02
00及び01の内容を変更いたしました。
急に話が変わり混乱させてしまい申し訳ありません。
影文
唐突に戻った意識は周囲を見ることだけに集中してしまう。
白い天井は俺の頭の中でも映し出したかのように何もなく、思考の再開まで時間が掛かった。ゆっくり首を回すと母と父が長椅子に座り眠っていた。その後ろにある窓はカーテンが掛けられていて、光が入って来ないことから夜なのだと気付くことが出来た。そこからようやく思考が再開する。
病院?病院だろう間違いなく。どうなってるんだ?
思考が再開したのはいいものの今度は情報が多すぎて混乱してしまった。眠りにつく前のことを思い出そうとするとすぐに思い出せたので今の状況を全部理解出来た。
どうやら死ななかったようだ。残念というわけではないがこうなってしまうと最後に彼女に言おうとした言葉がかなり恥ずかしいものに思えてしまい悶絶した。
「あぁ・・。」
少し動いて気が付いたのは体のあちこちを固定されているようだ。右足にはギプスが取り付けられており左腕は点滴の針が刺さっている。鼻には空気を送る管が置かれていて・・・、これ以上体に施された処置を言ってしまうと問題にゴホンゲホン。十八禁になるからね仕方ないね。
長く寝ていたのだろうか、目覚めてから全く眠気が来ない。かと言って親を起こすのも申し訳なく黙って天井を見ていることにした。
体感時間で三時間くらい天井を見ている状況を長々と語ってしまってもつまらないので割愛させてもらう。
窓から光が入り始めてしばらくするとドアのノックが聞こえ看護師が入って来た。定時の確認だろうか、その足は真っすぐと僕のところに来た。どうやら点滴の交換のようだ。とりあえず世話をしてもらっているのでお礼を言おうと声を出したが喉が枯れきっており、掠れたものになってしまう。
「あの・・。」
こちらの声に気が付いた看護師は手早く点滴の交換を済ませるとコップに水を入れストローを付けて飲ませてくれた。
「ありがとうございます。」
「いいえ。」
白衣の天使は30歳代のおばちゃんだったが気の利いたいい人だった。
看護師は両親を起こした後、先生が来るまで診断が出来ないのでしばらく待ってもらうこと、他の患者さんのところも回らなければならないことを告げて部屋を出ていった。両親は俺が起きたことに対して特段感動の反応をしていなかったので最初から命の危険がある状態ではなかったようだ。しかし、こうなってしまうと親と何を話せばいいかわからなかった。
母は今の気分や、必要なもの、痛むところなど心配して次々と質問を投げかけてきた。とりあえず再び乾いてしまった喉を潤すために水をもらった。父は「大丈夫か。」と一言聞いた後、問題ないと答えると仕事に向かう旨を母に伝えて家へと帰っていった。
父は警察官である。母から聞いた話では例の事故の現場に第一臨場したのがうちの父親本人だったらしい。息子が血まみれになって倒れている現状を見て父はどう思っただろうか。その解答も母が知っていた。始めはとても動揺したようだが、一警察官として恥じることのない応急処置、救急隊への確実な引き継ぎ、犯人の逮捕を行ったらしい。現行犯逮捕の続きを行い、上司へ事情の説明を済ませる頃には既に夕方になっており、父は警察署から着替えもせずに病院に駆け込んできたらしい。『親として犯人よりも子によりそっていろ。』と言う人もいるかもしれないが、僕にとっては恥じることのない父の姿だった。あの状況で犯人が車で逃走を始め他の被害者が出る可能性もあった。それに僕はよく知っている。ソレを言ってくる奴らに限って父がもし僕を最優先に見ていて犯人の逮捕などを遅れて応援としてくる同僚の人に任せていれば、『犯人が目の前にいるのに見逃して市民を危険に曝すなんて何を考えているんだ。』と訳の分からない理屈を立ててくるのだ。しかも、『みんなそう思っている。』だとか『それが常識だ。』と吐かしてくる。
『お前はいつからみんなの総意になったんだ。』『常識は時と場合によって二転三転するものであって、そもそもお前の言っていることは“常識”ではなくて『ダブルスタンダード』だ。』と言ってやりたいところだ。まあ、こういう輩を注意したところで簡単に逆上して怒鳴りつけてくる面倒な者がほとんどなので煽りが続かない限り無視が妥当である。しかも一度相手にするとしつこく必要以上につけ回し、罵って来るのだ。そんな輩の言葉よりも父の行動の方が僕は数千倍も信用できる。
しばらくするとドアのノックが聞こえ先生と思われる人が入ってくる。寝たままで一通りの診察を受け、脳へのダメージが無いか複数の質問がされるとスキャンを行い脳震盪による脳内出血がないか確認を行うことになった。結果は何も問題はなく。外傷以外は至って健康ということだった。右足は骨折しているがリハビリを含め二か月程で松葉杖での行動が出来るとのことで唯一の問題は出血量がかなり多かったらしくしばらくは点滴の生活をすることになるらしい。確かにスキャンの時に起き上がろうとしたらあまりに力が入らなかった。脳へのダメージが原因かと思い不安だったが、安静にしていれば問題ないようだ。
生命の心配が完全になくなったことを知った母も着替えを取りに行くために帰っていった。
救急搬送で入院する場合、他の患者さんの迷惑になることも考えて一人部屋に入れられるらしい。そんな一人部屋での時間はとても静かなものだった。
二か月という期間を聞いて少し胸が高鳴った。その間学校を休むことが出来るからという訳ではない。そうではなく登校したらまた彼女に会うことが出来るということについてだ。それと同時に早く学校に戻らなければという緊張感も抱き始めている。
一度しっかりと感謝の言葉を伝えるのが、入院中の俺の目標になった。