20.あなたにとって必要なのは『恋人』という飾りです。
サブキャラメインの話になっちゃってますが欠かせないとこなのでお付き合い下さいませ 汗
「一香ちゃん、せっかく大変身して素敵になったのに……変な空気になっちゃって、ごめんね」
俺と咲はずっと浮かない顔をしている一香ちゃんを心配しながら寄り添って帰り道を歩いていた。
「そんな事ないですよ! 遊園地楽しかったし」
いつものようにニコッと笑っているが……その姿がどうしても痛々しく見えてしまうのは俺だけだろうか?
「って言うか、咲さんも来てたんなら早く合流してくれればよかったのに」
まさか裏に画策があっただなんて、今の一香ちゃんにはとても言えたもんじゃない。
「あー……そ、そうだね! 合流しようと思ったんだけど友達に会っちゃってさ〜! あっはは!」
おい、咲。噛みすぎだろ……これ以上怪しい臭いを漂わせんなっての!
そんなメッセージを込めて咲を肘で突いたら鋭く睨み返された。
全く相変わらず可愛くねぇな。
「さて、そろそろアパート見えてきたな。ここで大丈夫か?」
万が一『高倉くん』と鉢合わせになってしまったら、また何かとややこしくなりそうだしな……
そう思い、アパートが辛うじて視界に入るくらい離れたこの場所で彼女を見送った。
「今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」
そう言ってペコリと俺たちに軽く会釈をすると早足で建物の入り口に消えて行く。
「はぁ……。何だか、一香ちゃんに悪い事しちゃったわね。まさかあそこで喧嘩になるなんて思わなかったんだもん」
咲はずっと二人の一部始終を少し離れたテーブルで変装しながら見守っていた。
「で、原因はなんだったんだよ? 遠目で見てたらいい感じだったぞ? あの二人」
羅々ちゃんとジェットコースターから帰ってくる途中に捉えた二人の姿は、予想以上に仲睦まじくみえたんだが……
「真也が原因だったの! 高倉くん……やっぱり一香ちゃんの事好きなのよ。間違いなくあなたにヤキモチ妬いてたと思う。真也が戻ってきてからだもん、高倉くんが一香ちゃんに突っかかり出したの」
両腕を組んではぁと溜息をついている。
「嫉妬するって事はいい傾向なんじゃないの? そもそもそれが目的で俺たち今日遊園地に行ったんだろうが」
目的は完全に達成されたんじゃないのか?
「そうなんだけど……予想外だったのは、一香ちゃんが真也のことであんなに怒るなんて思わなかったのよ。真也、観覧車の中で一香ちゃんになんかしたんじゃないでしょうね!」
ギロリと睨みつけてくる咲に特に後ろめたいことなど一つもなかったが……つい一香ちゃんに漏らしてしまった本音が少しでも今回のことに影響してるんだったとしたら……
って言ってもやっぱり二人が喧嘩になる原因になる様な事なんて話してない!
「何もしてねーよっ! お前の目にはそんな小賢しいことする男に映ってるのか? 俺は??」
失礼なのも大概にしろってんだ!!
「……まぁ、冗談よ。あんたがそこまでクズ野郎じゃないってのは……一応、知ってるつもりだし」
なんだよ、『クズ野郎』は引っかかるにしても急にしおらしくなりやがって。
「……それより高倉くんに付き纏ってるあの羅々って娘はどうだったのよ? 一緒にジェットコースター乗ったんでしょ?」
「あぁ……あの娘か……」
俺は彼女との会話を思い出していた。
◇◆
ジェットコースターの待ち時間が30分以上あったから、羅々ちゃんをじっくり探ることができた。
一言で言うとそれこそ小賢しい女だ。
「高倉くんって私と一緒にいても全然遊園地楽しくなさそうなんです」
しょげた顔で俺を見ている。
顔立ちは本当に綺麗でこのクネクネした感じ……きっと男には困ってないだろうなって聞かなくても分かる。
まぁ、俺はタイプじゃないけど。
「そうなの?」
一香ちゃんが関わってなかったら本当にどうでもいい話だ。
「なんか、結構積極的に仕掛けに行ってるのに距離が全然縮まらないんですよね。今日こそは私のこと好きになってもらおうって思って気合い入れてきたんですけど」
片手に鏡を持って前髪を弄りながらムッとした顔で彼女は言う。
「なぁ、『高倉くん』ってそんなにいいかな?」
羅々ちゃんは彼のどこを好きになったんだろう?
何となく興味が湧いた。
「だって、カッコいいし、勉強できるし……彼氏にしたらみんなに自慢できるじゃないですかぁ!」
そんな理由?!
