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10.一香にかけられたシンデレラマジック

(アイツ最近本当よく来るな……)

 一香ちゃんの好きな『高倉くん』は、最近頻繁にバイト先のコンビニにやって来る。

 しかも毎回違う女の子を連れて、一香ちゃんが居なくて俺のいる時に。


 この前ファミレスで一香ちゃんと話しをした後、咲と綿密に計画を練った。

 まずは俺がしょっちゅうここに来る『高倉くん』から、近々女の子を連れて出かける情報を仕入れる。

 そして同じ日に同じ場所で、俺は一香ちゃんを連れてアイツの前に姿を現し、仲良さげにしているところをみたら、どう動いてくるか……様子を見てみようって事で一旦話は終わった。


 ……しかし、今日連れてるの女の子は一段と可愛いな。

 お菓子とジュースを俺のいるカウンターに出し、ドヤ顔でこちらを見てくる。


 ったく、ライバル視するのはいいけどあからさますぎないか?

 笑いを堪えるのが大変だ。


「彼女、彼氏さんと一緒にどうですか?」

 俺はいつもレジの隅にほったらかしに置かれている遊園地の割引券を、彼女の前に差し出し反応を見る。


「えー? いいんですかぁ! ねぇ、高倉くん、今度の日曜日一緒に行こうよー」

 可愛い彼女は『高倉くん』の腕に自分の腕を絡めておねだりしている。

 なんか、羨ましいなぁ……っと、一瞬本音が脳裏に浮かんだが掻き消した。


「ちょっ、やめろよ」

 彼女の手を振り払い、突然拒否し出す『高倉くん』の行動に俺は目を疑う。

(えっ? 何で? 勿体無い! ……ってか何だ? あのあからさまにイヤそうな顔!)


「何よ、ちょっとくらいいいじゃない。せっかく二人っきりになっても手も繋いでくれないし……」

 ぷぅと剥くれる彼女の言葉に『高倉くん』は急に慌て出した。


「ひ、人前で失礼だろ? 日曜日、たっぷり繋いでやるから」

 フンと俺を見た。


「えっ? じゃあ連れてってくれるの? 遊園地!!」

 嬉しそうに『高倉くん』の顔を覗き込む彼女。


「うん……まぁ……。でも雨なら中止な」

 全くコイツは何で約束したばっかりなのに中止の話なんかするんだよ?

 行きたくないなら素直にそう言えってんだ!

 モテたい気持ちはよくわかるんだが、その割に取っている行動が全て謎だ。


「大丈夫だよ、天気予報、晴れだったもん! あぁ楽しみ! おにいさん、割引券ありがとうございます」

 嬉しそうにお礼をいう可愛い彼女には本当に悪いが、俺は今一香ちゃんの味方だ。スマン!!


 『高倉くん』は会計後にしっかり彼女に割り勘の交渉をして、遊園地の割引券を受け取りお店を出て行った。

(っしゃあ!!)

 俺はそのケチ臭い行動に少しばかり引きつつも、ガッツポーズですぐに咲に連絡を入れる。


「作戦決行する日が決まったぞ! 今度の日曜日、スカイランドだ!」

 電話の向こうから興奮する咲の声が聞こえる。

 俺は電話を切りすぐに仕事に戻った。



 なんだか『高倉くん』はペラペラに薄っぺらくていつまでも素直になれなかった俺に似ている。

 アイツは120%、一香ちゃんのことが好きだ。

 俺には分かる。

 でも……連れ回してる女の子たちにアイツは本当にモテたいって思ってやってるんだろうか?

 女の子の扱いがあまりにも雑で、その辺ばかりは俺にも理解し難いところがある。

 結局何がしたいんだ、アイツは……?


 ……にしてもだ。咲と違って一香ちゃんはそんなに強くないぞ?

 デリケートな女の子なんだ。

 こんな茶番を繰り返して全てを壊してしまう前に、一刻も速く自分の気持ちに気付くことだな……



 ◇◆


「日曜日ですか? 別に予定は無いですけど……」

 咲さんに突然遊園地に誘われた。


 あの日、ファミレスで相談して以来、咲さんはバイト先にたまに顔を出しては声をかけてくれる。


「一香ちゃんは本当に磨けば光るタイプだと思うのよ。日曜日、少し早めにウチに来て! 私が一香ちゃん全身コーディネートしてあげるから、最高に可愛くして遊びに行こうよ!」


 そんな言葉にまんまと乗ってしまい、今私は咲さんの家にいる。



「えぇっ? こんな胸が空いた服……」

 いまだかつてこんな色っぽい服を身に纏った事があっただろうか……?

 可愛い……可愛い白のサマーセーターなんだけど……ちょっとコレ胸強調しすぎてない!?


「あの……私普通にTシャツとジーパンとかでいいんですけど……」

 さらにデニムのミニスカートを目の前に出された時には、コレ一体誰が着るんだろう……そう思って思わずキョロキョロしてしまった。


「何言ってんの? 女子高生ならこのくらいみんな着てるわよ? いいじゃない、女の子同士で行くんだからたまには冒険した服着たって」

 私の背中をポンと叩く。


「とにかく着替えてみて! 一香ちゃんが思ってる程やらしくならないわよ。私が着てたやつだし」

 そう言われて渋々言われた通り、ミニスカートに履き替える。


「あと、そう、メイクもね。ちょっと手を入れるだけだから簡単だし、ちゃんと覚えて!」

 そう言って軽くアイラインを引いて艶のある優しいピンク色の口紅をつけてもらった。

 昨日咲さんに言われて作ったコンタクトをしているから、今はメガネも外している。


「いいわぁ……。思った以上に素敵よ。とっても可愛い!!」

 そう言って姿見を私の方へ向けた咲さんはキラキラした目で私を見つめている。

 恐る恐る鏡をのぞいて見た先に映っていたのは……


「これ……私……?」

 一瞬自分じゃないかと思った。

 それくらい……何というか……女の子になっている私がいた。


「一香ちゃん。やっぱり恋愛はただ相手を好きになるだけじゃ、なかなか成就しないものよ? 自分に磨きをかければ、ここまで変身できるいいモノを一香ちゃんは持ってるんだから、上手く活用しなきゃ」

 鏡の中の自分からなかなか目が離せない。

 嬉しいような、恥ずかしいような……


「今とってもいい顔してる。もっともっと自信を持っていいのよ。身体中から輝いて溢れ出てきちゃうくらいにね」

 ふふふと自分のことのように咲さんは嬉しそうに笑っていた。



 ピンポーンと咲さんの家のチャイムが鳴る。


「あ、来たわね!」

 その言葉の意味が何なのか変な違和感があったけど……それが何なのかはすぐに分かった。


「じゃ、一香ちゃん。今日は真也と一日デートごっこしてきてね!」

 急に変わった空気の流れに私は返事をする間もなく玄関の外に出されてしまった。


「で、デートごっこ?!」

何? 最初からそういう事だったの?!


「一香ちゃん……、めっちゃ可愛いじゃん!!」

 私に気を遣ってくれているのか、そう言いながらもちゃんと距離を取ってくれている佐久間さん。

 何だか変に嵌められた感が否めないけど……きっとこの二人には何か考えがあってのことなんだと、はしゃいだ中にも落ち着きのある二人の瞳から伝わるものがある。


 最近高倉くんの周りの女の子の数も増える一方で、私も悶々と毎日していたし……

 (今日は2人の気持ちに素直に身を委ねてみようかなぁ)

 未だかつて無い変身を遂げた私は、この負のループを抜け出せる糸口を見つけたような気がして、幸せになれる自分をほんの少し思い描いてしまったのだ。



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