「わかった……何とか顔を出す様に伝えるから……」


 とは言ったものの……

 どうすんのよ!?


 ◇◆


「咲さん……あの、一生に一度のお願い聞いてもらえませんか……?」


 私の頭から必死で捻り出した苦肉の策……

 もう、咲さんにお姉ちゃんのフリをしてもらう、それ以外の選択肢が見つからなかった。


 バイト先で佐久間さんに咲さんの連絡先を聞き、今慌てて電話してるんだけど……


『ナニナニ?? 一香ちゃんのお願いだったら何度でも聞くよ?』

 底抜けに明るい咲さんの声に安堵のため息が漏れる。


「ありがとうございます! 実は……」

 ここ最近の件を軽く話そうと思ったが、全て聞き終わる前に『任せといてよ!』と心強い返事を貰えた。


『じゃ、バイト終わる頃にお店に向かうからそのまま待ってて!!』

 咲さんはそう言って勢いよく電話が切られた。


「どしたの? なんかあった?」

 佐久間さんが心配そうに私の様子を見ていてくれてたみたいだけど、明らかに最近咲さんとギクシャクしているんだって様子は普段の佐久間さんの雰囲気を見ているだけで十分分かっていた。

 今回のことは咲さんにお願いしていることだし、佐久間さんに変に気を遣わせたくないと思って『大したことじゃないんですけど、咲さんにお願いしたい事があったんで……』そう言葉を濁す。


「言いづらい事ならいいんだけど、力になれる事があったらなんでも言ってな」

 佐久間さんはわたしの小さな気遣いなんてお見通しなのかもしれない。

 優しく微笑む瞳は何処か寂しそうだった。


 ◇◆


「ほ、ほら!! ね、お姉ちゃん! ちゃんといたでしょ?」

 じろじろと疑いの念をじっとりと込めた眼差しで咲さんを見た羅々ちゃん。

 誰がどう見ても『美人』と口を揃えて言うだろう咲さん風貌が羅々ちゃんの表情をより曇らせる。


「この人、ほんとに相葉さんのお姉さんなの??」

 疑われるのは当然だが、軽く失礼な言動はもう気にしないことにした。


「似てないってよく言われるんだ! でもすっごく仲良しなんだよね!」

 そう言って咲さんに視線を送るとそれを受け取る様に笑顔で頷いてくれる。


「可愛い妹なんであんまりいじめないでね!」

 穏やかな言葉の裏に込められた強いメッセージが羅々ちゃんにはどうやら届いてはいたようだ。


「わかってますけど、高倉くんには手を出さないでくださいね!」

 フンと横を向いて腕を組んでいる。


「大丈夫よ。私彼氏いるし。ね、一香」

 突然咲さんにとんと背中を叩かれてよく分からずに『うん』と頷いてしまった。


「なんなら今呼ぶけど?」

 そう言っておもむろにスマホを手に取り電話をかける。


「あぁ、近くにいるの? 5分位ね」

『じゃあ』とあっさりした会話だけで誰かを呼び出した。


「咲さん……彼氏いたんですか?」

 羅々ちゃんには聞かれないようにこっそり咲さんに耳打ちする。


「まぁ、いるような、いないような?」

 含み笑いをしながらも店を出た時の佐久間さんが私に見せた瞳とかぶる。


 そんな一部始終を高倉くんは黙って何も聞かずに、一歩離れた所で見守ってくれていた。

 私は羅々ちゃんの青いガラス玉のネックレスを思い出すたびに、高倉くんの気持ちがどんどん見えなくなる。


 ねぇ、高倉くん。

 一体今、何を想っているの……?

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