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32.

「モリア様、少しよろしいでしょうか?」

 ラウス様とお義父様を見送った後、シェードにそっと声をかけられた。いつもアンジェリカの側にずっといる印象のある彼が一人でいるとは珍しい。

「モリア様は本日、何かご予定はおありでしょうか?」

 なぜそんなことを聞くのかわからなかったが、私の予定といえば来週のお義母様の言っていたラウス様の叔母様とのお茶会くらいなものだ。それ以外は全くといっていいほどこれといった予定は入っていない。

「いえ、何もありませんよ」

 そう答えると顔を輝かせて「本当ですか!」と聞き返す。

 血の繋がりはないだろうに、なぜかアンジェリカとそっくりなその表情に「はい」と答えるとシェードは勢いよく頭を下げた。

「本日、アンジェリカ様のご予定に付き合ってはいただけないでしょうか?」

「アンジェリカの、ですか?」

「はい。実はアンジェリカ様は本日、ダンスのレッスンのご予定が入っていらっしゃるのですが、現在『反抗』中でして部屋から出ていらっしゃらないのです」

「反抗中?」

「はい。婚約者の王子様とお会いになる一週間ほど前はいつもそうなのですが、ここ数日はモリア様とお会いできるのが楽しいらしくずっとお部屋から出ていらっしゃっていたのです。ですが、その……本日の朝からお引きこもりになっていてしまっていて……。ですが、モリア様がいれば、モリア様とご一緒できればきっとアンジェリカ様もレッスンを受けられると思うのです!」

「ええっと……私で良ければ喜んで?」

 アンジェリカが引きこもっている理由が婚約者の王子様と会いたくないからであれば、私が行ったところで一緒にレッスンを受けるどころか部屋から出て来もしないと思うのだが……。毎回のことで策がいよいよ尽きて藁にもすがりたい思いということだろう。どうせ私も暇で、役立たずなのだ。こんな時くらいひと肌でもふた肌でも脱ごうではないか!

 先導されるがままにシェードの後をついていくとそこには固く閉ざされた扉があった。試しにドアを引いても押しても開くことはない。どうやら内側から鍵を閉めてしまっているようだ。

「アンジェリカ様! アンジェリカ様! モリア様がいらしています。どうか鍵を開けてください」

 私の後ろでシェードは必死にドアの向こう側のアンジェリカへと呼びかける。あくまで本日のエサは私としょぼいものなので、そうそう簡単に引っかかってくれるとは思わなかったのだが、中からはアンジェリカ様が移動しているのかゴゾゴゾと小さな音が聞こえてくる。

 そしてそれに続くようにして、ドア越しのせいかくぐもった声が聞こえてくる。

「お義姉様?」

 それは確かにアンジェリカの声だった。ドアの向こうのアンジェリカの代わりにドアへと寄り添って優しく答える。

「はい。モリアはここにおります」

 すると少しだけドアに隙間が出来た。

「お義姉様……」

 隙間からほんの少しだけ顔を出すアンジェリカに安心したのかシェードの顔は一気に緩む。けれどそれを瞬時に引き締め、アンジェリカの『反抗』を終わらせるために畳みかける体制に入る。

「アンジェリカ様。本日のダンスのレッスン、モリア様がご一緒して下さるそうです。ですから出てきて朝食をお摂りになってください」

「本当、ですか?」

「ええ。アンジェリカのダンス、見せていただけませんか?」

「ええ! ええ、もちろんです!」

 ダンスを見せて欲しいと言っただけなのだが、それだけでアンジェリカには効果抜群だったようで、わずかだった隙間はやがて大きく開かれた。

「シェード、今すぐに用意しなさい! お義姉様に見せるのなら完璧なものにしなければいけませんわ! 先生はもう来てらっしゃるの?」

「もうすぐお見えになると思います」

「なら早く朝食を摂らなくっちゃ。お義姉様!」

「は、はい!」

 やる気を見せたアンジェリカに触発されるように返事をするとまだ小さな手で私の手を握りしめた。

「必ずやアンジェリカはお義姉様に完璧なダンスをお見せいたします。夕刻、シェードをお義姉様のお部屋に向かわせますのでどうかそれまでお時間をいただけないでしょうか?」

「え、あ、はい」

 完璧なダンスは求めていないのだが、火がついたアンジェリカはもうやる気満々だ。ここでわざわざ水を差すこともないだろう。

 去りゆく小さな頼もしい背中とこちらに深く礼をしてから去っていく背中に、今から夕刻までダンスのレッスンを続けるつもりなのかと聞きたくなってしまったのだが、それはシェードが部屋に来ればわかることなのだろう。


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