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13. 似たもの同士

(何? まさか泣いてるんじゃないだろうな?)

 今まで見てきた『高倉くん』からは想像もつかないほどに悲しげな表情で、俯いている。

 これからって時に、なんだこの展開は??


「高倉くん? どうしたの? 急に元気なくない?」

 連れの女の子が心配して声をかけている。


「いや、何でもない。ちょっと気分が悪くなっただけだ。休めば治るから」

 そう言って背中に触れていた彼女の手をまたもや払い退けている。


「でも……心配だし。観覧車乗るのやめる?」

 あれだけ顔色悪ければ俺だって同じことを言うだろうな。


「いや、いいよ。もうすぐ順番来るだろ? せっかくここまで並んでたんだし、僕は大丈夫だよ」

 力ないその声に俺まで心配になってくる。


「わかった……。座れば少し良くなるかもしれないし」

『高倉くん』の様子が非常に気になったが、順番が来てしまい後ろ髪ひかれる思いで乗り込んだ。


「佐久間さん、さっきから後ろばっかり見てるけど何があるんですか?」

 一香ちゃんが後ろの様子を伺おうとしているのを慌てて阻止する。


「い、いや何でもない。さあ乗ろう!」

 そう言って俺は一香ちゃんを観覧車に引き込んだ。



 俺と一香ちゃんを乗せた観覧車はゆっくりと景色を変えながら高く上っていく。


「なぁ、一香ちゃん。高倉くんの事について聞いてもいいかな?」

 素直なような、素直じゃないようなあいつの行動や心理がイマイチ理解出来ない。


「……はい。って言っても、私、そんなに高倉くんの事知ってるわけじゃないんです。今だに何を考えてるんだか分からない事ばっかりだし」

 自信なさそうに俯いている。


「じゃあ、一香ちゃんは高倉くんの何処を好きになったの? よく分からない人を好きになるなんて事ないでしょ?」

 アイツもよく分からんが、一香ちゃんもよく分からないな。アイツの見た目以外の何処を好きになるんだ、一体?


「高倉くん、中学の時はあんな風にいつも女の子と一緒にいたわけじゃなくて……、むしろ一人ぼっちだったんです」

 確かにこの前ファミレスで昔は巨漢だったってのは聞いたけど……ボッチだったのか。


「みんなも高倉くんの近寄り難い雰囲気にどんどん壁が出来ちゃって……」

 そう言いながら窓の外をじっと見つめている。

「でも、困ってる時に何か声をかけてあげると、ビックリするくらい素直な時があって……。ガチガチの厚い壁の中にいる優しい高倉くんがほんの少し垣間見えた気がして」


 悲しげな目をしていた一香ちゃんの表情が急に柔らかくなった。

 そうか。彼女はその厚い壁の中にいる『高倉くん』に恋をしているんだ。

 今の所全く見つけられないけど、ひょっとしたら俺には想像のつかない人格が、アイツの中にいるのかもしれない。


「佐久間さんにも聞いていいですか?」

 一香ちゃんが真っ直ぐな視線を俺に向けた。

 そろそろ観覧車も頂上に到達しようとしている。


「ん? いいよ」

 遠くの景色を見ていると、今いる場所が現実とはかけ離れた場所のみたいで、何でも言える気がした。


「咲さんと……なんで別れちゃったんですか? あんなに仲良いのに……」

 不思議そうな顔でこちらを見ている。


「仲……良かったんだけどな。最初の頃は」

 俺が初めて本気で好きになった女……


「俺もさ、『高倉くん』みたいに、昔モテたくて仕方ない時期があってさ。恋愛なんてそっちのけで、ただ女の子に人気があればいいって思ってたんだよ。男子高校生なんて、みんなそんなもんだろ? 綺麗事言ったって、絶対にモテたいって思うのは多かれ少なかれ誰でも思うもんだよ」


