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28.二人だけの時間

(あぁ……緊張するっ)

 教科書や参考書をぎっしり入れた手提げカバンをギュッと抱きしめた。

 高倉くんの部屋の前まで来てるのに、なかなかインターフォンが緊張で震えて押せないでいる。


(どうしたんだろう、急に。昨日から全く行動の意味が読み取れないよ)

 自分がエスパーだったらどんなにいいか……

 こんなにも人の気持ちって、分からなくなるものなのかな?


(いつまでも、こうしてらんないいし……)

 手の震えを抑えながらやっとの思いでボタンを押す。


 中から足音が近づいて来てバタっとドアが開いた。


「あ、あの……」

 私は恥ずかしさと緊張に押しつぶされそうになりながらゆっくりと顔を上げた。


「お、おう。汚いけどどうぞ」

 全く目を合わせてくれない高倉くんは真新しい花柄のスリッパを私の足元に用意してくれた。


「か、可愛いね! このスリッパ」

 何か喋らなきゃ……

 会話が途切れるのが怖い。


「それ、母さんが来客用に置いてったんだけど、身内以外誰も入れてないし、一度も使ってないからキレイだよ」

 私に背を向けながら頭を掻いている。


(誰も……来てないんだ)

 それだけで嬉しかった。

 あんなに毎日女の子が側に居るのに……この空間には誰もまだ入っていないんだって思ったら身体が急にふわふわした。


「何ニヤニヤしてんだよ」

 やだっ!! 顔に出てる?!

 両頬に手を当てたら持っていたバックが落ちて中身が床に散乱する。


「おいおい、ってかすごい量持って来たな」

 そう一冊一冊二人で拾いながら高倉くんはクスッと笑っている。


「……いっぱい教えてもらおうと思って……私ホントにテストやばそうなんだ」

 それだけじゃ無い。

 バックに詰めた本の数だけ高倉くんと一緒に居られる時間が増える気がした。


「まぁ、明日も休みだし、俺も特別やる事ないし、付き合うよ」

 そう言って拾い上げた参考書達の入ったバックを持って部屋の奥に入っていく。

 私はその後を小走りで追いかけた。



 ◇◆


「ここは……こっちの数式を使って解くんだよ。やってみて」

 勉強となると私も高倉くんも真剣になる。

 激しい受験戦争を勝ち抜いて今の高校に入ったのはやっぱり簡単な事じゃない。

 少しでも時間ができれば参考書を開いているのは当たり前の事だし、バイトなんてやっている時間はもちろん、本当は予備校に当てる位に勉強をしていなければ授業についていくのも大変な世界だ。


 そんな中高倉くんはいつも遊んでそうに見えていつも、学年10位以内には絶対に入ってる。

 中学の頃から思ってたけど……本当に頭の良い人だ。


「本当だ!! 簡単に解けた!」

 余白が埋まるくらい計算しても解けなかった問題が高倉くんの一言で簡単に答えを導き出せた。


「そんな回りくどい計算しなくったって簡単に答えを出す方法はいくらだってあるんだよ」


 優しく笑っている高倉くんの顔を見ていると、恋も数学と似たようなものだなぁと思ってしまう。

 もう私の中の余白は書き留める場所がないくらい、高倉くんで埋め尽くされて来た。

 一度出した答えは弾かれて飛んでいってしまったけど……

 もう一度真剣に向き合って答えを導き出したら……正解できるんだろうか?


「高倉くんって本当に凄いよね。私が知らない事をいっぱい知ってるし。……尊敬する」

 好きとか、恋とかそんなのを超えて私は高倉くんの凄さをたくさん知ってる。

 誰に何と言われようとブレない力強い心と豊富な知識……

 嬉しい時は素直に笑って、ちゃんと感謝の気持ちも言葉にできる人だ。

 私は……みんなの知らないそんな高倉くんをずっと見て来たつもりだった。


 でも……まだまだ足りない。

 高倉くんが持ってる魅力はもっともっとあるはず。


 私はいつも新しい高倉くんを見せつけられて心がすぐに揺ら揺らと揺れ動く。

 あきらめよう……そう何度思っても、気がついたら昨日よりも今日のが彼を好きになっている。


 ずっとずっと……私は高倉くんを好きでいたい。

 心がいつも叫んでる。


「一香だって美味いハンバーグ作れるだろ。俺には……できない、絶対」

 真っ直ぐ私を見る目からもう逃げられない。

 吸い込まれるように私も高倉くんの瞳を見つめていた。


「また……作ってくれないかな。食べたいんだ。一香の作った料理」

 その瞳の奥から高倉くんの伝えたい何かがあるような気がして……


 一生懸命読み取ろうと思った時フイッと目を逸らされた。


「あのコンビニの色黒男……ほら、遊園地一緒に遊びに来てた奴……彼氏?」

 ハッと思い出した顔で萎んだ風船のように力ない声が……急に空気の色を変えた。


「違うよっ! 佐久間さんにはまだ好きな人がいるし」

 私は慌てて弁解した。

 変に誤解されたくないし……


「そう……なの??」

 またじっとコチラを見ている。


「うん!」

 力強く頷いた。


「そか」

 フッと目元が緩んだ気がした。


「あ、あと昨日の電話……城田くんからの……」

 ピクッと高倉くんの体が動く。


「あの、告白されて……断ったんだけど、それからも結構デートに誘われてて……なんか、急にモテちゃってさぁ、一体どうしちゃったんだろうね、もしかしてモテ期かな?」

 あははと笑って見せる。

 伝えなきゃ……! 城田くんとはなんでもないって。

 高倉くんが気にしてようがしてまいがっ!!

 私が城田くんに揺らいでるって思われたくない!


「……私はちゃんと、ずっと断ってるから!」

 や、やだ! 何アピールしてるみたいな言い方になってんの? 私??


「あ、あのっ! 違くて、その、高倉くんに変に遊んでる風に見られるのやだなって……意味」

 もう! 一人で何言っちゃってんの?! 恥ずかしすぎるっ!!


「可愛くなったもんな……一香」


 え?

 ええっ??

 えーーー!!!


 高倉くんの口から出た言葉が心臓に突き刺さって……動けない。


「一香? おい!」

 完全に固まってる私を何度も呼んでたみたいだけど全く聞こえてなかった。


 嬉しくて……

 嬉しすぎて………


 気がついた時には顔を真っ赤にして高倉くんが笑ってた。

 私もきっと真っ赤だったに違いない。





 私と高倉くんは翌日もバイトの後に一緒に勉強をした。

 昨日よりもテストに関係のない話題が増えた気がした。

 

 お互い自然に笑い合えるようになって……


 いつの間にか学校やバイトの後に高倉くんの家で勉強、それが日課になって行き……二週間が経とうとしていた。

 昨日は勉強の後私の家でご飯を食べに来てくれた。


 だからって『好き』そんな言葉は一度も口にしていないけど……

 穏やかに流れていく二人の時間が心地良くて……

 気持ちなんか伝えられなくても、ずっとこんな毎日が続いていけばいいと思ってたんだ。


 ねぇ、高倉くん……

 二人の時間を大切に思っているのは……私だけですか?




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