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力が欲しいか
これに回答したとして、そしてもしその力が貰えたとして、だからどうなるというのだろう。
強大な力を手に入れたところで、万能の能力を手に入れたところで、もう一度『自分』として生きるなら人格が変わることはない、『もし、自分に力があったら』という考えは言うならば甘えだ。僕は例え力を持っていたところであの体験をしていただろうし、もし、力があったところで、
僕は彼女を助けなかっただろう。
それに、与えられた力を自分の力面して満足感を得ている人間ほど気持ちが悪いものはないだろう。
だから僕はこう答える。
『ないもいらない。』
その時だった。空白と思っていた周囲が急に色づき始め地面もそれに染まっていく。そしてその色は徐々に現実味を帯びて来る。上には晴天の空が広がり、下にはおよそ数百メートルのところに本物の地面が見えた。どうやらあの空間は色が染まっていたわけではなく存在が薄くなっていたということらしい。
次の瞬間俺は空間と共に存在が薄まっていた椅子をすり抜け地面に向かって一直線に落ちていった。風圧でろくに見えもしないが確かに地面は近づいていて脳裏に『死』が浮かぶ。何でもないと思もっていた『死』もこうやって意識がはっきりとしているとわずかながらに恐怖の対象となった。
打開策を探そうとして周囲を見渡すと僕と同じ高度から落ちている二つの存在と一つの反射する物体を見つけた。そうすると逆にその三つに興味が行き過ぎてしまい気付くと地面まで数十メートルしか残されていなかった。
せめてこの恐怖を払おうと思い目を瞑り最後の瞬間を待った。
しかし、いくら待っても地面と衝突しないため片目を開いてみると高さ20センチほどのところで体が固定されていた。どうなってるのか分からずジタバタしていると落下を再び始め地面に顔からぶつかった。
「痛い。」
鼻血こそ出ていないが鼻を盛大にぶつけてしまった。体についた泥を払いながら立ち上がってみると、まるで憑き物が落ちたかの様に体が軽くなっていることに気が付いた。
再びここ何処状態になってしまったわけだが、先ほどと違い周囲に森があり、道があり、遠くに微かに建物が見える。一切見覚えのない場所だが、ここまでくるともう驚くことはない。浴びる日光がとても優しくとてものどかな所なのだという印象を与えた。
しかし、そんな状況も一発の銃声でかき消されてしまった。