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51.

「今日は久しぶりにお茶会をしましょう!」

 ラウス様とお義父様を見送った私達はお義母様のその言葉により、そのまますっかりお馴染みとなった庭へと移動した。

 今回は初参加となるグスタフが居るのだが、なぜか私よりも先に進んで行く。時々振り返るその顔がちゃんと着いてこいよと確認されているようで、手を伸ばして彼の身体を抱きかかえた。

「大丈夫だって」

 心配性で世話焼きなグスタフにそう告げると空いてしまった3人との距離を小走りで詰めた。

 庭へと着くといつものテーブルには椅子が5つ用意されていた。いつもよりも1つ多いその椅子は何のためだろうと考えているうちに私以外の3人と、遅れて腕の中から出てきたグスタフが席に着いた。そのことに3人が何かを指摘する声はないため、私もそのまま何事もなかったかのように席へと着くとお茶会が開始された。


 まず初めに上がった話はアンジェリカと私を除く、お義母様、お義父様、ラウス様、サキヌの4人が今度の週末に開かれる夜会に出席するから……とのお知らせだった。

 すでに知らされていたらしいアンジェリカに続き、私も「わかりました」と頷いた。するとその話題はすぐに終わりを告げて、次の話題へと入る。

「モリアちゃん、あなたはまだサンドレアに籍を置いている形になっているんだけど……再来週の、王家主催の夜会にはラウスの妻として参加してくれないかしら?」

 他の2人の様子から察するにこちらが本題らしい。

「それは構いませんが、ドレスはサンドレア屋敷に置いたままでして……」

 そんな言葉は想定だったらしいお義母様はすぐにそれの対応策を提示した。

「夜会用のドレスはもう出来上がっているからそれを着て行ってちょうだい」

 おそらくは初めの日に採寸したのを元に作ったのだろう。そういえばウェディングドレスも一ヶ月ほどで仕上げると言っていた。よほど腕のいい針子を抱えているんだなぁと感心してしまう。

 色合いが派手なのはこの際抜きにして、技術はさすが専門家と言ったほどで細かいところの装飾も凝ったものが多い。ついつい自分の服を眺めてしまう。するとそれで何かを思い出したらしいお義母様は途端に申し訳なさそうに眉を寄せると、私の手を握りしめた。

「それでね、ウェディングドレスなんだけど……まだ出来ていないの。途中でラウスがどうしてもデザインを変えたいって言い出して」

「お兄様があれだけ早めに、って言ってた割には遅いなと思ったら……。お母様ならともかくとして、お兄様が途中変更なんて珍しいね」

「どうしても白薔薇のモチーフがいいんですって」

「お義姉様なら何を着ても似合いますよ?」

「アンジェリカ、わかってないわねぇ。ウェディングドレスといえば生涯一回しか着ないのよ。私もモーチェフ様との結婚式はどうしても選びきれなくて5着は用意したものよ……」

 ウェディングドレスの話題をキッカケに始まったお義母様とお義父様の馴れ初めは、とてもロマンチックで、早速登場した、お互いに別にいた婚約者という障害を2人で乗り越えるところなんかは聞いているだけで胸が熱くなってくる。

 だがサキヌとアンジェリカはもう何度も聞いているのか全く聞いている様子などないのにその続きがお義母様の口から語られるより早くポンポンと答えが出てくる。

 そして全ての障害を乗り越え、結婚したところまで語られるとサキヌは私に向かって身を乗り出した。

「俺はお母様達の馴れ初めよりお兄様と義姉さんの出会いの方が好きだな!」

 そしてそれに同調するようにアンジェリカも興奮気味にまくし立てる。

「あの女嫌いのお兄様をたった一夜にして惚れさせたお話ですね! あれは私も好きです! 是非お姉様からもお話を聞いてみたいです!」

「それは、その……」

 その様子に私はなんと答えるべきか考えあぐねた。

 私の寝坊助の記憶は未だ奥底に眠っているのだ。すると困る私にお義母様は助け舟を出してくれた。

「いいの、モリアちゃん。モーチェス様もそうなのだけど、あの子はいざって言う時に押しが弱くて……ラウスにとっては一生を変えるだけの出来事でも、どうせあの子は何もできなかったのよね。記憶に残っていないのは仕方のないことよ」

「そんなことは……」

 そう否定しようとするとお義母様はフルフルと首を振り、そして後の2人は納得したように仕方がないとお義母様の言葉に賛同するように頷いた。

「まぁ私はそれが気に入らなくて押して押して押して、やっと手に入れたから今があるのだけどね。…………それにね、思い出がないなら作ればいいだけよ。会う前よりも会ってからの方が人間、長く生きるんだから」

 私はその日、お義母様の芯の強さを再確認したのであった。


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