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14.腹の中を渦巻く感情

 観覧車からは徐々に地上が近づいてくる。

 佐久間さんは少しスッキリした様な表情でじっとそれを見ていた。


 二人の意外な過去が聞けて、たまに咲さんと一緒にいる佐久間さんと高倉くんが重なって見えてしまう理由に何となく納得出来た気がする。


 仕事もできるし、頭もいいし、イケメンだし……

 そんな人でも悩んでる事ってやっぱりあるんだなぁ。

 凡人の代表みたいな私にはかけ離れた世界の話すぎて、佐久間さんの話をまるでドラマを見ているような気分で聞いていた。


 高倉くんは、今どうなんだろう?

 中学校の頃一人ぼっちで辛い思いをした分……きっと今は幸せなのかな?

 あの頃私にだけ見せてくれた本当の高倉くんは、もう私だけのものじゃなくなってしまった。

 喜んであげなきゃいけないことなんだけど……寂しい。


 でもね。やっぱり思う。

 高倉くんは本当は優しくて素敵な人なんだって、たくさんの人に知って欲しい。


 だから仕方がないよね……

 

 カッコよくなって、きっと私なんかの手の届かないところに行っちゃたんだよ、もう。

 私の出番は、……終わりだね……


 中学校の頃の思い出がゆっくりと頭の中に映し出されていく。


 どうしようもないくらいに涙が出そうになった。

 私が咲さんや羅々ちゃんみたいに美人で、可愛くて、自信があったら良かったのに。


 観覧車から降りた時には涙で景色がゆがんでいた。

 もう少しで溢れ出てしまいそうな涙をこぼさないよう瞬きもせず必死で空を見上げる。


 はぁ……

 佐久間さんに気づかれないように何度も深呼吸をして落ち着かせ振り返った。


「佐久間さん、次何乗ります?」

 精一杯の笑顔で自分の気持ちを誤魔化して振り返る。


 その途端、後ろから降りて歩いてきた人にぶつかった。

 激しい衝撃を受けて転びそうになり突然腕を掴まれたと思ったら、ふわりと抱き起こされ危機一髪で回避する。


「……ごめんなさい、前がよく見えてなくて……」

 涙で滲んだ視界が段々とくっきり浮かび上がり……そこにまさかのヒトが目に飛び込んできた。


「高倉くん……?」

 凄く逢いたかった……彼が目の前にいた。

 一歩通行の想い、分かっているのに。


「一香……」

 どうしよう……動けない……

 ドキドキして、息が……出来ないよ。


「どうしてここに……?」

 夢でも見てるのかな……?

 今私、高倉くんの腕の中にいる……


「高倉くん!!」

 それをバラバラに切り裂くように背後から可愛らしい声が突き刺さった。

 急激に体温が下がり一気に現実に引き戻される。


(羅々ちゃん……?)

 考えなくてもすぐに分かった。

 高倉くんと二人でここに来てるんだって事は。


「……あれ? 相葉さん……? どうしてここに??」

 だんだんと周りの音が消えて……まるで無防備に水中沈んで行くような心細い悲しさに襲われる。


「一香……大丈夫か?」

 無音の中に、高倉くんの声だけが聞こえた。

 どうしたらいいのか分からなくて、グチャグチャになった感情が私の目から流れて落ちていた……



 ◇◆



「一香ちゃん!? 大丈夫?」

 色黒男が僕の腕から一香を慌てて抱き起こした。


「ぐ、偶然だな。来てたんだ、ここ」

 偶然? 本当にそうか? 今日僕がここに来ることをコイツは知っていたはずだ。


「ねぇ、コンビニのお兄さん、相葉さんの彼だったの?? すっごいカッコいいねぇ!」

 羨ましそうに僕の横で羅々ちゃんは色黒男を眺めている。


 他の奴らは気付いてなさそうだが、一香は頬を伝った涙を一生懸命拭っていた。


「違うよ!! 佐久間さんは……その……」

 言いづらそうにモジモジしている彼女を見て色黒男を睨んだ。

 遊ぶ女だったらいくらでもいるだろうに、なんでよりにもよって一香に手を出すんだ!

 理由のわからない彼女の涙に僕は色々と想像を巡らせてしまう。


 自分の知らない彼女の女の子らしくしている姿に……無性に腹が立った。

 それと同時に自分の中から大切な何かが忽然と消えてしまったような虚無感に襲われる。


 今まで味わった事のない澱んだ感情が、音も立てずに身体中を蠢いる。


「ねぇ、これから一緒にお昼食べない? せっかくだし! ね、相葉さん」

 羅々ちゃんの無邪気な提案に一香はかなり戸惑っているようだった。

 不安げな顔で色黒男を見上げると馴れ馴れしく彼女の肩を抱いて『うん』と頷いている。


「君は、俺たちが一緒でもいいのかな?」

 白い歯をキラリと見せて余裕で微笑んでくる。


「別にいいですよ」

 断ったら負けなような気がしてつい答えてしまった。


「じゃ、お言葉に甘えて」

 一香がびっくりした様な顔で色黒男を見ていた。

 彼女の耳元で何かコソコソ話しかけている様だったが聞こえない。


 僕たちの先を歩く二人の姿からどうしても目を逸らせない。

 ドロドロとした感情がずっと腹の中で渦巻いている。


「ねぇ、高倉くん? 聞いてる?」

 隣で羅々ちゃんが何か話しているが……全く耳に入ってこない。

 前の二人の様子……それだけに僕の全てが捕われていた。


「いいでしょ?」

 羅々ちゃんの声が煩く耳にまとわりつくので、振り払うように『あぁ』と雑に返事をする。


「やった!! やっぱり遊園地って言ったら絶叫を楽しまなくっちゃ!!」

 ん? 絶叫?? 何の話だ??


「ここのジェットコースター有名でしょ? 私一度乗ってみたかったんだぁ!」


 ……無理だ!!

 高いものと速いものが大嫌いな僕はジェットコースターなるものを、今までの人生、できる限りのことをして逃れてきた。

 観覧車は速度がないし、一切外の景色には目をやらずにいたから辛うじて乗れたものの……


 マズいぞ! このままじゃ醜態を晒す羽目になる……!!







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