顔が良くて頭がよけりゃ誰でもいいって事か?
「俺も勉強できるけど?」
「佐久間さんもカッコイイですけど、学校の友達に自慢したいから同じ学校じゃなきゃムリです。ごめんなさい」
なんなんだ?
そのとんでもなく馬鹿げた理由は?
その上俺、何だか無駄にフラれたぞ?
『高倉くん』に負けたような気がして猛烈に気分悪いけど……まぁ俺も大人だ。
「残念だなぁ。こんな可愛い娘にフラれちゃうなんて」
今の言葉の中に本音は微塵も含まれておりません!
「じゃあ、私がT大に入れたら付き合ってください!」
なんだこの女。なかなか最悪だな。
俺は心の中でベーッと舌を出した。
無難にジェットコースターを乗り終えて二人の姿が見えた時だった。
羅々ちゃんは『高倉くん』と一香ちゃんの姿を捉えて、間違いなく嫉妬のオーラを放っていた。
それもそのはずだ。
どっからどう見ても頬をほんのりと赤らめた二人は初々しい恋人同士に見えた。
羅々ちゃんはあれだけ呪怨の相が顔に出ていたのに、別人のようにぱぁっと笑顔を浮かべ『高倉くん』の首に抱きついた瞬間、心底ゾッとした。
嫌な予感がして、一香ちゃんを怨念から守るように俺は咄嗟に彼女の隣に座った。
これが彼女の本性か……
ったく、女ってのは本当に怖い。
にこにこ笑っていても腹の中では何を考えているか分かったもんじゃない。
今の出来事を、俺はその時は何も言わずにそっと心の中にしまい込んだんだ。
◇◆
「な、怖いだろ? やっぱり女遊びなんて軽々しくするもんじゃねぇな!」
話を聞いて私は真也を鼻で笑ってやりたくなった。
『俺は違う』みたいな話ぶりに無性にイライラした。
「あんたが言ってんじゃないわよ! 散々女遊びしてたくせに」
この人は今だってきっと変わってない。
結局私は最後まで真也のただの飾りだった。
本当に大好きな人に心底愛されたいって思う女の気持ちなんて……
あなたには死んだって分かんないわよ。
「やっぱり高倉くんは真也とは違ったわ。彼は絶対に羅々ちゃんって娘の事は何とも思ってない。今日一日、後をつけてて思ったの。私の目から見てもあからさまに分かるくらい、一香ちゃんを相手にするときの態度や表情が彼女の時と全然違ってた」
「ふーん……アイツとの違い、俺にはよく分かんないけど」
釣った魚に餌(愛)はやらない真也とは大違い!!
本気で愛してくれているって思っていたのに、結局付き合い始めて最初の頃だけだった。
「………俺は咲が望んでた事が……今でもよくわかんねぇよ……」
やっぱり私たちは別れるべくして別れた。
よかったのよ、これで………
「……あの二人には、ちゃんとくっついて欲しい。あれだけの美女を連れて歩けば鼻も高いだろうけど、もし羅々って子を選んだなら、高倉くんはそれだけの男だったってことね。一香ちゃんには勿体無いわ!」
『どうして欲しい』って一から十まで私が教えた事でしか、あなたは動いてくれない。
思い返せばある言い合いを境に真也は自分から私を愛してくれなくなった。
その時感じたの。
やっぱり真也はただ自分の飾りの私と、上っ面だけの『恋人』って言う関係を維持できればいい、私に言われた事だけの薄っぺらい愛情を与えておけば十分だと思ってるって。
『大好きなヤツ一人に笑顔を向けら得ている時の方が100倍幸せだったって気がついたんだ』
その言葉を聞いて本当に嬉しかった。
そんなふうに思ってくれてた時もあったんだっなぁって正直意外だった。
でも私は結局、最後の方のあなたの笑顔は全部嘘に見えた。
こんなヤツ、大っ嫌いになりたかった。
それなのに……たまに瞳の奥に見せる悲しい色を見つけると、そこから私は目が離せなくなる。
もう、さっさと新しい彼女でも見つけたら……私だって吹っ切れるのに……
本当は別れた今でも情けない位に、心の奥底で彼に本気で愛されたいって思ってる……
私は自分に向けられた真也の本能に呑み込まれたかっただけ。
そんな想い、もう二度と外に出す事すら出来ないのに……
一香ちゃんにだけ見せる高倉くんの表情に、私は忘れたはずの真也への想いが心の底で渦を巻き、また足を前に出せなくなっていた……
次回21話は23日予定です。
佐久間と咲はしばらくお休みになりそう……^^;