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13話 手袋を叩きつけろ

 嫌な男だ、というのがユウの率直な感想だった。

 整えられた金髪に甘い顔立ち、すらっと長い手足。美男子の条件は十分過ぎるほど満たしていたが、それをもってしても他人を見下す目は隠しきれない。


「ねえ、答えてくれる? このゼグラス=ヴィオリーラが聞いているんだ。答える義務があると思うけど?」

「ゼグラス、今は授業中だ。後に――」

「魔術も使えないやつは黙ってくれる? 大体意味ないじゃん、こんな一般人に魔術なんか教えたってさぁ。魔術は才能が全てなんだから!」


 学生たちは、嘲りに怒りを滲ませながらも目を伏せて関わり合うのを避けていた。イッサは、苦々しい顔で舌打ちを隠すこともしない。


『かなりの鼻つまみ者みたいだな……』


 アインもユウに同意する。


『典型的なエリート魔術師ですね。こんなのがまだ残っていたのが逆に驚きです』

『有名な家なのか? ヴィオリーラ……だっけ』

『昔は風に関する魔術で名を上げた家ですね。今じゃこのザマみたいですが』


 馬鹿にした物言いに苛ついているのか、つまらなそうに言い捨てるアイン。それに気がついていないゼグラスは、尚も気安く喋りかける。


「あんた、ラピスと同期なんだって? すごいよねえ、生まれながらに魔術を使える授かりし者(ギフテッド)が二人も同じ魔術協会に居たなんて」

「…………それが、何か」


 不快感を露わにしたアインの声にも構わず、ゼグラスはニヤついた顔で言う。


「どうせ、嘘なんだろ? 授かりし者(ギフテッド)だの、全ての元素を扱えるだの、ラピスと並び立つ天才だって言うのも」

「……ッ!」


 その言葉に、アインは肩を震わせ唇を噛む。ユウに伝わる感情は、怒りではなく自己嫌悪だった。


「あれ、図星? やっぱりそうかぁ! だよなぁ、ハハハッ!」

「……さっきから、何が言いたいんだ」


 その声は、アインではなくユウのものだった。声を借りることも忘れ、彼は叫ぶ。


「はっ? 誰、誰が喋ってんの?」

「何が言いたいと聞いているんだ優男! アインに何の用がある!」

「な、なんだよ……誰だよお前!」


 姿無き声に教室がざわつくが構いやしない。黙っているよりもずっとマシだ。パートナーをここまで馬鹿にされて、剣のフリなんてしていられるか。

 狼狽えるゼグラスに、ユウは、俺はここにいると叫ぼうとし、


『……その必要はありません』 


 静かな、しかし強い意志を感じさせる声に止められる。


『アイン……けど!』

『ユウさんが幾ら叫んだ所で、彼には届かないでしょう』

『それでもだ! あんだけ好き勝手に言われて……絶対に違う!』


 アインが授かりし者(ギフテッド)とか魔術の天才かどうかなんて自分にはわからない。ラピスという人物と比べて優れているのかもわからない。


 だけど、あんな奴に馬鹿にされることだけは絶対に間違っている。それだけは、この僅かな時間でもわかっている。


『はい……だから、ここからは私がやります』


 力強い決意の言葉と共に、彼女は顔を隠していたフードを取り去る。青い双眸は、まっすぐにゼグラスを見据えていた。

 明かされた素顔に、学生たちは驚きの声をあげる。そして、ユウも彼女が自らフードを取ったことに驚いていた。


「ゼグラス=ヴィオリーラ。貴方は『本当に強いのか』と問いましたね」


 彼女に怯えや迷いは見られない。落ち着いた声で淡々と言葉を重ねていく。


「そ、そうだよ。けど、嘘なんだろ、全部さぁ!」

「一部は嘘ですが……」

「ほら! 所詮ぽっと出の魔術師と僕では差が――」


 ゼグラスは、大袈裟な身振りで圧倒されているという事実から逃れようとするが、


「貴方を這いつくばらせて後悔させるくらいのことは出来ます」

「なっ――」


 放たれた宣言に、言葉を失い後ろに一歩を退く。冗談で言っているのではないと、本能で察したのだ。

 そして、その事実は彼には耐え難い。それをかき消すためには、怒りが必要だった。


「はああああああ!? 僕に敵うとでも思ってるの!?」

「そう言ってるんですよ、優男」

「……このっ! いいだろう! 勝負だ、表に出ろ!」


 真っ赤な顔で叫ぶゼグラス。対してアインは、


「イッサさん。そういうわけで、授業の続きは外でやります」


 涼しい顔でそう言った。

次話30日10時頃投稿予定です。

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