1.生まれ変わって無敵だったハズなのに……!!
不定期で上げて行こうかと思いますので、気に入ってくださった方、おつまみ程度に是非お付き合いくださいませ(*´ω`*)
「よっしゃ!! 完璧だぜ!」
新しい濃紺のブレザーに品のある胸元のワッペン……これを着ているだけで女の子にモテるなんて巷で噂になっている制服を身に纏い、バッチリ決め込んで姿見の中に映る自分に、もう昔の面影はない。
『人間外見が変われば内面も変わる』なんてよく言ったものだと、つくづく思う。
僕の目に映る世の中の全てに色が付き、ありとあらゆるものがくすみ無く煌めいていた……
隣の住人の存在に気づくまではなっっ!!!
僕は高倉陽一、高校一年生。
この春、念願叶ってド田舎な実家をようやく脱出し一人暮らしの生活を手に入れた。
家族は父さん、母さん、兄ちゃんが二人の三人兄弟。
揃って美容師の両親は地元ではソコソコ有名な美容室を営み、有難いことに結構裕福な暮らしを送らせてもらって来た。
「三人とも成績優秀だなんてホント羨ましいわぁ!」
そう言ってもらえる事に嫌な気はしない。
でも一つだけ……一つだけどうしても気に食わない事がある。
お客でよく来る近所のおばちゃん達は毎度の如く色メガネ越しに僕らを査定するのだ。
「上のお兄ちゃん二人……もう大学生だっけ? ホントイケメンよねぇ、モデルになれるんじゃない?? お母さんも鼻が高いでしょう?」
頭にびっしりカーラーを巻きながら、近所のおばちゃん達は毎度毎度同じ事を言う。
学校から帰って来た僕を見つけて捕まえては、
「陽ちゃんだってカワイイわよ〜! ポッチャリして、食べちゃいたい顔してるっ!」
そんな全くフォローになっていない、デリカシーのかけらもない言葉を平気で放っては、うまくフォローできたわね、なんてドヤ顔をしてやがる。
うちの家族は自分で言うのもなんだけど、みんな美男美女だ。
美容師を職にしているだけあって、美への意識も人一倍高い。
それ故に食事も健康的で、美容にいい物を毎日口にして来たはずなのに……
何故か僕だけ身長185cm、体重89kgの巨漢だった。
母さんはいつも言っていた。
「みんなと同じものを食べてるはずなのに、なんで陽一はこう……体が大きくなっちゃたのかしら……」
あえて太ったとか、デブったとかそんなワードこそ使わないものの、傷つくには十分すぎるセリフだ。
……知るかっ!!
僕だって好きでこんな体型でいるんじゃない!!!
心の中で何度叫んだか知れない。
兄ちゃんの周りにはいつも昔から可愛い女の子がひっきりなしに取り巻いていて……
自分だって痩せてさえすれば、あんなモテモテ生活を送れたはずだったんだ!
何が悪かったなんて今更分からない。
分からないが……思い当たる事があるとするなら……
僕は身体を動かす事が超絶苦手だ。
体育の授業も『この世からなくなれっ!』と何度天に祈ったことか!
体育祭なんて死刑を執行されてるようなものだ。
無様な姿を晒し、クラスを最下位へと導く僕に投げつけられるクラスメイト達の失笑と小馬鹿にした眼差しがまだ目の裏にひっついて離れない。
部活も運動部なんてもってのほか、身体を動かすことなんて皆無である英語部だった。
これで成績まで悪かったら、きっと中学三年生にして人生に絶望していたに違いない。
全国でもトップクラスの成績は唯一僕のプライドを守ってくれていた。
そんな小さな栄光に支えられつつも本音はどうしても変わりたかった。
簡単に言ってしまえばモテたい、可愛いくて優しくて僕じゃなきゃダメなんだと夢中になって愛してくれる彼女が欲しいだけだ。
イケメンの遺伝子を持っているはずなのに、それを生かした毎日が送れない……なんて悲しいことだろう?
結局は秀才よりイケメンの方がモテる、それは今までの短い人生の中で辛くも学んだことだ。
今更ちょっとやそっとの運動で痩せられるなんて甘いもんだとは思っていないし、なかなか結果も出ないことに必死になっている無様な姿を誰にも見せたくない。
だから、僕は決めたんだ。
中学を卒業したら大変身をして、この街を出て行ってやるって!!
勉強も必死で頑張って、実家からは通うのが困難な位の距離がある超難関進学校に合格した。
有名な学校だけに、親も離れて暮らすことを簡単に許してくれた。
そして今まで貯めて来た小遣いを全て投資し、30万さえ払えば短期間で理想の体を手に入れられと言う、今CMでも話題沸騰のジムへ卒業してすぐに合宿で参加した。
運動が嫌いな自分だって、缶詰めになってやれば何かしら結果が出るはずだ、そう信じて。
そんな緻密な計画と努力によって僕はこの春、理想の身体と生活を手に入れたんだ。
鏡に映った自分は誰よりも僕を祝福してくれている。
(ホラ見ろ! やっぱり僕もイケメンの遺伝子をちゃんと受け継いでたんだ!!)
入学式初日、早速僕の周りに女の子達が群がって来た。
あまりにも慣れない光景に、本音は積極的に近づいてくる女子達にビクついてたところもあったかとは……思う。
でも、新生『高倉陽一』は上出来だった!
僕は興奮冷めやらぬ空気を心の中にしっかりと仕舞い込み、家に帰ってまたカッコよく変身した自分の姿を堪能しようとアパートに戻り玄関のノブに手をかけた時だった。
「あれ?? 高倉くん??」
黒縁メガネの奥でキョロっとまん丸な目をさらに丸くして僕をじっと見つめて来たのは……
相葉一香で間違いない。
中2の時同じクラスだった、あの世話焼き同情女……
僕の醜態コレクションを全てコンプリートしてるんじゃないかって位、事あるごとに傍にいて……
3年に上がる前に僕に告って来た……
究極の冷やかし女っ!!!
当然そんな告白は秒でお断りしてやったがな!
彼女と目が合った僕は動揺しすぎて部屋にとび込み、全てを見なかった事にした。
ウソだろ……?
なんでアイツがいるんだよ……!
僕の過去を……酷い過去をよーく知ってるアイツがっっ!!
僕の頭の中に思い描いていた理想の高校生活が、音を立てて崩れていく……