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霧崎守の幸福論  作者: 影文
10/16

09

 その空間は只々白く、見上げても、周囲を見渡しても果てが無いように見えた。立っている場所も地面と言っていいのか床と言うべきなのか曖昧で強いて言うならばまるで水に立っている様な不思議な感覚だった。ここは何処なのか、そう思う前に目の前に置かれていた一組の机と椅子に興味を奪われた。いつの間にか忌々しい制服を着て、登校に使っていた靴を履いていることも気にならないほどに今の状況は異常で、とっさに理解した『机がある。』という思考にまるで安心感を得ている様に今はただその机に向かう事しか頭に浮かばなかった。一歩また一歩と近づくごとに地面ではまるで波紋が生まれるかのように綺麗な円形が足元から広がっていった。

 置いてあった机と椅子はどうやらこの足場と同じ素材で、水に触れている様なこの独特な手触りは何故だか心を落ち着かせた。そうやって視野が広くなったおかげだろうか、今更身に着けている物に気が付き一気に感情が冷め冷静になることが出来た。いや、冷静ではなく周囲に無関心になったために驚きの感情が無くなったという言い方の方が正しいのかもしれない。ここが何処だろうとどうでもよく、さして興味がないという感情が冷静さにも似た状態にまで僕を戻した。

 そして机に置いてあるものにも気付くことが出来た。

 それは机と溶けて混ざり合いそうなほど同じ白色だったので、最初は机にゴミでも乗っているのかと錯覚させたが、手に取ってしまえば見間違うことはない、一枚のプリントだった。どうやらゴミ粒だと思っていたものはプリントに書かれた文字だったらしい。近くに鉛筆も見つけることができ、今の頭で想像がついたのが、このプリントに何か書くということだった。だとするとプリントに書かれている文章が気になるところだ。

 再びプリントに目を移し横書きされた文章を読む。

 1.以下の問に該当する番号に丸をつけなさい。

 (1) あなたは自分の人生に悔いはありませんか。

        a ある b ない c 分からない

 (2) あなたは死んでよかったと思いますか。

        a はい b いいえ c 分からない

 ・・・・・


 アンケートであることには間違いなさそうだが、これを書く意味がよく分からなかった。文章の内容からしてどうやら僕は死んだらしい。神様がいるとは思ったことはないが、かといって死後にこんなものに答えるだなんて誰が想像できるだろうか。そして、一つ気になることがある。

 どうして僕は死んだのだろう。

 必死に自分のことについて思い出すが、今の格好のせいなのか登校していたという記憶が真っ先に出てきた。

 そして、

 そして、その後・・・・・事故で。

 そうだ。車に跳ねられた。そうか、そんなことで僕は死んだのか。

 そう考えると妙にしっくりきた。自分が死んでしまったという現実には確かに驚かされたがあの日常から抜け出せたという喜びの方が正直大きく思える。

 しかし、このアンケートに答える意味がどうしても分からず立ち尽くした。だが、今更悩んでいても仕方がないので、渋々だが椅子に座ってこの問いに答えていくことにし、質問の趣旨がよく分からなかったためほとんどがcの分からないと答え、一問また一問解くごとに自分は死んだのだと改めて自覚していった。そして、最後の問にたどり着く

 2.もし次の人生をおくるならどのような力が欲しいですか。


 

 思わず僕は大声で笑った。


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