「なんか、意外です。佐久間さん、そんな風に言ってても、色々結構真面目じゃないですか。仕事ぶり見てれば分かりますよ」


「今は……きっと本当の自分を出せるようになったからそう見えるんだろうな……。だったとしたら、咲のおかげだ」


「……咲さん?」


「あぁ」


「今までは誰でも良かったんだ。誰かしら女の子が側にいれば俺のプライドは守られたしそれで満足だったからな」

 俺は『高倉くん』を思い浮かべていた。

 少なくとも昔の俺とアイツはそういう人間だ。


「男の人って、みんなそんなにプライドが大事なんですか? 私には……よく分からないです。女だからかな?」

 一香ちゃんには分からないだろうな。

 そんなちっさい男のプライドを知ったところで女の子はみんな傷つくだけだ。

「俺は……ま、自慢じゃないんだけど小さい頃から運動も、勉強もなんでもできたんだ。でも何故かモテなくてな。仲良かった友達は、俺と逆で勉強も全然出来なかったし、与えられたことをテキトーにやってるやつだったのに、毎日女子に囲まれてて、嫌な奴だったよ」

『自分の方が優れている』あの時はただそれを周りに認めてもらいたかっただけなのかもしれない。


「なんでそれなりに努力して勉強も運動も出来るようになった自分はがモテなくて、あんなにいい加減に生きてる奴がチヤホヤされるんだって思ったら……結局人間上っ面がいいやつが勝てる世の中なんだなって気付いちゃってな」


 何が優れていたって、結局壁を作らない愛想のいいやつが一番強いんだ。


「そこから、俺はモテるために何が必要なのか、毎日のように研究したよ。馬鹿みたいにな。好きでもない女の子に愛想振りまいて気を引いて……。その成果が出始めてるにもかかわらず、学校でも人気だった咲は全く俺に見向きもしなかった。なんか悔しくてな」

 アイツは俺に向かってクスリとも笑わなかった。

 汚いものを見るような視線を向けられ、ずっと避けられ続けて……


「悔しいからそれでも毎日のようにデートに誘って、ある日こう言われたんだ。『アンタは私の何処を見て誘ってるの?』って。何処も何も、顔とスタイルに決まってんだろって思ったけど、さすがにそれは口に出さなかったよ。返答に困っていたら『あなたに私は必要ない』そう決別の言葉を吐かれたはずなのに何故か胸ぐら掴まれて突然キスされて……本当情けない話なんだけど、そっから俺は咲しか見えなくなったよ。初恋だった」

 一香ちゃんの顔が真っ赤だ。

 言ってる俺もなんだか恥ずかしくなってくる。


「付き合い始めて、なんであの時キスしたんだってきいたら、『私の心全くを見てくれない事にイラついた』って言われたんだ。確かにそうだった。でもそのキスで俺は咲の全てを知りたくなって、あれだけ追い回してた他の女の子なんて、どうでもよくなって……敵わないんだよ、いつもいつも咲には」


 未練たらしいな、本当。

 言ってて自分が嫌になる。


「でも……お互い我が強くてな。ちょっとしたことですぐ張り合って素直になれなくて、喧嘩ばっかり。疲れ果てて……結局別れた」


 俺も実は大概不器用な男だ。

 ちゃんと自覚もある。

 ……でも、やっぱり上手くいかないもんは仕方がない。


「とは言え一年たった今でも咲よりいい女は現れないよ。アイツは俺のことどう思ってるのかは分からないけど、きっとこの距離感が俺たちにはあってるのかもしれないな」


 良かったんだこれで。

 意外と今が一番喧嘩しないで咲と向き合えてる。

 こうして一香ちゃんと『高倉くん』の事に首突っ込むような世話焼き夫婦みたいな事してそれもなんだか楽しくて……


「一香ちゃん。『高倉くん』はまだまだ子供だ。もう一皮剥けるまで待ってやってて欲しい」

 何だか心の声がつい出てしまった。

 素直な一香ちゃんだったらきっと聞き耳持ってくれるって思ってしまった。


「佐久間さん、高倉くんに一回しか会った事ないのに……それにそんな事高倉くんが聞いたら、私に『待っててもらう筋合いなんてない』って、逆ギレしますよ、きっと」

 クスクスと笑いながらも寂しそうな目をしている一香ちゃんの言葉にギクリとしながらも、俺も一緒になって笑って誤魔化した。


 毎回違う女の子連れてウチのお店に来てるなんて……口が裂けても言えやしない。

 俺を見る一香ちゃんのつぶらな瞳が、痛いくらいに心に刺さっていた。



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