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27.

 習慣というものは残酷だ。

 寝るまでにどんなに余計な時間を費やしたとしても同じ時間に目が覚めてしまうのだから。おかげで寝不足で身体が怠い。そして鏡が手元にないから確認はできないものの、眼の下にはうっすらとクマができていることだろう。

「今日、ラウス様との外出なのに……」

 思えば数日ぶりの外出だ。この屋敷に来てからというものしきちのそとには一歩たりとも出ていない。どこへ行くのか、何を目的に行くのかもわからないがどちらにせよこの辺りは領地の山とは違って土地勘がないため、好き勝手は出来ないだろう。

 まぁ今さらどうする気もないが……。

 だが太陽の下を歩くだけでも楽しい気分になることだけは確かだ。出来ることなら無心でひたすらに歩き続けたい。ヒールは疲れるので裸足で。草原の上を歩いたりしたら絶対に楽しい。…………私だけが。明らかにラウス様は楽しくないだろう。

 ひたすら歩き続ける私と木陰で本を読むラウス様の姿が簡単に予想できる。わざわざ好きでもない女と外出してまで本を読む意味がわからない謎の光景だ。

 そんなことより根本的な疑問なのだが、せっかくの休みを私なんかと過ごしていいのだろうか?

 買い物に行くにしても荷物持ちくらいにしかならないだろうに。

「本当に今日、どこに行くんだろう?」

 眠いことなど頭からは離れていき、その疑問が頭の大半を占める。まるでお出かけに連れて行ってもらえる子どものようだ。自分の意思だけで外出が決められない今の状況はまさしく子どもと一緒といえばそうなのだが……。

 そうこう考えているうちにドアが弱々しく叩かれる。まだ日も昇ったばかり。誰が一体、何の用だろう?

「はい?」

 そう返してからドアをゆっくりと開くとそこには数人の使用人がたくさんの洋服と靴を持って笑顔で立っていた。そしてその後ろからひょっこりと顔を出すのはお義母様だ。

「モリアちゃん、お着替えしましょうか?」

 どうやらこの数日で私の起床時間は把握されていたらしい。わずかに開いた隙間を開いてお義母様は部屋へと入って来る。そして使用人もその後に続いて入ると準備を開始した。

「お義母様、これは?」

「私は今日お留守番でしょう? だからせめてお着替えだけでもお手伝いしようと思ってね。私が昔気に入ってたアクセサリーなんかも用意したのよ?」

「そ、そんな、服だけでも申し訳ないのに、アクセサリーなんか借りれません!」

 人違いとわかってからは、毎日着させてもらっている服は供給されたものなのか貸し出されたものなのかよくわからないが、必要不可欠のものとして遠慮なく着ることにしている。だがアクセサリーは違う。なくても困らない。そして壊したりなんかしたら借金がカサを増していく、なんとも恐ろしいアイテムなのだ。

「借りる、じゃなくてあげるのよ。モリアちゃん、荷物はほとんど持ってこなかったし、その中にはアクセサリー、なかったでしょう?」

 それはそうだ。アクセサリーなんて真っ先に売り払った。元々数があったわけではないそれらは災害の修復作業代に当てた。そんなに高くは売れなかったが、それでも売らないよりはマシだったのだ。

「……それを貰うことは出来ません」

『借りる』は第一に壊してしまったらどうしようかと心配をするが、『貰う』はそんな心配などする暇もなく拒むだけだ。

 好意だからこそ明確に拒まなければいけない。

「なぜ?」

「貰う権利がありません」

 私は人違いの嫁だからだ。悲観するわけではなく、事実としてそれは私の胸の中にある。

 借金を返済するために、愛よりも金をとった私は線引きをしっかりとしなければいけないのだ。

 私がこの場に立つのは、いつか探し出してみせる本物の彼女がやって来るまでの期間なのだから。

「モリアちゃんは私の義娘なのに……」

 私の言葉に納得いかないように頬を膨らますお義母様だが無理にそれを強要することはなかった。

「まぁそうね……『いつか』でいいわ」

 そんな『いつか』などやって来ることはないのだが、そう言って引き下がったのは彼女なりの優しさなのだろう。その代わりなのかそれから朝食の時間までお義母様は一片の妥協などせずに私の着せ替えを続けた。

 寝不足と相まって朝から着せ替え人形のように何度も着替えさせられてさすがに疲れた……。

 服も決まり、仕上げに使用人が髪を梳いてくれている間、うつらうつらと船を漕いでしまったのは仕方のないことなのだろう。


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