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27.一香が部屋にやって来る。

「はぁ……どうしよう……」

 この前は美味しく食べてくれたハンバーグを、昨日の夜は殆ど残して帰ってしまった高倉くんの事を考えると身体が重たくなって布団から中々出られない。


 あの後何度もかかって来た城田くんからの着信に出ると、またデートの誘いだった。

 ちょうどバイトも入ってるし、休み明けのテストに向けて勉強しなきゃいけないって思ってたから断る口実には困らなかったが、最近増え始めた城田くんの電話に出る事がだんだんとしんどくなっている自分がいる。

 お付き合いの話はちゃんと断ったのにな……


 それにしても『ゴメン』とか、『ありがとう』とか……

 高倉くん、急にどうしたんだろう?




「はぁぁぁ……」

 隣のレジから全く同じ様な溜息が重なってくる。


「佐久間さんまでどうしたんでしすか? この前の遊園地から元気ないじゃないですか?」

 何となくだけど、私にはそう見えた。


「そう? まぁ、色々あんだよ。一香ちゃん」

 そう言ってまた『はぁ』とため息をついている。


「咲さんの事ですか?」

 遊園地に行くまでは頻繁にここに顔を出していたのに、最近はめっきり見かけない。


「えっ?」

 佐久間さんは手元にあったスキャナーをガタンと下に落として、慌てた様に拾っている。


「ま、まぁ、咲は何だか突然ヒステリックになるところがあるからな。ほら、女の子ってよくあんだろ? そういうの。そう言う一香ちゃんだってさっきからため息ばっかりじゃない。うまく行ってないの? 高倉くんと」

 会計に来たお客さんを適当に捌き肉まんを補充し始めた佐久間さんに近況を簡単に報告してみた。

 自分の中だけでは解決出来ない問題が山積みで、今のままじゃ何もかもダメになりそうだったし……


「そっかそっか。そんなに悪く考える事はないよ、美味しく無かったんじゃなくて……、まぁいいか。高倉くんに関しては一香ちゃん、今のまま寄り添ってあげればいいんじゃないかな。それよりも城田ってやつ……どういうつもりなんだろうな。この前一緒にいた羅々ちゃんも……なんか危なっかしい子だったし」

 羅々ちゃんは今でも隙あらば高倉くんにベッタリだ。

 高倉くんはどう思ってるのか分からないけど……


 自動ドアが音を立てて開いた。

「いらっしゃいませ……!?」

 入って来たのは高倉くんだった。


「今日は一人なんだな」

 笑いながらボソッと佐久間さんが呟いた。

 言葉の意味がよく分からなかったけど急に和やかな空間が緊張で張り詰めた。


「そうそう、一香ちゃん成績も悩んでるんでしょ?」

 ちょっと、どんだけ大きい声出してるの?!

「こ、声大きいですっ!!」

 シィと口元に人差し指を立て佐久間さんに訴える。


「何なら俺がまた教えようか? 一香ちゃん」

 私の訴えを無視してまた店内に響き渡る様な声で私に話しかける。

「佐久間さん、ほんとやめて下さい! 高倉くんに聞こえちゃう!」

 佐久間さんの口を慌てて塞ごうとした時。


「俺が教えてやるよ。隣に住んでんだし」

 高倉くんが佐久間さんを睨みながらそっとコーラと弁当をカウンターに出してきた。


「ん? 何か雰囲気変わられました?」

 クスクスと笑う佐久間さんは変に嬉しそうだ。


「……別に」

 ぷいと横を向いてポケットから千円札を出す。


「そうか、お隣さんだもんね。一香ちゃんとの時間楽しみにしてたんだけど……仕方ないか」

 佐久間さんはふにゃっと笑って私を見た。


「……バイト終わったら、俺んちに来いよ」

 佐久間さんから手渡されたお釣りを無造作にまたポケットにしまい、私と一度も目を合わさず帰っていった。


「ありがとうございましたー! よかったね、一香ちゃん」

 そう言ってウインクした佐久間さんは鼻歌混じりに奥のフライヤーへ入って行った。



 ちょっと待って!?

 どういう展開???



 ◇◆


 俺は一香と約束を取り付けた後ダッシュで家に帰った。


(やべぇ、勢いで来いなんて言っちゃったけど猛烈に散らかってんだった!)


 弁当なんて食べてる暇はない。

 散らかった着替えを洗濯して、掃除機かけて……

 間に合うのか?! あと二時間位しかないのに!


 部屋に散乱しているお菓子の袋や空のペットボトルを勢いよくゴミ袋に詰める。


(こんな事なら普段から掃除しときゃよかった!!)

 後悔先に立たずなんて言葉はこんな時に使うんだろうな。

 そんな事を考えながら口元が緩む。



 一香がこの部屋に来る……

 なんだろう、この胸の高鳴りは……?


『好きだ』って……まぁ、言えないだろうな。

 言えなくてもいいんだ。

 彼女との時間が少しずつ増えて行ければ。


 俺にとっては……とてつもなく大きな進歩なんだから。

 一香の笑顔を思い浮かべて……いつの間にか自分も釣られるように笑っていた。

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