16.『どうしちゃったんだ、自分!!』
目の前に山小屋をモチーフにした様なお土産物屋が見えて来た。
「着いたぞ」
冷静を装いながらも僕の頭の中はひたすら混乱していた。
(一体何やってんだ、僕は?)
隣で一香が熱くなる位に僕をじっと見つめている。
「……何だよ! み、見るなよ」
何でこんなに心臓がバクバクしてんだ?
ちょっと待ってくれ、身体が勝手に暴走して全く感情の整理が追いついてこない……!
「ご、ごめんなさい。私、中に入ってお土産見てるね」
一香は申し訳なさそうな表情で扉を開けて中に入って行く。
(手……繋いだよな? あれ? 僕から繋いだんだっけ?)
さっきまで彼女の柔らかい手を握っていた掌をじっと見つめた。
普段女の子に自分から触れることなんてまず無い。
緊張とかそんなんじゃなくて、特段触りたいって気持ちにならない。
女の子って言うよりかは……人と触れ合う事がそもそも好きじゃないのかもしれない。
あまりにも自然に彼女の手を取った自分がどうにも理解できなくて……
ただ一つ言うなら、嫌ではなかった。
手を繋ぐと言えば……
昔、僕は一度だけ彼女と手を繋いだ事があった。
でもあの時は僕からじゃない。
一香が勝手に僕の手を握って来たんだ。
……でも、凄く落ち着いた気持ちになった。
魔法でもかけられているんじゃないかってくらいに。
高所恐怖症の僕は、中学の時ロープウェイに乗った事がある。
あの時、近くにいた一香の姿が目に入って……
かっこ悪い所ばっかりを見られている彼女なら、もうどんな僕を見られてもこれ以上なんとも思わないだろうって、その時は思ったのかもしれない。
行き場を無くした僕は引き寄せられる様に彼女の隣へ歩いていった。
案の定、目を開けていられる状態じゃなくて……、怖くて……怖くて……
情けない位に震えていた。
突然スッと掌に温かいのもを感じて、ビクリとした。
手元を見たら……一香が僕の手を握っていたんだ。
いつもなら、きっと『何するんだっ』って振り払ってたと思う。
でも、怖かった気持ちが彼女の手に吸い取られて行くように、僕は落ち着きを取り戻していって……
山頂に到着すると、一香は僕に視線を送る事もなく、何事もなかった様に降りていった。
僕はどうしてか、だんだんと離れて行く彼女に……『何か伝えなきゃ』そう思ったんだ。
「……助かった、ありがとう」
出た言葉はきっとあの時、僕の頭の中にあった事、全てだったと思う。
それ以外の感情なんて、見つける余裕もなかったんだ。
でも、今は……?
あの時の不思議な気持ちが、今蘇って来た様な気がして……
どうしてだろう、彼女の手に、もう一度触れてみたいって思ったんだ……
◇◆
彼女の後を追って僕もお土産物屋の扉を開けた。
一度離れてしまった距離を縮める事がなんだか上手くできなくて、一歩離れた場所でそばにあったイルカのぬいぐるみを手に取っていた。
「あ、それ可愛いよね!」
嬉しそうに自然に近寄って来た一香が急に特別な存在に思えて、跳ね返るようにまた僕から距離を空けてしまった。
「ご、ごめんね。あっち行ってるね」
あからさまに出してしまった自分の態度に、一香はすぐに反応してまた遠ざかってしまう。
いつもなら面倒な奴が離れて行ってホッとしているハズなのに……
どうしてだろう、無性に寂しい気持ちになった。
(マジでどうかしてる……どうしちゃったんだ、自分!!)
無意識に両手で頬を叩く。
そして気がつけばまた彼女を目で追っている。
一香は手に取ったネックレスについているブルーのガラス玉が窓から差し込む光に反射して、それを眩しそうに、楽しそうに眺めていた。
あんな風に笑ってたんだな、いつも……
急に胸が苦しくなった。
彼女がくるくると表情を変えるたびに呼吸がぎこちなくなった。
「先に外に出てるね」
名残惜しそうにネックレスを元の場所に戻すと、ほんの少しだけ僕と目線を合わせて一人店の外に出て行く。
僕は吸い寄せられるように彼女が手に取っていたネックレスを掌に乗せた。
(一香にピッタリな色だな)
清々しくて、優しげに透き通った光を放つその青いガラス玉は、今まで見ようともしなかった彼女の心の中のようにも思えた。
彼女の温もりがまだそこに残っているみたいで、どうしても手の中にあるネックレスを戻す事ができなかったんだ……




