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さようなら、ガンズソン  作者: 近 森彦
27/42

27、告知

 入院中、現実と夢の間を行き来するような状態のユウゴ。夢の中で「ガンズソン」という何者かが現れる。そして、現実としては、医師から「ガン」に侵されているとの告知を受ける。

 オレは、今、ユウゴの胃に住み着いている。ここは居心地がいい。酸素が直接やってこないし、ごちそうにもありつけそうだ。オレはここを拠点に活動を始めることにする。


 以下入力


 地球人「ヤマシロ ユウゴ」の件。


 身長・体重 175cm 70kg 年齢36歳。

 父 タツオ 母 ハナコ の下、長男として生まれる。6人兄弟。

 中学校から剣道を始め、高校では、県大会個人戦優勝の腕前。剣道三段。

 H大学文学部入学。英米文学専攻。大学では、アルバイトの日々に追われる。

 家族からの仕送りがなく、学費・下宿代を稼ぐため、絶え間なく働いていた。

 卒業直前に、インド・ネパール方面に旅行。ヒマラヤ山脈の麓でトレッキング開始。

 

 就職は、大手広告代理店に決まっていたが、入社式翌日に退社。

 アルバイト生活を始め、毎年、ネパールを訪れていた。

 バイト歴 1年目 鉄筋工

      2年目 下水道工事

      3年目 ペンキ職人助手

      4年目 自動車の陸送

 1年のうち、9ケ月程働き、資金調達。

 2~3ケ月間、インド・ネパールを訪問するという生活を送る。

 5回目の旅行中、劇症肝炎に罹患し、急遽、帰国。

 空港近くの病院に入院し、妻・モエと知り合う。結婚。

 すぐに、第一子ユウスケ出産。


 以来、交通警備会社でアルバイトしていたが、社員採用となる。

 主任に昇格。入職10年目。

 現在に至る。


 今のところ、ユウゴの「経歴」で判明できていることは、おおまかに言えば、これだけだ。身体は頑健、根性もある。欲を言えば、少し働きすぎという感がある。休みなく動いてきた男だ。今、短期間休ませておくのも、いいアイデアだ。あらゆるデーターを送信し、プランドス人の参考とする。そして、オレは、ユウゴを「宇宙戦士」として勧誘するのだ。


・・・・・・


 そして、数日後、今度は、胃カメラが行われた。胸水が溜まっているので、ユウゴは通常のようにベッドにそのまま横になり検査することはできず、背中を一定の高さ起こしたまま行うこととなった。それでもかなり苦しかった。何度も咳き込み、むせかえった。口から鉛筆の太さ程の内視鏡と呼ばれる管が挿入される。異物が身体に入ってゆく、侵入していくという感覚は奇妙だ。


 検査が終了し、病室に戻る。


 ユウゴは天井の灯りを見つめながら、思った。


 (ひょっとして、胃ガンかな。だとしたら、手術で胃を切れば治るじゃないか。切り取ってしまえばいいんだ。)


 突然の「告知」に対して、無理に自分を楽観視しようとした。


 (肺の方はなんともない。それなら手術で済むはず。胃が半分なくても生きている人は大勢いる。食事だって、そのうちに普通にできるようになるはずさ。俺は死ななくて済む。...)


 モエも毎日、夕食前、病室に来てくれた。そして、手作りの惣菜を持ってきてくれるようになった。


 「ユウゴ、食べて栄養つけようよ。病院の食事だけじゃ、ユウゴは足りないでしょ。ほら、今日は、好物の豚丼。唐揚げ少しと餃子。キャベツのサラダ...それとリンゴのタルト。」


 あっけらかんとしていて、さばさばした性格。結婚前こそ、モエの方がデートの時間を享受していたと思うが、結婚後は、どちらかと言えば無関心。すぐユウスケが産まれて子育てを。そして復職。夜勤もしている。看護師は、頭の切り替えと態度の変容がスピーディでなければ務まらない。


 モエの手作り惣菜。ベッドサイドテーブルに並べられたが、ユウゴは手をつけない。


 「どうしたの?ユウゴのためを思って作ってきたのに。病院食は、私が食べるから。ほら、遠慮なんてしなくていいよ。」


 胃カメラの検査で、朝、絶食となっていた。それでも空腹感はなく、何か胃の辺りが固い。おかしい。好物の食事が出されても、身体が受け付けなくなっているよう。ユウゴは今までとは違う変化をいっそう感じ始めた。


 倦怠感と息苦しさ、それに胃の辺りの固さ。何か潜んでいるに違いない...ガンか。俺は、やっぱり死ぬのか、このまま。)


 ユウゴは、手作り惣菜を前にして、今の自分に、何もできないことを痛感する。自分に対しても、モエに対しても、ユウスケに対しても。せっかくのモエの気持ちに、何も応えることができない。


 モエも、あんなに好きだった食事がどうして出来ないのか、きっと不安で胸の中がいっぱいなのか、それとも、やっぱり「ガン」だから、もう肉や甘いものも、身体が拒否してしまうのかな、と感じた。それなら...どんなものなら食べてくれるのか?


 さらに数日後、モエも呼ばれ、ナカジマ医師との面談が行われた。


 「胃カメラの結果です。これです。」


 デスクに置かれたパソコンの画面。そこには、ユウゴの胃の内部が鮮明に映し出されている。

 

 ピンク色の血色のよさそうな胃の壁。その奥に盛り上がった浅黒い塊。


 ナカジマ医師がタッチペンで、モニターの上から線を引く。


 「この範囲がガンです。およそ10cm×7cm。見て下さい。盛り上がった部分と、壁に沿って広がっている部分と。細胞の検査もしました。...スキルスタイプの胃ガンです。」


 (まさか。スキルス胃ガン?)


 「今日は、治療方針も含めてお話します。...ヤマシロさんの身体に、ガン細胞が広がり、胸膜や、そして心臓の周りにも広がり、胸水や心嚢水というものが溜まっている状態です。」


 「手術はできないのですか?」


 モエが医師に尋ねた。


 「今、手術は無理です。転移が広範囲です。まずは、抗ガン剤を試みます。ガン細胞をできるだけ小さくし、拡大させないことが大切です。このタイプのガンは、あっという間に全身に広がりますから。」


 (本当か。どうして俺が...やっぱり「死ぬ」のでは。)


 モエが何か言いかけた。


 「先生...」


 「何かあとありますか。」


 モエは、感情を抑えきれず、涙が溢れんばかりの瞳で、医師を見ている。


 「あ...いいです。」


 その後、明日から抗ガン剤点滴を行うことの説明がナースからあり、副作用の説明が薬剤師から行なわれた。


 (これが、現実なのか。俺は、俺たちは今、「ガン」に立ち向かおうとしている。負ければ俺には「死」が待っている。...いや、このまま死んでいくわけにはいかない。俺はどんな状況でも耐えてきたじゃないか。)

 









 



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