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48.

「そうだ、アンジェリカ。明日はシャロンお義姉様のお屋敷に行くことになったから」

「叔母様のお屋敷に!?」

 シャロン様の屋敷に訪問する日が延びたと聞いて一番落ち込んでいたのは他でもないアンジェリカだった。そして一番喜ぶのもやはりアンジェリカなのだ。

 私の元に一時的にやって来ていたテディベアはいつも通りにアンジェリカの胸元で押しつぶされている。遠慮ない締めに心なしかテディベアの方も嬉しそうだ。彼にとってはアンジェリカの腕の中が居場所なのだろう。

「シェード、早速明日のドレスを選ぶわよ!」

「はい、アンジェリカ様!」

 鼻歌交じりで去っていくアンジェリカと、彼女の機嫌がいいことを幸せと噛みしめるシェードは彼女の部屋へと消えていく。

「さてと、私は今日中にお仕事を終わらせなくっちゃ」

 そしてお義母様もそう口に出して気合いを入れると部屋へと戻っていった。残された私も部屋へと戻り、ひたすらに筋力トレーニングに励むことにした。

 最近は腕の他にも、ダンスを練習したからか足にもちょうどよく筋肉がついてきた。サンドレアにいた頃のように何かに使うわけではないが、ないと不安になるのだ。

 増やし続けていた回数はこの辺りで打ち止めにして、これからはこの数でこなしていくことにしよう。これ以上はつき過ぎてもドレスが着られなくなると、ダンスステップの確認へと切り替える。

 ステップ確認にやり過ぎということはないだろうと何度も繰り返しているとそうこうしているうちに、ラウス様とお義父様が帰ってくる時間となっていた。


 帰宅したラウス様と食事をとり、そして夜の交流タイムへと突入する。切り出しはもちろん、アンジェリカについてのことだ。

 マクベス王子と和解したらしいということ。ハンカチを返してもらえたこと。そして今度は私もマクベス王子に会うことになったこと。

 微笑みながら聞いていたラウス様の表情が途中、一気に強張ったのは明らかだったが、私が自ら名乗りを挙げたわけではない。断れなかったのだ。

 私の押しの弱さはラウス様も分かっていてか、あえてそれを突っ込んで聞き出すことはしなかった。だがその代償としてなんとも言えない空気が流れ出した。それを無理矢理どこかへと流してしまうように他の話題、明後日叔母様の家に行くことになったことを告げると狙い通り、部屋の雰囲気は次第に和らいでいった。

「エリザはもう大丈夫なのか」

「エリザ?」

「叔母様のところのネコだよ。エリザって名前なんだ。確かモリアにも一度会ったことがあるみたいだけど……覚えてないか?」

「え? えっと、どのようなネコでしょう?」

「白くて長い毛でサファイアみたいな真っ青な瞳をしているネコなんだが……見てみたほうがわかりやすいと思う」

「白くて長い毛の、青い目のネコ、ですか……」

 その特徴に当てはまるネコなら何度か見たことはあるけど、結構多くのネコに当てはまる特徴ではある。ラウス様の言う通り、会ってみれば今まで会ったことのある子かそうでないかがわかるだろう。


「初めましてモリア=サンドレアと申します」

 そして私は今、四方八方を大量のネコたちに囲まれながらシャロン様に挨拶をしている。この空間にいる人間はシャロン様の他にはお義母様とアンジェリカ、そして私と3人だけで、初対面なのはシャロン様だけだとタカをくくっていた私だったのだが予想よりも遥かに緊張している。

 ネコが想像よりも多いのだ。

 少なくとも私の場所から見える子たちだけでも数えるのを早々に諦めてしまうほどには。そしてそんな彼らは一様に私を見定めるような視線を突き刺してくる。

 それは果たして歓迎なのか、それとも……。

 そう考えるだけで背筋には冷たい汗が伝っていくのを感じる。

 すると私の足元に群れから外れた一匹のネコがゆったりとした歩みでこちらへと向かってくる。高貴なほどに真っ白な毛をしたネコだ。その子が歩く度、他のネコたちは道を開ける。おそらくはシャロン様がネコ夫人と呼ばれるほど多くのネコがいるこの屋敷で、長として敬われているネコなのだろう。

 身をかがめ、そして彼か彼女かわからないその子へと自己紹介をする。

「モリアといいます。どうぞよろしくお願いします」

 頭を上げると海の底のように真っ青な綺麗な瞳と視線が混ざり合う。するとそのネコはまたゆっくりと歩みを進め、そして私の曲げた膝へと手を乗せた。

「にゃ」――と一言、その子が告げるとそれを合図としたかのように周りで傍観を決め込んでいたはずのネコたちは私へと一気に距離を詰め出した。

「え、ええっと……」

「ごめんなさいね、モリアさん。ほらみんな、モリアさんが困っているでしょう? エリザも、久しぶりに会えて嬉しいからってはしゃぎ過ぎよ」

「エリザってこの子が……」

 この子こそラウス様の言っていたネコだ。シャロン様も久しぶりに会えたと一度私がこの子と会ったことがあるように言っている。

 確かにこの目、一度どこかで見たことがあるような……。

 海のように青くてよく澄んだ瞳で……とそこまで考えるとなぜかイメージの中に魚が割り込んでくる。それも海の魚ではなく、サンドレアでよく獲れる川魚である。グスタフが好物としていた魚で、サンドレアにいたころはよくお供えしていた…………あ、そうだ。思い出した。

「あなた、グスタフのところに来てくれた子ね!」

 あれはそう、ちょうどシャロン様からのお誘いを断り、すでに日課となっていたグスタフへのお供え物を家の裏に置きに行った時のこと。こんな田舎にあんな綺麗なネコがいるのだと目を奪われたのだ。それもよりによってその子がいたのはグスタフの身体が眠る場所で、彼にこんな美しいお友達がいたのかと嬉しくなったのだった。

 そうか、あの子はエリザという名前だったのか。

 嬉しくて一方的に話しかけたり、グスタフ用に用意したお魚を分けてあげたりしたのだが、流石に名前までは分からなかった。そしてその子が来たのはその日、一日だけだった。

 まさかラウス様達の叔母様のお屋敷で再会するなど、夢にも思っていなかったのだ。


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