17.一香が流す涙の理由
(いつも高倉君の気持ちってよく分からないけど、今日は一段と分からない……)
悶々とした私の姿を捉えたのか、高倉くんがお土産物屋さんから小さな袋を下げて私に向かって早足で歩いてくる。
「何か買ったの?」
何とか穏やか空気になるように私は必死で話題を探した。
「……あぁ。兄貴に。手ぶらだと突っ込まれそうだしな」
そっか。
頭の中から全く消えてたけど、高倉くん羅々ちゃんとここに来てたんだっけ……
「そ、そうだよね」
複雑に感情が絡み合って言葉が出てこない。
話が終わっちゃう……
「席、探すんだろ? 行こうぜ」
私の手を引いてくれたさっきとは違ってズンズンと先を進んでいく。
私は高倉くんの姿が消えていかない様に一生懸命追いかけた。
お土産物屋に辿り着く短い時間の中で、私の手を取ってくれた嬉しさがとてつもなく大きかった分、今この無言で彼の背中を追っている自分がツライ。
昼前だからか遊園地内のフードコートは意外と空席がたくさんあった。
「余裕だったな」
そう言って振り返った高倉くんは、息を切らしている私を見てまたニッコリと笑っている。
他愛のない何でもない会話をしただけなのに……
その笑顔からどうしても目が離せなくて……
無意識にじっと高倉くんを見つめている自分がいた。
「な、何だよっ!!」
急に真っ赤な顔をして表情を隠す姿に……
(もうダメ……本当に私高倉くんの事が好きだ)
自分で抑えが効かないくらいに激しく湧き上がってくる『好き』の感情が止められない。
「……おい! 一香?」
どうにもならなかった。
好きすぎて、勝手に涙が出てきた。
「……ごめん。なんか急に目が痛くなっちゃって……」
本音が見透かされない様にわざとらしく目をゴシゴシと擦った。
「なんだよ、泣くほど痛いのか? ほら、今日まだ使ってないし汚くないから」
そう言って差し出された高倉くんのハンカチを夢じゃないかという思いで私は受け取った。
目に当てると、まだ彼の温もりが残っていて……優しい匂いがした。
「ありがとう。大丈夫、ちょっと休めば治るから」
目の前の椅子に腰を下ろして深呼吸をする。
「なんか飲み物買ってくるから待ってろ」
高倉くんはそう言って席を離れて行った。
姿が見えなくなって……堪えていた涙が滝の様に溢れ出した。
もう情緒不安定にも程があるよ。
こんなにコントロールできなくなるほど……高倉くんの事好きになってた自分に驚いた。
クラスも違うし、顔を合わせる時間は圧倒的に今の方が減っているのに……
私は行き場のない感情を、握りしめた彼のハンカチの中にギュッと閉じ込めた……
◇◆
『目が痛くなっちゃって』
一香はそう言っていたけど、僕はずっと心に何かが引っかかっていた。
その場にいてはいけない様な気がして席を立ったけど……
あの色黒男と何かあったんだろうか?
もちろん僕が口を出せる立場じゃ無いってのはわかってるけど、どうしても彼女の涙が頭の奥にこびり付いて消えていかない。
あの時アイツが言っていた『狙ってる』っていうのは……
一香を彼女にしたいって事なんだろうか?
それとも……
正直僕は一緒に遊んだ女の子と付き合いたいなって感情になった事は一度もない。
それなりにお互い楽しい時間が送ればそれでいい位の感覚だ。
もし色黒男が僕と同じ考えだったとしたら……
一香の涙も頷ける気がした。
(アイツ、マジで最低だなっっ!!)
無性に腹が立って仕方がなかった。
それと同時に自分のやっている事があの色黒男と何一つ変わらない事に気付かざるを得なかった。
僕は自分の努力で完璧な男に変わったんだ。
……女の子に囲まれている事は、それだけ頑張った自分にとって当然の事だと思っていた。
女の子達だってどの子も僕と一緒に居られることを喜んでいてくれたし、嬉しそうに笑っていた。
自分のプライドも守られるし、女の子も喜んでいるし一石二鳥だなんて思っていたくらいだ。
でも一香を見ていると……何故かそんな自分が大嫌いになる。
「すみません、ソフトクリームのミルクティー味二つ下さい」
目の前にあったソフトクリームの垂れ幕に、中学の時、一香が友達とミルクティー味のアイスの話で盛り上がっているのを思い出していた。
僕は誰の輪に入ることもなく、他の誰が何を会話してたとしても特に興味も湧かなかった。
でも、あの時一香が『とっても美味しかったんだぁ!!』と満面の笑みで話している姿をチラッと横目で見た時……ほんの少しだけど、自分も食べてみたくなったんだ。
これを食べたら……また笑顔の彼女をみれるかもしれない。
単純にそう思っただけだ。
これが自分の中に見つけてしまった女の子に対する贖罪の念を封印するためなのか、……ただ、一香の笑っている顔が見たかっただけなのかは定かでは無いが……




