六章以降
~ワカバたんの害虫策~
【VS芋虫】
「余裕だよ~。だって草っぱらに放るだけだし」
「最初は涙目だったのにね」
「……。だ、だってあんなちいさいのがこれからたった一匹で雨に打たれたり他の虫に狙われたり好物でもない草を食べながら生きていかなくちゃならないと思ったら、かわいそうになっちゃって……」
「キャベツに付いた芋虫一匹にそこまで同情するあんたがすごいわ」
【VSアブラムシ】
「多いし小さすぎるから、一匹一匹退いてもらうのはちょっと時間がかかるんだよね」
「(退いてもらうつもりだったのか……)じゃあ今はどうやってんの?」
「茎部分にね、ちょっと霊力を込めるの。そうすると、その部分が固くなって、虫が付いても歯が立たなくなるから、枯れにくくなるんだよ」
「へー。でもさ、そういうのさいしょっから出来ねえの? 葉とか実とか全体的に霊力上乗せしとけば、色々と楽なんじゃ?」
「そうしてもいいけど、テスと一緒に食べる分とひとに売る分、栄養価がそんなに変わらなくなっちゃうからちょっと嫌かな」
「ふーん(ワカバちゃんって博愛主義に見えて結構贔屓するコだよな)」
【VSダニ】
「アブラムシよりもっと小さいから、大変なんだよね」
「ふむ。されば如何様にしている?」
「えっとね、本性に戻って葉っぱを舐めるの!」
「……!?」
「リョクは同族だから知ってると思うけど、わたし達の体液ってちょっとした霊力持ってるでしょ。新芽の時点でダニが出そうなところ軽く舐めておけば、炎症しないんだよ。同時にアブラムシもそこに付かなくなるし」
「……」
「リョクどうしたの? いきなり悔しそうな顔して」
「(我輩より先にかのような幸福を味わっている生命体がいるのか)いや、特段気にすることではない」
「そう?」
麒麟は意識的に生き物を殺すことが出来ない(食物となる植物は別)ので、害虫駆除も大変なのでした。
そしてその植物相手に対抗心燃やすリョクさん(「おれだってまだ角なめてもらってないのに!!」的な)
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【ナンパとテス】
「あー疲れた……!」
「テス、どうしたの」
「町で男が付きまとってきたの。忙しいってのにしつこくて。振り切るのに苦労したわ」
「ナンパ?」
「違うわよ。知ってるでしょ、いつもワカバと買い物しに行く粉屋の一人息子よ」
「名前はアレクさんだったよね。それで、どうして?」
「もう勘定は済ませてあるのに何か言いたそうだったから、何かご用件があるんですかって訊いたのよ。そしたら『そこの喫茶店でちょっと話さないか』ですって。魂胆ミエミエでやんなっちゃう」
「魂胆?」
「ワカバ狙いに決まってんでしょ。あいつ、ワカバと店に入るたんびにいっつも都合よく店番してると思ってたら、そういうことだったのよ。ホント、見損なったわ」
「言いすぎだよ、テス。何か別に大事な用があったのかもしれないじゃない」
「間違い無いわよ。だってワカバをナンパするいつもの男どもとおんなじ顔つきしてたもの。鼻息荒くて耳まで真っ赤で」
「そうなの? でもそれだけで突っぱねるのは、アレクさんかわいそうだよ。お世話になってるひとだし、そういう用事ならわたしから断るし」
「あたしだって鬼じゃないわ。正面から告白する気なら別にいいわよって意味で、今度ワカバと来た時に聞きますねって水をあけたのよ、でも」
「でも?」
「『それじゃ駄目なんだ、少しだけだから』って急に目の色変えて迫ってきたの。きっとワカバに内緒で外堀埋めようとしてたのよ。卑怯な奴」
「……」
「これだから若い男ってのは信用がおけないのよね。小麦粉買うたびオマケしてくれる、優しいひとだとばっかり思ってたのに。あんな下心があったなんて。今度から別の店で買うことにしようかしら」
「ねえテス、」
「なあに」
「もしかして、だけど。アレクさん、わたしじゃなくて、テス本人を誘ってたんじゃないかな」
「そんなことあるわけないでしょ」
「……どうだかなあ」
※テスが無自覚に潰した(自分の)恋人候補の数は結構多かったり
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【ティリオと蒼のの会話】
「ああそれにしてもいい夢だった。そのせいで、ひどく気分がいいんです」
「そうか」
「おや、どんな夢かとは訊かないんですか」
「俺の思い出が俺のものであると同様に、貴殿の思い出も貴殿のものだ。夢も、それを引き起こす記憶も、無意識下での感慨も、他者が無理矢理暴くものではないと、俺は考える。なので、訊かない」
「無関心かと思ったら、不思議に真面目なひとですね、あなたは。普通、話の流れからして訊くのでは?」
「訊いて欲しいのか。ならば、訊く。どんな夢か?」
「……、真面目だし、変なところで律儀なんですね、イヴァっていう獣は。知らなかった……」
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2020/8/14お盆期間限定文を下げて、ぷらいべったーに移しました。メタ要素入ってたんで…