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さようなら、ガンズソン  作者: 近 森彦
11/42

11、銀河鉄道

 惑星プランドスでは、いよいよガンズソンが銀河鉄道に乗り込んだ。列車内で、ホフキンという若者に声をかけられるが...。

 地球はきっと、美しいのだろう。この音楽のように...アミグソンは言っていた。音楽、希望...これがプランドスの復旧に関係するのか?...俺はそうは、思わない。街に倒れ込んでいる合成麻薬中毒人、身体を売って時間をつないでいる娼婦たち、人々を救うのは、まずは食糧だ。オレは確信する。


 高層階から、再び廃墟を見下ろした。


 緑がない。この星には、もはや緑という色は存在しない。地球は緑に包まれているという。美しいというのか「緑」は。オレは見たことがない。生まれた時から、この星にはとうに「緑」なんて色は消えてしまっていた。


 木々や森が見つけられない。この星の食糧は全て、化学的に栽培されるか、近隣惑星から略奪または密輸している嗜好品や食肉。せいぜい、狭いゲージに閉じ込められホルモン注射を受け続けた家畜の肉程度。オレの体皮が、数万年前の獣のように醜く肥厚してしまっているのもそのせいかもしれない。


 緑や森があったら...きっと、この土地に、芽生え伸び、せめてわずかな光を吸収し、オレたちの肉体を少しでも美しく逞しくしてくれる食糧となるのではないか。


 父親ガンズは言っている。「地球は、なぜ、緑豊かであるのか、学んで来い。経験をして来い。」と。それなら俺の使命は、地球からデーターを送ること、そして、プランドスに「緑」を持ち帰ってくることだ。


 そして、銀河鉄道「地球行」の出発の日。


 オレは、準備したリュックサックを担ぎ、「プランドス中央駅」に向かった。遅れることは許されない。「地球行・往復・無期限有効」のチケットを専用ブースに通し、ホームへと歩く。


駅舎は人々でいつだってごった返している。この惑星プランドスから、近隣の惑星に移住しようとする貧しげな家族、この星にセールスしにやってくるアンドロイドのビジネスマン、弁当売り、アルコール売り、そして、宿がない無職の浪人たち。


 皆、せわしげに歩いている。銀鉄チケット販売所は、長蛇の列。怒涛が響き渡る。脇から列に入ろうとするものなら、たちまち腕っぷしの強い者に叩きのめされる。この星で「弱肉強食」以外のモットーは見つけられない。


 ホームに入り、列車を待つ。弁当も用意した。飲み物もある。ここまで来れば安心だ。乗り込んで、指定席に座るだけだ。5日間で「地球」まで行ける。何かワクワクしてくる。きっと、旅の間にも出会いがあるだろう。


 銀河鉄道「地球行」、列車ナンバー194が滑り込むように入ってきた。オレは、少し驚いた。


 ずいぶん旧式の列車だ。今はもう最新車両など作られていないのか。これで宇宙空間の旅が、トラブルなくできるのか。


 先頭車両の青く塗られたペイントが剥げかけ、銀のラインも切れ切れになってしまっている。乗り込む際のスライドドアは手動式。床も綺麗とは言えない。シートは固く、これでは5日間、腰がもたないだろう。


人々が次々と、荷物で膨らんだバックや丸めた毛布を抱えて乗り込んで来る。中には、窓から荷物をシートに突っ込む者もいる。幼子の手を引いた母親。家族を誘導する父親らしき男。オレのような不格好な青年。女優気取りのブーツを履いた女。そして、数人のビジネスマン風のアンドロイド。どこの惑星に向かうのか、階級章だけは立派にピンでとめられているが破れた土色のシャツを着た兵士くずれの若者。


 すぐに満席となる。この具合だと、次の駅では、乗り込めなくなるくらい定員オーバーの状態となるだろう。この席に5日間?冗談だろ。


 オレは頭の中で、地図を描くように計算してみた。


 3日目には、「火星駅」に着く。太陽系、火星は今や人気スポットなのだ。共同宇宙ステーションが飛び回り、開発が進められている。まだ、土地も物価も安い。移住するには、今がチャンスと大勢が考えている。火星駅で、大半が降りるはずだ。3日間の辛抱...。


 出発の時間が来た。ゆっくりとホームが動いていく。そこに、いつしかアミグソンが現れた。見送りに来たのだ。ガンズソンは窓を開ける。


 「元気でやれよ。たまに俺にもメールをくれな。マイクロチップは持ったか。『エリナーリグビー』聴かなかったら承知しないぞ。ハハハッ。感想を送ってくれ。」


 「おまえも、達者でやれ。惑星プランドスの復旧はおまえのようなバカ正直な理想家にかかっているよ。...対話だろ...俺はそんなぬるい言葉は信じちゃいないけど。いつかまた会おう。」


ガンズソンとアミグソンは、窓越しに叫びながら別れた。銀河鉄道ナンバー194は、たちまち速度を上げ、周囲は漆黒の闇に包まれた。


 銀河鉄道「地球行」ナンバー194。旧車両であったため、多少の振動は感じるが、宇宙への滑り出しは順調のようだ。客席は、満員。列車の中は、混雑していた。目の前の幼児がジッと、オレを見つめている。母親は飴玉か何かを差し出す。幼児は、片手で飴玉を持ち、オレに向かって手を伸ばそうとするが、ペロリと自分で舐め始める。


 こんな家族とオレは何日か過ごすことになるのだ。この満員の客車の中で。笑いたくなるような、眠たくなるような感情。オレは、窓から星々が瞬く漆黒の空間を眺める。時折、流れ星が、鉄道と交差するように落ちていく。惑星プランドスは、とっくに見えなくなっていた。


 「アンドロメダ星雲駅~。お降りの方は、準備を。」


 車内アナウンスが流れた。地球がある銀河系に近いアンドロメダ星雲駅だ。乗客が何人も入れ替わる。


 今度は、大勢のアンドロイドが乗り込んで来る。彼らは、誰もがスーツに身を包んだビジネスマン風でスタイルがよい。周囲を見渡すこともせず、自分の位置を手首に付けたスマートスペースGPSで確認している。定位置に着いた後は、身動きもせず座っているか、通路に立ちっ放しだ。


 今や、惑星プランドスを始めとし、宇宙空間でアンドロイドは、運営上かなり重要な位置を占める。彼らの人工知能は確かに、プランドス人の知能を凌駕している。金融、貿易、資源の流通...企業の上層部を占めるのは、皆アンドロイドとなっている。


 ...だからよけいにプランドス人は退廃してしまっているのだ。優秀なアンドロイドは、責任を持ち、埋め込まれた任務を確実にこなす。人々は、彼ら任せとなっている。そして、反抗的なアンドロイドはいない。彼らは、数百年前に開発・製造され始めた時から、開発主の指令は絶対である、開発主のために尽くすというチップが頭脳深くに埋め込まれている。その暗号を書き換えられる者は誰もいない。


 彼らは、故障もしない。唯一、彼らが不具合を持つときは、なんらかの感情を持って、開発主に反抗の意を示す時だ。即座に機能停止となり、彼らは不動となる。アンドロイドはマネキン化してしまう。


 アンドロイドの反抗は、我々プランドス人にとって最も恐ろしいこと。反抗されることこそ、こちらの消滅につながってしまう。アンドロイド一体一体が、何百倍かの力を持ち、何千倍かの計算能力を持っている。だから時々、高次元の化学オイルを接合部に補給したり、無期限であるはずのマイクロリチウムバッテリーを交換したりし、彼らとコミュニケーションをうまく図ることも必要になっているのだ。

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