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3.高倉くんの心情と一香の想い

「あぁ! クソッ! 目覚め悪っっ!!」

 昨日の相葉一香とのやり取りが悶々と頭の中に立ち込める。

 最低だとは思いたくないが、彼女にはきっとそう思われているに違いない自分の言動に対して抱いたほんの少しの罪悪感が、チクチクといつまでも良心を突いて止まない。


 そもそも何でアイツがウチの隣に住んでんだよ?

 一度は気づきもしないフリを決め込もうと思ったが、やっぱり無理がありすぎると思いはじめたら急に取り乱してしまった。

 一刻もはやく彼女に口止めをしなければと気が焦り、気づけば彼女の部屋を叩き叫んでいた。


 アイツの驚いた顔……


 いや、僕はやっぱり悪くない!

 そう言い張れるくらい努力をして、今があるんだ!!

 勝手にウチの隣に住んでるアイツが悪い!!!


 ……でも、何であんな悲しい顔するんだよ……


 はぁ……

 高校生活二日目にして、自己嫌悪の嵐。

 こんなはずじゃなかったのに。


 ボーッと考えていたらあっという間に出る時間だ!!

 食パンを口に咥えて急いで外に出る。


 と、同時に隣の部屋の扉が開いた。

 相葉一香も慌てて部屋を出てきたようだった。


 鍵をかけている彼女とバチっと目が合い……

 目が真っ赤……??

 まさか泣いてたのか……?


 思わず口で咥えていたパンがポロリと地面に落ちた。


「あっ!」

 彼女が口を開いた。


「……これ……」

 すぐに拾って僕に差し出す。


「あ、もう食べれないか……」

 力なく笑う彼女の目が腫れている。


「あの、大丈夫。安心して。私、絶対高倉くんの事誰にも言わないし……、もう今は何とも思ってないから」

 そう俯きながら話していた彼女は、小さな声で「じゃあ」と言い僕の横を通り過ぎていく。


「……ちょっ!!」

 ちょっと待ってって言おうとしたんだ。

 そう背中に向かって叫びかけた時気づいた……

 アイツの制服……ウチの学校のじゃないか!!



 待ってくれ、嘘だろ??

 高校まで一緒かよ!!!



 そこから学校までの記憶があまりない。

 ただ、気がつけば俺の右手には汚れた食パンが物憂げに佇んでいた……



 ◇◆ ◇◆



「ねぇ、一香ちゃん!! 一組の高倉くんと同じ中学校だったんでしょ??」

 後ろの席の清水桃華(しみずももか)ちゃんが興味津々に話しかけてくる。


「……うーん、まぁ同じ学校だったけどほとんど関わりなかったし、よく知らないよ」


 これ、上手くごまかせてるかな……?

 不幸中の幸か、クラスが違ったのだけはせめてもの救いだった。

 中学校の時とは全く別人のように社交的に誰とでも話す高倉くんの人気に圧倒されながら、なるべく彼とは接触する事がないように気をつけていたつもりだったのに、もう出身中学校が同じってことまでバレてるなんて……!

 ファンの力、恐るべし!!


 そうして立て続けにピンチが私を襲う。

「………!!」

 芸術の選択教科で美術を選択していた私は、突然隣に座ってきた男子を見上げて驚愕する。

 きっと向こうも『げっ』って思ったに違いない。

 ……っていうかそう顔に書いてあった。


 何でよりにもよって隣に座ってくるのよ!!

 先に座ってたの私の方だからねっっ!

 絶対悪いのは私じゃないんだから……



「今日はリンゴを水彩画で描きましょう!」

 四人グループになった私たちは一つのリンゴを見つめながら無言で画用紙に描いていく。


 自慢じゃないけど何気に美術部だったし、もちろん高校でも続けようと思ってるから、絵は大得意。

 チラッと視線を感じたと思ったら隣で高倉くんが口を開けて私の絵を覗き込んでいる。


「……あの、何ですか?」

 視線が気になって集中できないじゃない!


「いや、お前、絵上手いな」

 真顔でサラッと褒め言葉?!

 いつからそんなチャラ男になったのよ!!


 ま……、嬉しいケド。


「そうかな……?」

 周りの目も気になるしぎこちなく返す。


「あぁ。すげーリンゴ美味そう」

 みんな集中して静まり返るなか、ふざけた言葉が宙を舞う。


「高倉ー! どんだけ食いしん坊なんだよ? もっと褒め方ってもんがあんだろ?」

 他の男子に突っ込まれて『うるせーな!』と反論しながら赤面している。


 なんか……いいな。

 こんな感じ、ずっと密かに憧れてた。

 自然にみんなと会話して、笑って……

 今の高倉くんにはそれが出来るようになったんだね。

 感極まって目頭が熱くなる。


「なに? お前また泣いてんの?」

 急に声のトーンを下げて私の顔を覗き込む。


「泣いてなんかないよ! 集中してたから、目が乾いて痛かっただけ!」

 本当は……すっごい嬉しかったの。

 泣けちゃうくらいに……


「変な奴」

 クスリと笑ってまたリンゴに目を向ける。



 どうしよう……

 また大好きになっちゃうよ。

 心臓の音が聞こえそうなくらいドキドキして……

 息ができなくなりそうなくらい苦しくて……


 永遠にこの時間が続けばいいのに………



 無情にも終わりのチャイムが鳴り響く。

 何事もなかったようにスッと席を立った高倉くんの背中を目で追いながら、彼が見つめていたリンゴを大切に掌に乗せた。


 また……いつか高倉くんの隣に座れるといいな……





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