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15.掌の記憶

「一香ちゃんも次ジェットコースター乗る? 俺も絶叫系大好きなんだよねー!」

 佐久間さんが遠くに見えるジェットコースターを眺めながら楽しそうに笑っている。


 正直あんまり得意じゃないんだよなぁ、ああいうの。

 っていうか、私よりも高倉くんの方が心配……


(高倉くん、ジェットコースターなんて乗れるのかな……)


 私は中学校で行った校外学習でロープウェイに乗った時のことが、今でも鮮明に蘇ってくる。

 それだけ私にとっては、いろんな意味で思い出深い時間だったから……



 あの日、私は山頂に向かうロープウェイの中で、たくさんの生徒たちで溢れ返り座ることが出来ずに、立って窓の外をじっと眺めていた。

 座っていた高倉くんは同じクラスの男の子に、

『一人で二人分場所とんなよ! 混んでんだから』

そう心ない事を言われて渋々立ち上がり、近くの窓際に立っていた私の隣に入り込んで来た。


 その時は、私だったら隣にいても文句言われないって彼は思ったのかもしれない。

 すぐ隣にいた高倉くんの手が、隣の子に押された拍子でたまたま私の手に触れた時、微かに震えている事に気がついて、心配になりふと彼の顔を見上げた。


 異様に汗をかきながら目を閉じていたから、気分でも悪いのかと思って声をかけようかと思ったんだけど……

 いつもそれを嫌がるし、こんな狭いところでまた誰かに見つかって囃し立てられたりしたら申し訳ないかなぁとも思って黙っているしかなかった。


 でもみるみる顔色が悪くなっていって、彼の手の震えが異常な事に気がついて……咄嗟に高倉くんの手を握ってしまっている自分がいた。


 あのまま放っておくなんて……どうしてもできなかったんだ。

 高いところがダメなのか人混みがダメなのか……よく分からなかったけど、握ってしばらくすると少しずつ震えが治ってきたみたいだった。


 もうすぐ到着するってところで私は手を離し、何事もなかった様に降りた。

 そしたら、後ろから肩をガッと掴まれて驚いて振り返ったんだ。


 高倉くんが真っ直ぐ私の目を見て、

『……助かった、ありがとう』

そう一言残して通り過ぎてった。



 強がっているけど……本当は嫌なはずだ。

 あの時みたいに額に汗をかいている。



「あ、まだお昼には少し早い時間だし……私食べるところの席取っとくから、行きたい人だけ行って来て! 元々ジェットコースター私苦手だからさ。お土産物やとかも見たいし! そういえば……ここの遊園地のキャラクター、高倉くんのお兄ちゃん好きだって言ってたよね! お土産に買っていってあげれば?」


 今回私に出来る事はこれくらいが限界。

 力になれなくてごめんね。


 でも、分かりやすいくらい突然血色の良くなった高倉くんは、明らかにわざとらしく、

「あ、そ、そうか、じゃ僕もお土産見てようかな。ここのジェットコースター、前に何度も乗ってるし」

頭をポリポリ掻きながら今思いついた様に話し始めた。


 前に何度も……?

 嘘でしょ、絶対!


 でもやっぱり、苦手だったんだ。

 よかった! 伝わって!!


 ほっと安堵のため息が出た。


「じゃ、お言葉に甘えて行くか、羅々ちゃんだっけ?」

 佐久間さんは羅々ちゃんの手を強引に引っ張っていく。

 羅々ちゃんは佐久間さんの引きの強さに少し驚きながらも、まんざら嫌そうでもない。


 佐久間さんは私を見てニコッと笑い、ウインクしていた。

『後で必ず二人だけの時間作ってやるから。ちゃんと話ししてごらん』

 さっき耳打ちされた佐久間さんの言葉が頭の中をこだまする。

(今って……事?)


 二人の姿が人混みに消えていく。

 私と高倉くん二人だけが残され急に空気が静まり返った。


「……じゃあ、私は本当にお土産物に行ってくるから」

 こんな気まずい中、とても二人じゃいられないやと私は高倉くんに背を向ける。


「ちょっと待ってって!」

 思いがけず、パシッと腕を掴まれ引き止められた。


「……高倉くん?」

 私の手首を掴む大きな手が目に飛び込んできて、急に鼓動が高鳴り始めた。

 高倉くんのピンチを回避させようと必死で、二人残された後のことなんて何も考えていなかったし……!!


「その……、ありがとう」

 恥ずかしそうに頭を掻きながら真っ直ぐこちらを見ている。

 吸い込まれそうなその瞳に、私は言葉が出てこない。


「……えと……、私はただお土産見たかっただけだし」

 きっと高倉くんは自分の弱い所なんて絶対人に見せたくないだろう。

 どんな返事が正解かなんて分かんないけど……

 でも私が高倉くんを想って出来る最良の返事をしたつもりだった。


 このまま、何もなかった事にしてあげなきゃ……


「じゃあ、行こう」


(……え?)

 高倉くんが私の掌をギュッと握りしめた。

 彼の強い力に引っ張られながら、ズンズンとお土産物屋に向かっていく。


 高倉くんの掌に触れたのは、あのロープウェイ以来だ。

 あの時よりも、大きくて、ゴツゴツしていて……

 大人の男の人の手になっていた。


 触れ合った場所から伝わる温かさが、これが夢じゃない事を教えてくれる。

 どうして……?

 今までだったらそこで、『はい、さようなら』だったのに。


 どうしよう……

 ドキドキして……苦しいよ……


 何も考えられなくなった私は、ただ高倉くんの背中を追いかける事に必死になっていた……


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