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31.『嘘』から生まれた悲劇

「……なんで相葉さんがここに……?」

 そう言った羅々ちゃんの視線が私の顔に突き刺さる。


「あ、えと……」

 どうしよう……

 もし私が高倉くんの隣に住んでるなんてバレたら……

 想像する事すら恐ろしいっ!!


「お姉ちゃんが……住んでるの」

 咄嗟にでた嘘はあまりにも無理がありすぎた。

 私のだんだんと小さくなる声に、羅々ちゃんの不信感が増幅して行くのが目に見えるようだった。


「……お姉さん? 相葉さんの?」

 睨み付けられた私はピクリとも動けなくなる。


「う、うん。そう……なの」

 もう……一度外に出てしまった言葉は二度と引っ込められない。

 どうせつく嘘なら、もっと気の利いたものがあったかもしれないのに……

 あぁ、どうしよう!!


「じゃあ、会わせてよ! いるんでしょ? 中に!!」

 突然強引に私を突き飛ばすとウチの玄関を大きく開いて『相葉さんのお姉さん!』と連呼する。

 当然出てくるはずもない。


「いないじゃない!! どういう事!?」

 般若の様な表情でわたしの心に噛みついてきたものだから、恐ろしさに竦んでしまってなかなか次の言い訳が出てこない。


 (どうしようっ! 高倉くん……!!)


「今日は出掛けてんだよ。昨日お姉さんに会った時、今日大事な宅急便が届くから一香に受け取り頼んだって、俺聞いてたし」


 廊下で起こっている騒ぎを聞きつけたのか、高倉くんが白いTシャツと短パンで、風呂上りなのか濡れた髪の毛をタオルでガシガシと拭きながら玄関の外に出てきた。


「あ、高倉くん! 遊びに来ちゃった! 一人暮らしだって聞いたからご飯でも作ってあげようかなって」

 彼を見つけた途端、今までの形相は何処へやら……

 急に天使の様な微笑みを見せた羅々ちゃんは高倉くんにいそいそとすり寄っていった。


「誰に聞いたんだよ、ウチの住所。学校にも口外しないでくれってお願いしてるのに」

 無表情で淡々と話す高倉くんに怯む事なく、羅々ちゃんは『うふふ』と笑顔で誤魔化している。


「ほら、見て! お家で作ってきたの!」

 そう言って高倉くんの手を取り可愛らしくラッピングされたお菓子の包みを渡していた。


「美味しくできたから一緒に食べよ? 外は寒いし」

 そう言って強引に高倉くんの玄関の扉を開けて中に入っていく。


「ちょっと!! いい加減にしろよ!!」

 高倉くんは羅々ちゃんの肩を掴み引き止めた。


「どうしてっ? せっかく作ってきたのにっ!」

 羅々ちゃんは人が変わったように叫ぶと大声で泣き出した。

 反対側の隣に住んでいるサラリーマン風の男性が驚いて顔を出す。

「う、煩くてスミマセン!!」

 私も高倉くんも頭を大きく下げて羅々ちゃんを慌てて宥める。

 変な噂が立って住みづらくなっても困るのだ。


「あ、高倉くん。羅々ちゃんせっかく遊びにきたみたいだし、お茶でも出してあげたら?」

 あはは……と苦笑いでなんとかこの場をおさめようと私は必死だった。


「……一香……?」


 そう小さく私の名前を呟いた彼の目はなんだか悲しそうにみえた。

 そんな目で見つめられたら……

 私の事好きでいてくれるんじゃないかって勘違いしちゃうじゃない……


 いいんでしょ……?

 これで……



 ◇◆



 羅々ちゃんが何か喋っている。

 ひっきりなしに動くその口元を鬱陶しく俺はじっと見つめていた。


 一香以外の女なんて家に入れるつもり無かったのに……


 ここ最近、ずっと一香は俺のそばでニコニコと笑ってくれていたし、決して嫌われている感じはしなかった。

 むしろ一緒にいられる時間を喜んでくれている様に感じていたのは結局自分だけだったんだろうか。


 r……ね? いいでしょ?」

 斜めに首を傾げて羅々ちゃんがこちらを見ている。


「何が……?」

 全く聞いていなかった。

 今彼女がなんで俺の部屋にいるのか……それすらまだ上手く受け入れられずにいた。


「これから毎日お掃除に来てあげるって話! もう、聞いてなかったの?!」

 ぷうと口を膨らましている。


「は? いらないよ、そんなの!」

 コイツ本当に自己中だ。


「いらないって言っても来るから! 相葉さんのお姉さんも気になるし……」

 両腕を組んで一瞬、人でも殺しそうな表情をする彼女に次の言葉を失った。


「相葉さんのお姉さんにも絶対に会わせて貰わなきゃ……」

 俺は咄嗟に一香が羅々ちゃんに何かされるんじゃないかと思ってしまった。


「一香は関係ないだろ?! 来たきゃ勝手に来いよ!!」

 あぁ……言ってしまった。

 どうする?

 これから……


「任せといてよぅ!! ……あれ? これ、この前の遊園地の……」

 羅々ちゃんが青いガラス玉のネックレスの入った袋を見つけ手に取った。


「わぁ! キレイ! なんだ、ちゃんと私にも買ってくれてたんじゃない」

 そう言って自分の首に目にも留まらぬ速さで装着した。


「おい、それは……!」

 それは………

 それは……


「それは??」

 不思議そうにこっちを見てくる羅々ちゃんの視線に触れない様に必死だった。


 ネックレスがそこにある本当の理由なんて言えるわけがない!

 俺は渋々彼女がそれをつけまたまま、何も出来ずに帰る背中を見送った。

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