08
日付の感覚が無くなるほどの時間を部屋の中で過ごした。頭の中を覆い尽くす恐怖を忘れようという努力は何の効果ももたらさず、頭を抱え込んでは唸る日々が続く。時より聞こえる親の声がまるで心臓を握りつぶされるような痛みを覚えさせどこにも逃げ場はないのだと実感させた。
手首から血が流れている。
冷たいソレの刃が体に差し込まれていくのを感じる。異物が体に侵入してきたことにより全身に拒否反応の様な電流が走り、『今すぐ抜け。』と脳内で誰かが叫んでいるように思えた。刃から柄に伝わる血は手を染め許容量を超えると手首から床へと滴っていった。
しかし、恐怖は消えなかった。
よろけた体は壁にぶつかり徐々に床へと崩れ落ちていく。広がっていく血の池はドロドロとしており、事故で出血した時のものと到底思えなかった。
視界が段々と薄暗くなってきている。そして、ここまで来てようやく脳が活動を止め恐怖からの解放が与えられた。
これほどまでに幸福な時間を今まで味わったことはない。
柄を握っていた手はほどけ床へと転がった。反動で刃が少し体から抜けそこから一気に血が噴き出していく。もうそのころには俺の意識はなかった。
そして気付くと僕はそこに立っていた。